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「リンリン!悪かった・・・でも君も悪いんだよ勝手に出て行ったりして・・・・本当に俺がどれだけ心配したか知っているのかい?俺はほとんど食事もとれなくなって君のせいで5キロもやせたんだよ 」
電話の話し口に録音機が仕込まれた受話器を握りしめて、私は奈々さんと受けたいくつものプログラムを思い出していた
―相手の一方的な主張に同調しない―
私はこのプログラムを心の中で反芻した
「出て行ったんじゃないわ、あなたに背骨を折られて外に放りだされたのよ」
「いつ俺がそんな事をしたと言うんだい?君が勝手に倒れた時に折れたんだろうよ、そりゃ・・・ちょっと手は当たったことはあったかもしれないけどさ・・・ 」
これには驚いた、俊哉は本当に私に暴力を振るった覚えはないのだろうか?
そこで奈々さんとのプログラムを思い出した、ナルシストの人格障害者は自分に都合よく、物事を捻じ曲げてしまう傾向がある。それに対してはただ事実を延べ伝えるのみ
涙で目が霞む、私が許すと思っているのなら、思い違いもいいところだ、俊哉に付き従ってきたこの二年間はみじめな毎日の連続だった
たぶん自分の好きなように生きる時がきたのだ
「あなたは私をレイプして背骨を折って
脳震盪を起こすぐらい私を殴ったのよ
医者の診断書もきちんとあるんだから」
俊哉は泣いて申し訳ないと言ったかと思えば
突然激怒したりもした
そしてまた次には泣いてすがった
「ちょっと嫌なことがあったからと言って
結婚をすぐ解消するなんて・・・・ 」
「ちょっとどころじゃないわ、これは異常よ」
「愛し合っているならこれからどうすればいいか
二人で話しあうのが普通だろ 」
「あなたは私を愛してなどいないわ」
「これだけ君に尽くしているのにどうして
俺の愛を信じてくれないんだ」
ダメだ・・・・
堂々巡りになる・・・・・
私は目を閉じた
私は奈々さんに受けたプログラムをひたすら遂行した「事実だけ」を告げるのだ
「たしかに俺は完璧な夫じゃなかったかも
しれないけど、君だって俺にいつも
嘘ばかりついてさ・・・」
「離婚するわ」
「どれだけ俺が君のために色んな事を我慢して
たと思うんだい?
君は家事も全くできないし、夜の方も酷いもんだった」
「何を言われてももう決めたの」
「愛してるんだよ
どうして運命の相手をこれだけ酷く捨てられるんだ」
「離婚するわ」
「愛しているんだ」
「離婚するわ」
「考え直してくれ」
「離婚するわ」
残りの時間
離婚するの一点張りでなんとか押し切った
私は冷汗が止まらず
神経が高ぶって心臓が早鐘を打っていた
声を聴いただけでこれほどダメージを受けているんだから今は到底会うなど出来ないと思った
そしてようやく電話を切り
リビングで待っている弘美さんと兄の元へ行った
「頑張ったわね」
兄と弘美さんが温かく迎えてくれた
まるで全速力で疾走したかのような
気だるさが体中に襲ってきていた
ハルが私を見てキラキラした目で
両手を前に突き出した
抱っこしてくれと言ってるのだ
彼は私が自分を抱きしめずにはいられない事を知っている
こんなに小さくても自分は愛されていると知っているのだ
私は温かくて重たい彼をしっかり抱きしめた
抱きしめてほしかったのは私だったからだ