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ダンさんと別れた俺達は、宿で普通の夕食を食べた後、月が出る時間まで待ち、聖奈さんを伴い魔法で転移するところだ。
「でも、この工房が売れなかったのは残念だったね」
「そうだな。ダンさん曰く、『父親が建てた工房』らしいからな」
「その後もダンさんらしかったね!私がお金を余分に渡しても受け取らないんだもん」
「ああ。『俺は施しは受けねぇ!自分の金は自分の腕で稼いでやらぁ!』だもんな」
あれ?俺、モノマネで食っていけるかも……
「ふふ。ダージンさんにはお金借りてたのにね」
そりゃあ、年下の女の子には借りれないよな……
「月が見えたな。お喋りは終わりだ。いくぞ」
聖奈さんは変わらず抱きついてきた。
マンションに転移した俺達は、予定通り車で会社へと向かった。
道中、聖奈さんは税理士さんに連絡して、バイト募集の進行具合を聞いていた。
「聖くん!良い人が見つかったみたいだよ!それも二人!」
「やったな。後は今いる二人と、上手くやってくれることを祈るくらいだな」
「そうだね。そればかりはまだわからないね」
そんな話をしていたら会社に着いた。
「じゃあ俺は家具を持ってくるよ」
「うん。私は他の事をしてるね」
聖奈さんと別れて、俺は一階の家具置き場から転移した。
ダンさんの工房から家具の搬入を終えた俺は、聖奈さんが待つ二階へと向かった。
「こっちは終わったぞ。そっちはどうだ?」
「聖くん、これ見て」
聖奈さんはパソコンの画面を見るように促してきた。
「おお。かなり売れているな!」
見せられたのは、家具の売上推移表のような物だった。
「うん。今までもちょこちょこ売れてたんだけど、昨日から3倍くらい売れてるの」
「ん?何でだ?」
「私も気になってさっき調べてたんだけど、どうやらSNSで人気のインフルエンサーが、ウチの家具をそのSNSで自慢したみたいなの」
インフルエンザ?はて?流行り病かな?
「予定外だったけど、これで家具の売れ行きは心配しなくて良さそうだね!」
「お、おう。そうだな」
よくわからんが、順調なら問題ない!
ちなみに俺はインフルエンザには罹ったことはない!
「そうなると、今度は職人さんが足りないかな…?」
えっ?これ以上増やすのか?
「それとも、今の勢いに乗じて家具以外の販売に力を入れようかな…?」
新しい事は覚えられませんっ!今の会社の中身だって把握してないのに……
「まっ、それは聖くんの運に頼ろうかな?」
聖奈さんがこちらを向いて、悪い笑みを浮かべている。
いや、俺は宝くじも当たったことないですから……
当たり外れの前にそもそも買ったこともなかったな。
「よくわからないけど、任せるよ」
聖は必殺技丸投げを発動した。
聖の攻撃力が極端に下がった!!
聖の防御力が極端に下がった!!
聖のやる気は元々低かった!!
「あ!後、ソーラー発電システムも頼んでおいたから、届いたら取り付けお願いね!」
「それは馬車の?」
「違うよぉ。家のやつだね!」
異世界の屋根は重さに耐えられるのか?
「そもそも足場もないんだけど…」
「そんなの落ちなかったら大丈夫だよ!」
落ちない為じゃない…落ちた時のためにあるんだよ……
「いや、パネルや土台を持ち上げるのに足場無かったらどうするんだよ?」
「そんなの転移で持っていけば簡単でしょ?」
そりゃそうだけどさぁ……
あんなに重たそうな物を持って不安定な屋根に転移するのかよ……
「わかった…何とかするよ」
「ソーラーで家電が使えたら、冷えたビールが地球じゃなくても飲めるね!」
!
さっきまで気落ちしていたが、その言葉で俄然やる気が出たぜっ!
かかってこいっ高所恐怖症!!
その後はミランへのお土産を買って、異世界へと戻った。
「そうだったんですね」モグモグ
いや、食べるか喋るか、どっちかにしろよ……
「ミランちゃんはどっちが良いと思う?」
「私ですか?うーん。もう少ししたら食器も売るのですよね?
その結果次第ではどうですか?」
確かに色々手を広げ過ぎなんだよなぁ。
聖奈さんは行動力の塊だからな。
「うん。じゃあそうするね。明日は午前中にダンさんの所に行って、バーンさんへの紹介状を渡して、その時に知り合いに家具職人さんがいないか聞いてみるね」
「それが良いんじゃないか?今の売れ行きなら、一人二人増えたところで足りなくなるのは目に見えているしな」
ハンドメイドの弊害だな。売れる時に物がなくなる。
「売り切れになったらなったで、世間が勝手に付加価値を付けてくれるかもしれないもんね」
「父の家具が高値で売れれば、私は誇らしいですね」
よし!明日の予定もある程度決まったし、月見酒して寝るか!!
「えっ?知り合いがいない?」
朝、ダンさんの家を訪ねた俺達は、予定通り知り合いがいないか確認したところ、この返答だった。
「いや、いるにはいるんだが、死んだ親父の知り合いばかりでな。みんな売れなくなったのを機に引退しちまったんだ。
俺みたいに引っ越しても続けるような奴には心当たりがないんだよ」
それなら仕方ないか……
ここでも日本と同じく後継者問題が起きていたとは……
「これがバーンさんへの紹介状になります。渡せば話が通っているので、問題は起こりません」
「そうか。ありがとな。じゃあ行くわ」
ダンさんはあっさりと家を手放して、街を出た。
すでに頭の中は新しく作る家具のことで一杯なのかもしれないな。
「ミラン。そういうことだから、今から転移で家に帰ってバーンさんに伝えておいてくれな」
「はい。わかりました」
俺達は宿に帰ると、家へと魔法で転移した。
「俺は商人組合へ、砂糖と胡椒の納品に馬車で行ってくるから、ミランはダンさんのことを伝えに帰ってくれ。
終わったら家で合流しよう」
「はい」
俺は新たに家に来ていた荷馬車へ砂糖と胡椒を積んだ後、商人組合へと向かった。
「今日は。お久しぶりですね」
「はい。ハーリーさんもお変わりないようで」
数日しか間隔は空いていないが、よっぽど胡椒がいるのか?
「少し多めに持ってきましたが、まだ胡椒の大量入荷は先です。
目処は立っているので、後は時間だけです。暫しお待ちを」
「良かった…覚えていただけていたのですね。では、その様にお願いしますね」
もしかして聖奈さんみたいに空手形を切って見栄を張ったんじゃ…?
「それで…いつぐらいから…」
「うーん。人員を増やす目処が立ったところなので、まだ10日くらいは見て頂きたいですね」
「わかりました。ではお待ちしています」
ある程度明確な日付が聞けたお陰か、少しホッとした顔つきで会話は終わった。
やることやって宿に戻った俺達は、今後の予定を立てることにした。
「じゃあ次は王都まで街には泊まらないってことか?」
「そうですね。私達であれば問題ないかと」
「早く着くんだから良いんじゃない?」
「二人がいいなら俺は構わない」
と、いうことで、時間が中途半端だが、俺達は街を出ることに決めた。
聖奈さん曰く、この街は人が増えたリゴルドーみたいなもので見たいものはなく、テンプレも王弟がいないからとか言っていた。
その後、宿を出た俺達は、そのまま街も出て王都へと向かった。
「聖奈。右前方200m先に魔物だ」
俺は馬車を操縦しているので、魔物が出たことを聖奈さんに告げるだけだ。
「わかったよ。あれだね」
スコープを覗いた聖奈さんは、一言呟くと静かに長く呼吸をした。
バァンッ
この独特な火薬の匂いは嫌いじゃない。
「やりましたね!」
流石リーダー。この距離でも肉眼で仕留めたのがわかるのか。
「ゴブリンだったよ。集団かな?他に気配は?」
むっ!あっちに気配が!
なんてわかるわけがない。気配ではなくて、魔力波な。
気配の方がカッコいいからいいけど。
「ないぞ。多分逸れたか、偶々1匹になったかだろ」
「ふーん。残念」
トラブルに飢えているみたいだな。
旅に出てからトラブルは野盗だけだったからな。
俺はトラブルなんていらないけど。
「じゃあ止まるぞ」
折角仕留めたんだ。魔石を取らないとな。
夜。二人の寝る準備が出来た頃、お気持ちを聞いた。
「二人は王都で何をするんだ?」
「私はもちろんお城を見たいよ!」
いや、そうじゃないんだよ。
「私は…」
ミラン。気になるんだろ?
「家具を大量生産している商会を調べないか?」
「セイさん…」
「ミランも、バーンさんや自分を苦しめた元凶が、どんなもんなのか気になるよな?」
「さーんせーい!セイくん。もちろん悪い商会なら…」
「ああ。叩き潰す」
これは前から思っていたことだ。
職人の腕が悪くて潰れたり、需要がなくなって潰れたりしたのなら仕方がない。
だけどもし、何かしらの意図があって、わざと職人達の仕事を奪ったのなら、俺の中で有罪だ。
そもそもこの世界に過当競争は似合わないしな。
これは俺のエゴだけど、二人はどうか……
「宜しいのですか?わざわざ首を突っ込まれなくても…」
「何言ってんだよ。ミランは仲間だろ?仲間の家族が被害を受けたんだ。
例え白でも報復対象だ。
でも、それだとミランが気に病むだろう?だから黒いところがないか、みんなで探ろう」
「そうだよね!私は黒だと思ってるから『ドガーン』ってやっても良いと思うんだけどね!」
いや、流石に有無を言わさずお命頂戴は……
「ありがとうございます!」
「礼はいらないけど、折角だから受け取っておくよ。
とりあえず二人は寝てくれ。日の出前に起こすからそのつもりでな」
「「はーい」」
二人は仲良くテントの中で寝袋に包まれた。
俺は一人、焚き火の前で夜番をする。
生活魔法なら使い放題だから、『ライト』の魔法でもいいが雰囲気だ。
なーんか変な感じなんだよな。
王都の商会は本当に何が目的なんだ?金だけか?
いくら考えても答えは出るはずもないが、俺は二人を起こすまで考えていた。