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カジノの最上階、重厚な防音壁に囲まれたVIPルーム。
外界の喧騒から完全に隔離されたその空間には、微かに残る上質なシガーの香りと、二人が先ほどまで貪り合っていた濃厚な情事の熱気がドロドロと淀んでいた。
「……もう、終わり。チャンス、今日はおしまいだってば」
エリオットは深く沈み込む黒い革製ソファの上で、乱れた長い金髪を肩に散らしながら、ふいと顔を背けた。
はだけたシャツから覗く白い肌は、情熱の痕跡である淡い赤みを帯び、激しい呼吸に合わせて大きく上下している。
赤いサンバイザーはとうに絨毯の隅へ転がり、その双眸は涙の膜を張って潤んでいた。
これ以上この男の独占欲に呑み込まれたら、自分という境界線が本当に消えてしまう。
そんな本能的な恐怖と、ほんの少しだけ戻ってきた理性が、エリオットに突き放すような態度を取らせていた。
しかし、チャンスはそんな青年のささやかな抵抗など、端から念頭に置いてはいなかった。
スラックスのベルトを緩め、銀髪を微かに乱した大人の男は、ソファの傍らに佇んだまま、無言でエリオットを見下ろしている。
サングラスを外したその漆黒の瞳には、底なしの執着と、すべてを支配し尽くそうとする冷徹な光が宿っていた。
チャンスは大きな掌を自身の首元へと伸ばすと、端正に結ばれていたはずの、しかし今はすっかり緩んだ黒いネクタイをゆるりと引き抜いた。
言葉による制裁の代わりに、チャンスはそのネクタイを、エリオットの汗ばんだ胸元へと音もなく落とした。
「……っ、あ?」
滑らかな絹の帯が、エリオットの熱い肌の上を滑り落ちる。
チャンスはネクタイの端を指先に絡めたまま、その先端を使って、エリオットの胸元をなぞるようにゆるりと撫で上げた。
「ん、ぅ……っ、……あ」
皮膚の表面を、極上の絹が微かな摩擦を伴って滑っていく。
指で直に触れられるよりも、遥かにじれったく、狂おしいほどの刺激。エリオットの身体が、ゾクゾクとした悪寒に似た快感で大きく跳ねた。
チャンスの指先は絶妙な力加減でネクタイを操り、敏感な肌の熱を撫でさすり、時には絹の滑らかな質感で焦らし続ける。
「……は、ぁっ、……チャンス、……なに、これ……っ」
直に触れてほしい。その大きな、熱い掌で、強引に暴いてほしい。
そう願う内側の本音とは裏腹に、与えられるのはネクタイ越しの、どこまでも焦れったい摩擦だけだった。
もどかしさに狂いそうになりながら、エリオットは呼吸を激しく荒くし、黒い革製ソファの上で身体をよじった。
革と肌が擦れ合うキュ、という音が、静寂な室内に響く。
チャンスがわざとネクタイを引き上げ、その刺激から遠ざけようとすると、エリオットの理性の結び目は完全に引きちぎられた。
「……ぁっ!! だめ、……行かないで、……っ」
エリオットは自ら顔を背けていたことなど忘れ、涙の滲む瞳でチャンスを縋るように見上げた。
自由な両腕を伸ばし、チャンスの逞しい腰へとしがみつく。
上質なスラックスの生地を引き寄せるように強く握りしめ、自らの身体をチャンスの熱い体温へと激しく押しつけた。
「……あ……、……ふ、ぅ……、じらさないで、触って、よ……っ、チャンス、ぁ……っ!!」
叫ぶ力すら快感に融解させられた喉から、鼻に抜けるような、掠れた声が漏れる。
主導権を握り、どこかで「遊びだ」と言い張りたかったはずの青年は、今や一枚のネクタイによって完全に陥落させられていた。
自ら欲望を剥き出しにして、大人の男の体温に貪り寄る。
その乱れきった姿を、チャンスは満足げに、そしてさらに密集した熱を孕んだ瞳で見つめていた。
「……そこまで欲しいなら、お前の望み通りにしてやる」
低く、地を這うような掠れ声。
チャンスはエリオットの腰を大きな掌で鷲掴みにすると、ネクタイを床へと投げ捨て、今度は何の隔たりもない圧倒的な熱を、エリオットを完全に支配するようにして、容赦なく、そして深く深くその身体へと突き合わせた。
カジノのVIPルームを満たす濃厚な熱気の中、エリオットは背後の革製ソファに深く沈み込んだまま、チャンスがもたらす圧倒的な質量と衝撃に視界を激しく揺らされていた。
「っ、あ……、ふ、ぅ……っ!」
衣服が擦れ合い、互いの体温がダイレクトに衝突するたびに、ソファの革がキュ、と切迫した音を立てる。
エリオットの長い金髪はシーツのようにソファに広がり、激しい高揚に震える彼の身体の輪郭を際立たせていた。
チャンスは大きな掌でエリオットの腰をがっちりと固定し、容赦のない速度でその熱い衝動を突き重ねていく。
サングラスの奥から覗く漆黒の瞳は、いまや完全に独占欲で濁りきり、腕の中の青年を限界まで追い詰めようとしていた。
「チャンス……っ、まって、これ……、あ、あぁッ!」
理性を内側からじわじわと焼き尽くされるような快感の濁流。
主導権を握って気怠げに笑っていた普段の「エリオット」の仮面は、すでに跡形もなく引きちぎられている。
涙の膜を張った双眸で天井のまばゆい照明を見上げながら、彼はただ、自分を支配する男の体温を全身で受け止めることしかできなかった。
チャンスはエリオットの片手を掴み上げると、それを自身のシャツの胸元へと力強く導いた。
「掴んでろ、エリオット。逃げようとしたのはお前のほうだろ」
「……っ、だ、れが……にげる、か……っ」
強がりを返すものの、エリオットの指先は震え、縋るようにチャンスのシャツの生地を強く掴み返した。
その惨めで、しかし最高に愛おしい降伏の姿を見て、チャンスの口元に獰猛な笑みが浮かぶ。
チャンスはさらに深く身を沈め、エリオットの全身の力を奪い去るような、決定的な熱量を叩き込んだ。
「ひ……あ、っ……! ぁ、あ……っ!」
衝撃に、エリオットの背中が大きくのけ反る。
熱い吐息が交錯し、室内の空気は完全に臨界点を突破した。
与えられる快感の速度に、エリオットの呼吸はもう追いつかない。下腹部から突き上げる熱い波が、彼の脳髄を一瞬で真っ白に染め上げていく。
「あ、もう、……むり……、チャンス、あ、あぁッ!」
限界を迎えたエリオットの身体が、大きく硬直する。
チャンスもまた、自身の理性の結び目が完全に弾け飛ぶのを感じ、最後の一際深い一撃を突き合わせた。
二人の身体が同時に激しく跳ね上がり、暗闇に近いVIPルームの片隅で、互いの境界線を溶かし尽くすような情熱の奔流が溢れ出た。
「……は、あ……っ、……ぁ、……っ」
長い、長い絶頂の余韻が、激しく上下する互いの胸元と、重い吐息となって静寂に溶けていく。
エリオットはすべての力を出し尽くしたように、チャンスの胸元にそっと額を預けた。
乱れた金髪の間から覗く耳の裏までが、真っ赤に染まっている。
チャンスは、心地よい疲労感に身をまかせている青年を、壊れ物を労るように強く、深く抱きしめ、その濡れた額に優しい口づけを落とした。
外界のカジノの喧騒は、この重厚な防音壁の向こう側。
完璧な欺瞞の要塞の真ん中で、二人の絆は、決して元の歪な関係には戻れないほど、濃密に、そして深く結ばれ直していた。
城プル
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