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ポケットに入っているスマホが鳴っている。 なかなか鳴りやまない。
画面を見てはいなかったが、電話か?
急な予約とかキャンセルとか?
そう思い、画面を見る。
葵……!?
どうしたんだろ、珍しいな。
こっちで連絡してくるなんて、しかも仕事中に。
何かあったのか?
ヘルプを呼び、席を立つ。
「流星ー?どこ行くの?」
お客さんに呼び止められるが
「ごめんな。ちょっと電話」
葵が心配だ。
「早く帰ってきてね?」
お客さんの言葉なんて頭に入って来なかった。
裏手に行き、電話に出る。
「どうした?」
しばらく無言だった。
「葵……?」
<……。うっ……。グス……>
泣いてる?
「大丈夫か?何かあった?」
<家に帰ったら、元彼が家にいて。言いたいこと言ったら、殴られて……。お財布も家の中だし……。でも、家に怖くて帰れなくて……>
「殴られた!?ケガしてない?警察には通報した?」
<警察には通報してない。言いたくなくて。ケガは……、大丈夫。瑞希くん……。ごめん、助けて?>
葵が俺に素直に助けてって、相当なダメージを受けてるな。
「わかった。今すぐ行くから!ちょっと待ってて。家の近くにいるんだろ?」
<うん>
電話を切って、どうフロアーを回そうか考える。
今日は俺の指名客、そんなに入っていなかったはず。
フロアーに飛び出して、接客中の春人を無理やり呼び出す。
「ごめん、体調不良で抜ける!あとは、頼む」
「えええええー!体調不良って、めっちゃ元気じゃん。そんなに走ってきてさ!?なんかあった?」
「ちょっとな。お前しか頼めるやつがいないんだよ!」
「わかったよー。流星には昔いろいろ助けてもらったから。なんとかやるよ」
春人は、はぁとため息をついた。
「マネジャー、今日、体調不良でこれで抜けるから!俺がいなくなったことでの指名のキャンセル料、給料天引か自腹でいいから!」
「もっとよく事情を説明してください!流星さん!?」
マネジャーが俺を呼ぶ声を無視し、カバンを取って、従業員出口へ向かう。
道が混んでなきゃ、タクシーの方が早いな。
この時間だから、ラッシュは抜けていると思うけど。
タクシーを止め、葵のところへすぐ向かった。
・・・〜〜・・・
瑞希くんに電話しちゃった。
彼はすぐ来てくれるって言ってくれたけど。
迷惑かけちゃったのは間違いない。
スマホを見る。
瑞希くんからメッセージが届いている。
<大丈夫か?今タクシー乗ったから>
<危ないから、すぐ人がいるようなところで待ってろよ>
甘えてくる時の瑞希くんとは違い、男性らしい言葉が送られてくる。
瑞希くんが来てくれるって思ったら、涙が出てきた。何分経っただろう、電話がかかってきた。
<今、タクシーから降りた。どこにいる?>
彼の息が切れている。
必死に私を探してくれているのだろうか。
「コンビニの近くにいる」
<わかった。電話そのままにしておいて>
「うん」
私も左右を見渡して、瑞希くんを探した。
もっとわかりやすいところに移動した方がいいのかな。
歩こうとした時―。
「葵!」
瑞希くんの声が聞こえた。
「瑞希くん……」
彼は私のところへ駈け寄ってくれ
「大丈夫か?暗くてよく見えないけど。転んだの?足から血が出てる」
ケガしてない?と心配してくれた。
「逃げる時に転んじゃったの」
ああ、ダメだ。
私は瑞希くんに抱きつく。
「怖かったな」
彼もギュッと抱きしめ返してくれた。
「とりあえず俺も一緒だから、家行くか?」
「うん」
「鍵は開いてるんだよね?」
ドアを開け、部屋に入る。
「念のため、葵はここで待ってて」
玄関で待っててと言われた。
もう尊がいることはないと思うが、部屋に入るのが怖い。
部屋の電気はついたままだ。
瑞希くんが部屋の中に入る。
「大丈夫、いないよ。でも、部屋の中が酷い……」
私も部屋の様子を見る。
目を疑いたくなる光景だった。
物が散乱している。
私のバックの中身も床に落ちていた。
空き巣に遭ったかのようだ。
「財布の中とか大丈夫?」
彼の言葉を聞きハッと我に返り、中身を確認する。
良かった、カードとか現金もそのままだった。
私はその場に座り込む。
「葵、顔よく見ると腫れてる」
瑞希くんが私の頬を触る
「痛っ」
「熱いな。冷やそうか?」
彼に場所を伝えると、冷やしたタオルを準備してくれ、渡してくれる。その間に足も消毒し、絆創膏を貼ってくれた。
私が不思議そうにしていると
「ああ、よく昔はケンカとかしてたから、こういうの慣れているかも」
彼は少し苦笑いをしながら話してくれた。