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道の端の草むらの陰に黒い塊が落ちている。何かの動物ぽいけど、動いていない。
「なに…?仔犬?」
驚かせないよう静かに近づくと、両手におさまるくらいの小さな犬が地面に倒れていた。もしかして死ん……ではいないようだ。
「どうしたの?大丈夫だよ」と囁きながら膝をつき、犬の身体をよく見ると、足から血が出ている。
「これは…獣か魔獣にやられたんだな」
リオの言葉に答えるように、犬が薄く目を開けて小さく頷いた。
「おまえ、俺の言葉がわかるのか?ははっ、賢いな。もう大丈夫だ。俺がすぐに治してやるからな。だから少し大人しくしていてくれよ」
犬が先程と同じように首を縦に振る。
リオは犬の身体を優しく撫でて、怪我をしている足に右手を当てた。そして頭の中で傷が治る場面をイメージする。傷に触れている手が一瞬白く光り、犬は驚いたのか暴れ出した。
リオはもう片方の手で犬の胴体を押さえつける。しばらくして光が消え痺れる右手を離すと、怪我の具合を確認する。
「ふぅ…治った。ほら、もう動けるぞ」
もう片方の手も離し、犬の頭を撫でてやる。
犬は少しだけ首を傾げると、起き上がってリオから離れ、ぴょこぴょこと歩き出した。でも去って行かずにリオの傍に戻って来る。そしてリオの腕に鼻を擦り寄せ、ちっとも離れない。
「なに?礼を言ってるの?別にいいから早く親のところに帰りなよ」
それでも犬は、嫌だという風に「アン!」と鳴く。
なんとも気の抜けた可愛らしい声に、リオは思わず笑ってしまう。まだ小さな子どものようだから、親が探してるんじゃないかと心配したけど、近くにいる気配もない。襲われてる内にはぐれたのかもしれない。
「変な鳴き声だな。でもかわいい」
尻をついて座り込んだリオの膝に乗ってきた犬が、だんだんとかわいくなってきた。初対面からこんなに懐かれては堪らない。堪らなくかわいい。目つきの悪い顔をしているけどかわいい。
リオはため息を吐くと、人差し指で犬の顎を撫でて、ふと首を傾ける。
「ん?犬かと思ったけど、違う?狼かな?かっこいい顔をしてる。おまえ親とはぐれちゃったの?仕方ないなぁ。俺は家を持たないしずっと旅をしてるんだけど、一緒に行く?」
「アン!」
またしてもリオの言葉がわかるかのように、かわいく鳴く。リオは笑って「よし!一緒に行くか。今からおまえの名前はアンだ」とひねりもクソもない単純な名前をつけて、抱きしめるようにして撫でた。
アンは狼に似ていた。いや、狼だと思うのだけど、少し違うようにも見える。全身は光の加減で銀に見える黒色で、目は金色だ。もしかして魔獣の一種なのかも。でも、アンはとても綺麗でかわいい。人懐っこく魔獣とは思えない。
リオはアンを抱いて歩き出した。アンは大人しく抱かれて動かない。本当に俺と一緒にいてくれるんだと思うと、なんだか嬉しくなってきた。一人でいることに慣れていたけど、仲間ができたみたいで嬉しい。やはり一人は寂しいから。
半刻ほど歩き続けたけど、まだ森を抜けないので、拓けた場所を探して休憩した。
蝶を追いかけてぴょこぴょこと走り回るアンを見ているうちに、リオは睡魔に襲われて眠ってしまった。その時に夢を見た。
大きくなったアンが、背中から翼を生やして空を飛んでいる。その姿はとても神々しくて綺麗で、そして自由に空を飛ぶアンを羨ましいと思った。
リオの魔法の力は強い。母さんがそう話していた。でも様々なことが可能な魔法でも、空を飛ぶことはできない。だから羨ましいと思った。
リオの前に舞い降りてきたアンが、「アン!」と鳴く。
「ふふっ、おまえ、そんなに厳つい見た目になっても、その鳴き声かよ」
見た目と声のギャップが可笑しくて、笑ったところで目が覚めた。
アンがリオの膝に乗り金色の瞳で、心配そうにリオを見ている。
リオがアンの頭を撫でながら、「アン、おまえ、かっこよかったぞ」と笑うと、アンが嬉しそうに「アン!」と鳴いて、リオの手のひらに鼻先を擦り付けた。