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「バレンタインだから、何か作りたい」
バレンタインの1週間前にそう言い出したのは、わたしの最愛で国宝である冬歌ちゃんだった。今朝からなんだか冬歌ちゃんがモジモジしているなと思ったら、そういうことだったんだ。
確かにチョコ作り、してみたいよね。
ということで気前よく「うん、じゃあ13日に一緒に作ろっか」なんて言っておきながらも、何を作るか決めていない。
……バレンタイン、バレンタイン。何を作るべきなんだろう。
わたしは生まれてからずっと、友達からバレンタインを貰ったことがなかった。いつも友達はいなくて、でも、その代わりに冬歌ちゃんがいたから、全然寂しくなんてなかった。だけど、バレンタインは、冬歌ちゃんともやったことが無い。
バレンタインって、チョコを渡すんだよね。私はいつも、お父さんが会社の方から貰ってきたG●DIVAのチョコとか食べてたから、作ったこと、ないんだぁ。
お父さんはわたしの手が怪我したら危ないからって、全然料理させてくれないし。最近は、冬歌ちゃんと一緒に作るものなら許可してくれるようになった。「姉妹の仲がいいことは良い事だよ」とひとりでに納得している。
……じゃなくて、そんなこと、どうでも良くて。
本当に、何作ろう。……ブラウニーとか?クッキー?マドレーヌ?簡単にチョコ?難しいかもだけどマカロン??考えれば考えるほど分からなくなる。
リビングルームのソファに寝っ転がりながら、天井を見上げうーん、うーんと悩んでいると、お父さんが付けっぱなしにしていたテレビの音が耳に入る。
「バレンタインに送るお菓子。それには、ひとつひとつ意味が込められているんです」
……意味?なんの意味だろう?サクサクで美味しいとか?投げ出していた身を起こし、テレビを見る。
内容は……まとめると、お菓子ひとつひとつに送る時意味が込められていて、例えばチョコはあなたと同じ気持ち、クッキーは友達でいよう、逆にマシュマロはあなたが嫌い、等と色々な意味が込められている、というものであった。
……なるほど。なら、この中から良さげな意味のものを選んで、冬歌ちゃんと作ればいっか。
チョコはあなたと同じ気持ち。
これは渡してもあんまり意味が伝わないからナシ。
ティラミスは元気付けて。
私はどっちかって言うと冬歌ちゃんを元気付けたい方だから違うなぁ。
クッキーは友達でいよう。
友達じゃヤダ。
バームクーヘンは幸せが長く続きますように。
うーん、候補第1。
マカロンは貴方は特別な人。
候補第2。
マロングラッセは……
これだ。
マロングラッセにしよう。確か、栗の甘煮を乾燥させて、周りにお砂糖まぶしたものだった気がする。よし、簡単そう。そうと決まれば早速、お父さんに栗買ってきてって頼まなきゃ。
えぇと……お砂糖は確かあった気がする。シロップも多分ある。
テーブルに置いていた、わたしのスマホを取り、お父さんへと連絡する。返信は意外とすぐに返ってきた。仕事終わったらすぐ買ってきてくれるらしい。よかったよかった。
一安心したわたしは、冬歌ちゃんとお父さんが帰っくるのを待ち、いつも通りご飯を食べてお風呂に入って……寝た。
ぱちり。カーテン越しに窓から差し込む朝日の光に包まれ、目が覚める。一緒の布団で寝ている冬歌ちゃんはまだ寝てるみたい。
冬歌ちゃんの色白な肌と白い紙が、光を反射してキラキラと輝いている。とっても綺麗。
彼女を起こさないようにそーっとほっぺたに触れる。さらさらで、もちもち。なんというか、えーと、あれみたい。そう、雪●だいふくみたい。ずっと触っていたい。
時計を見ると家を出発するまでの時間が残り1時間ぐらいになっていたため、名残惜しいが彼女の元から離れる。
布団から出ると白い大きなクローゼットを空け、いつもの制服を手に取る。多少手こずらせながらも着替え終え、鞄の中身を予め入れて置く。
音で冬歌ちゃんを起こさないように、ゆっくりドアを開け、階段をとんとんとん、と下る。すると、2階のリビングルームに辿り着く。ソファを避けながらくの字に進むと、ダイニングが広がっており、3人テーブルの上には彩り鮮やかなサラダやパンと、お父さんからのメモが残されていた。
[翠へ
今日は少し遅くなるかもしれません
ご飯はいつものハウスキーパーが作ってくれます
苦手なものがあったら
次の紙に書いておいて、だそうです
あと、昨日言っていた材料は全て冷蔵庫にあります
冬歌とバレンタイン作り頑張ってね
父より]
今日はお父さんが遅いらしい。お父さんはあの誰もが知る企業の経営者、つまりオーナー。だからわたしは生まれてこの方お金などに困ったことは無い。
欲しいと言えばなんでも手に入る状況だった。そんなに物欲は無いので父に頼んで買ってもらうことは少なかったが。
けれどその代わり、お父さんは家にいないことが多い。たまに海外出張でしばらく帰ってこないこともある。だから、ハウスキーパーさんが来ている。
洗濯・掃除・料理などを、全てやっておいてくれるので、わたしと冬歌ちゃんは何もしなくていい。すごくお世話になっている。
そのハウスキーパーさんは、大体19時頃にダイニングでウロウロしている感じだから……19時前にバレンタインを作り終わるか、それとも後に作るか。
わたしが学校から帰ってくるのは大体18時頃。普通の部活動に入っていないから、周りよりも早い。フィギュアスケートの練習がある時はもっと遅くなるけど、今日は無いので大丈夫。だとしても1時間じゃ作れる気がしない。
サラダを口に入れながら、どうしよう、と考え込んでいると、ふとテーブルの上の小さなカレンダーが目に入る。
[2月13日――1年生の用事があるから午前授業のみ!朝に生徒会があるから冬歌ちゃんと投稿できない……]
どうやら、今日はいつもよりだいぶ早く帰れるらしい。すっかり忘れていた。うん。これなら作れる。冬歌ちゃんは大体15~16時に帰ってくるから、……3時間もあれば完璧。
……バレンタインが作れるのはいいけど、今日は冬歌ちゃんと登校できないのが残念。少し寂しいなぁ。
朝食を全て食べ終え、螺旋状の階段を駆け上がり部屋へと戻る。ドアを開けると、こんもりと布団に潜っている冬歌ちゃんがいる為、優しく起こす。
「冬歌ちゃん、学校だよ〜」
「んんー……」
さすさすと揺らすと、まだ起きたくない様子の冬歌ちゃんは布団にぐるぐるとくるまってしまう。ふふ。可愛い。
「起きよーねー」
「……おはよう翠さん」
布団越しに宥めると、冬歌ちゃんは布団から顔だけだす。その顔は、まだ寝足りないという感情が思いっきり出ていた。かわいいなぁ。
「うん〜、おはよう冬歌ちゃん」
「もう起きなきゃだめ……?なんで着替えてるの……?」
「ダメじゃないけど……私は生徒会があるから、もう行っちゃうよ?」
「……」
グイグイと軽くわたしの制服をひっぱる冬歌ちゃんの頭を撫でる。行って欲しくない、といういかにも不屈そうな顔をしていて、なんだか申し訳なくなって来る。だけど、わたしも学校行かないといけないんだよねぇ。
「今日は一緒にバレンタイン作ろうね〜」
「! 楽しみ」
「わたしも〜」
バレンタイン、という言葉に反応して、冬歌ちゃんがガバッと布団から出てくる。キラキラに目を光らせていて、楽しみなんだろうな。わたしもとっても楽しみ。
それからは冬歌ちゃんはちゃんと着替えて部屋から出てきてくれて、二人で洗面台で身支度した。
「あ、水色の金魚ちゃん、今日元気ないね」
「メダカだよ」
わたしの家の洗面台は大きい。長い机があって、洗面器もふたつある。壁には鏡と、大きめの水槽が入っている。これは、お父さんがわたしと冬歌ちゃんが同時に使えるように、としてオーダーメイドで作ってくれたもの。そのお陰で、朝の支度に手間がかかることは少ない。
「それじゃあ、行ってくるね〜」
「行ってらっしゃい」
1階の広い玄関口で冬歌ちゃんと別れを告げ、外に出る。時計を見ると、うん、いい感じの時間。今日のバレンタイン作りに心を踊らせながら、庭園の中を歩き、道路に出て、電車へと向かった。
そして時は経ち16時。わたしと冬歌ちゃんはキッチンスペースで材料、レシピとにらめっこしていた。
作る準備が揃ったのはいいけど、いざ作るとなると緊張する。
「始めよっか」
「うん……」
実を言うと……元々、下準備は済んでた。昨日にきたハウスキーパーさんが、栗を剥いて茹でて砂糖で煮といてくれたんだよね。処理された栗たちがボウルの中に入れられている。
これからすることは――また、鍋に入れて砂糖と一緒に熱し、溶かす作業。
「まず……なべにこれを入れて……そして白い粉を……」
「まって、それ塩かも……」
「そして一旦置くんだよね〜」
「何分ぐらい置くの?」
「分かんないね〜」
「そしてまた砂糖を入れて煮て……繰り返すのは面倒だから、長時間煮込めばいいんだね〜」
「翠さん、その分量さっきより結構多いかな……?」
「網に油を塗って、時間はかけたくないから、フードドライヤーで乾燥させる〜」
「うん、これはあってるかな?
……サラダ油って書いてある!!!」
「次は……ラッピング」
「袋に入れて〜リボンで飾り付け〜」
「……これは上手くいった」
「出来た〜〜!」
「やっとだぁ……」
そんなこんなで栗と葛藤したわたし達は、無事に完成させることが出来た。とても甘そうなキャラメル色に色付いた栗達が私たちの手元にある。乾燥しているのにも関わらず、光を反射してキラキラ光った。輝かしいお菓子。
いつも食べる時は美味しいな〜ぐらいにしか思っていなかったけど、やっぱりお菓子作りって大変なんだなぁ。
わたしも冬歌ちゃんも、やり切った達成感と、ここまでの疲労から、ソファへ身を投げ出していた。お行儀が悪いのは分かっているけど……体に巻いていたエプロンを立たないで解く。
冬歌ちゃんは今にも寝そうな感じ。まぁ、そんなに疲れさせちゃったのはわたしのせいなんだけど……。
「翠さんって料理だと急にポンコツになるね…」
「お料理って難しいねぇ〜〜」
冬歌ちゃんは少し呆れを混ぜながらも、軽く笑ってくれた。その笑顔が可愛くて、わたしもつい笑ってしまう。
ふたりで笑い合う。なんでかは分からないけど――理由なんていらないよね。ただ、笑いたいから笑う、それだけ。
「ねぇ、冬歌ちゃん」
「うん?」
ダイニングテーブルにおいてある、個包装されたマロングラッセをひとつ手に取り、また彼女の元へ戻る。そして、ソファに座り直した冬歌ちゃんの前にかがみ、目を合わせる。
澄んだ蒼空のような青い瞳。
冬歌ちゃんは、わたしが何をしようとしているのか分からず、こてん、と首を傾げる。そんな姿も可愛い。
「これ、わたしからのバレンタインだよ〜」
「そうなの、?」
まさかわたしから貰えると思っていなかったのか、すごく驚いている。そんな、わたしが冬歌ちゃんにあげない訳がないよ。わたしには冬歌ちゃんだけだもん。
「受け取ってくれる?」
「うん……!」
冬歌ちゃんは大きいお目目を光り輝かせながら、わたしからのバレンタインを受け取る。そして、その袋を胸に当てて、……凄く嬉しそうにしてる。
ふふ、作って良かった。
個包装されたマロングラッセ達を、いつものお菓子箱にいれて冷蔵庫にしまう。また、冬歌ちゃんと食べる為にね。
お父さんとハウスキーパーさん達の分は昨日に買ってあるから、大丈夫。勝手に食べられることは無い。冬歌ちゃんだけにあげることができる。
とんとん、と肩を軽く叩かれて、ふいと振り向く。冬歌ちゃんが、またなにかモジモジしながらこちらを見ている。冬歌ちゃんは、こちらの様子を伺いながら、ゆっくり口を開いた。
「一緒にバレンタイン、作ってくれてありがとう」
「いいよ〜〜、楽しかったからね〜」
「そして、これ、私からのバレンタイン」
彼女の手には――1つの箱が。ハートのリボンが着いた、茶色い箱。
「チョコレートって……あなたと同じ気持ちっていう意味なんだよ。
翠さんと、同じ気持ちだよ」
真っ直ぐな、冬歌ちゃんの目と目が合う。いつもの蕩けそうな冬歌ちゃんじゃなくて、なんというか、凄く可憐な冬歌ちゃん。恥ずかしくて、でも、目が離せない。
そうだ、冬歌ちゃんはいつも可愛いけど、たまに、天使のように淡く綺麗になる時があって、わたしの目を惹きつけるんだ。
……冬歌ちゃんはふっと微笑み、私の手を取る。
「 と、とーかちゃん」
「翠さん、私、知ってるよ」
マロングラッセの意味は――