「……」
私は、理解が追いつかず黙ってしまった。
「そうじゃないの?」
黒紀くんは、こくりと首を傾げる。
私は叫んでしまった。
な、な、なんで分かったの?
頬が赤くなるのを感じた。
「え…!?なんで、わ、分かったの!?」
私は、思わず問い返した。
「ふふ、わかるよお〜」
黒紀くんは笑いながら言ってくる。
「あ、あとそれと…黒紀くんじゃなくて呼び捨てで呼んでよ。ボクも、白華って呼んでいいかな?」
「えっ…えっ…全然いいんだけど…それよりも…遥希くんが好きなこと、誰にも言わないで!特に、本人!」
あっけらかんとしながら、黒紀くんはニヤッと笑った。
「え〜、どうしようかなぁ。」
クッッソ…なんだこの可愛いけど、メチャうぜえ男の娘は…!
私は、キッとなって、
「絶対言うなよ!黒紀!」
私の意外な言葉に驚いたのか、黒紀は笑うのをやめた。
「へぇ〜そんなに口、悪かったのかぁ…白華。」
「それなら、黒紀も遥希のこと好きなんじゃないの!?」
言葉がまったく出てこず、頭を絞り出して出た言葉が、これだ。
すると、黒紀は少したじろぎ顔を真っ赤にさせた。
萌え袖な手を口元に当て、
「ち、違うに決まってるでしょ…!ボ、ボクが遥希を好きだなんて….…考える奴はどうかしてるよ!」
言い方も可愛いすぎだろ。
萌え袖はセコいぞ。
「フン…私、分かるんだもんね…遥希くんに、言っちゃおっかな〜。」
私が、倉庫のドアを開けこの場から、立ち去ろうとすると、
「ま、待って…!!」
黒紀は私に抱きつくように、引き留めた。
「うおっ!」
まるで、仲の良い友達みたいじゃないか。
会ったのは、七時間くらい前なのだが。
「い、言わないで…」
立ち去ろうと足を、動かすたびに腹が痛い。
黒紀が、締め付けるように引き留めるからだ。
「ハァ…ハァ…じゃあ、アンタも言わないでよね…」
「…分かったよ…」
膨れっ面をしながら、黒紀は言う。
「…こんな話はもう、おしまい!さあ、早く帰るよ!黒紀。」
「はいはい。」
二人で、ドアを開け倉庫から出ていった。
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靴に履き替え、下校ルートを歩く。
はぁ…まさか、転校生が遥希くんの事を好きだなんて…
しかも、男の娘がだ。
まあ、多様性な時代だから。
そんな事を思っていた、自分を思い出す。
いつからか、下を向きながら歩いていた。
それ程、憂鬱なのだろうか。
恋について、私はこれから悩み続けるかもしれない。
ああ、嫌だな。
黒紀は明日も、明後日もずっと遥希くんに、親しく話しかけるんだろうな。
私は、無理かもな…
二人で、仲良く話してる間になんて入れない。
これじゃあ、今日の男子どもと同じではないか。
自分が、馬鹿らしくなってきた。
あ。
黒紀はどこから帰っているのだろう。
一緒に靴箱まで、来たつもりだったのだが。
ルートが別なだけかもな。
鬱憤が溜まって、私は大きくため息を吐く。
誰からでも、聞こえるくらいだ。
何メートル離れていてもだ。
ビクッとして、肩を大きく揺らした。
ホントに聞こえていたのか。
後ろを振り向くと、そこには同じクラスメイトの、青崎佳奈斗くんがいた。
「えっ…あ、全然大丈夫だよ。」
笑顔を創りながら私は言う。
「あ、そーお?…白華さん、なんか悩んでんのかなって…」
佳奈斗くんは、頭を掻きながら呟く。
心配してくれたのか…
私のクラスに、こんなに優しい男子がいたことにビックリだ。
「…あ、また明日。じゃあね。」
それだけ言って、私は歩いていく。
じゃあね、と言った後も佳奈斗くんは着いてきた。
ただ、単にこっちが帰り道なのだろうけど。
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あ、白華さんだ。
話しかけるべきか、そのまま何も言わないか。
う〜悩むなぁ。
この俺、青崎佳奈斗は悩んでいた。
俺は、前にいる白華さんが好きだった。
あまり話したことはないが、性格良し。顔良し。頭良い。
のトリプルスコアだ。
そんな好きな、白華さんが前を歩いている。
白華さんも悩んでいるのか?
下を向いて、トボトボ歩いている。
そんな、白華さんを俺は見たことがない。
悩んでいるなら、俺が相談相手になってやったらいいんじゃないか。
よし、話しかけにいくか。
なぁ〜んだ、悩んでなかったのか。
だが、絶対に何か悩んでいるような感じだった。
でも、俺だって悩み事は打ち明けられないタイプだ。
白華さんも、そういう人なのかもしれない。
「…あ、また明日。じゃあね。」
白華さんは俺に言う。
「ま、また明日。」
俺も小さく言ったが、多分聞こえなかっただろう。
『また明日。』という言葉が俺の心に刺さった。
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