「生まれ変わりって、あると思うかい?」
「…貴方、そういうの興味ありましたっけ?」
「最近ね。日本がこんな状態だから、あるのかなって、」
「あったらいいですけどねぇ」
「もし菊が生まれ変わったら、絶対会いに行くんだぞ!」
「次会う時の私はお花かもしれませんよ?」
「それでも会いに行くさ。HEROに不可能はないからね!」
「おばけでも、ですか?」
「あ、当たり前なんだぞ!」
「ふふ、それは、楽しみにしてますね」
「菊は何になりたい?」
「うーん、…お金持ちのペットになりたいです」
「OK、俺のペットだね!」
「ぇ、まぁ、間違ってはないですが、」
「いっぱい可愛いがってあげるからね!」 「食にはうるさいですよ」
「どんとこいなんだぞ!」
「ふ、はは、まったく、貴方には敵いません」
「ここだよ」
俺は彼をつれて世界会議が行われるビルに向かった。相変わらず彼は緊張していて、俺のスーツの裾を掴む手は小刻みに震えている。
「そんな緊張しなくたって大丈夫なんだぞ。ここに来る国は優しくて大半がバカなやつばっかだからね!」
「…恐れ入ります」
半ば緊張している菊と一緒にビルへ入ろうとしたところ、弱々しく、だけどハッキリ聞こえた声が2人の背中を横切った。
「に、日本…?」
聞き覚えのある声に後ろを振り向けば、案の定イタリアとドイツが菊の姿を見るなり目を見張っていた。狐につままれたとはまさにこういうことだろう。いつも眠たそうに睡魔と戦いながら会議室に入ってくるイタリアでさえ眠気が吹っ飛ぶ衝撃なのだから。
「日本、なのか?なんで、お前はもうここにいないはずじゃ、」
驚きのあまり、言葉を紡ぐのがやっとなドイツの側から離れたイタリアはこちらに走ってくる。瞬間、イタリアは菊の肩を両手で勢いよく掴んだ。
「に、日本!おれ、俺ね!日本のことずっと探してたんだよ!急にどっかいっちゃうんだから…ねぇ、日本、日本は本当は消えたりなんかしなかったんだよね、?ずっと、隠れてただけなんだよね…?」
彼の浮かべた笑顔には心配やら恐怖みたいな余計な感情が混ざってて、綺麗な笑顔だとは到底言えなかった。事態が理解できない菊が怯えているのを見て、俺は菊に添われたイタリアの手を握った。
「すまないけど、菊は日本じゃないよ」
自分に向かう傷が少なくてすむように、感情は極力出さずに言った。だけどやっぱり表情にはでるようで、眉間にシワが寄って、泣かないように下唇を噛んだ。
「…はは、何言ってるの、アメリカ、お前まで日本のこと忘れちゃた…?日本は菊でしょ、?なのに…?」
「…うん。まったくの別人」
「……うそ、嘘つかないでよ!!」
「嘘じゃない!!」
咄嗟にでてしまった自分の大声に、2人は体をビクつかせた。
「……嘘じゃないんだよ、」
俺はそれしか言えなかった。泣き出すイタリアにごめんとしか言えなかった。苦しい。胸の奥に堅物が支えたみたいに気分が悪い。罪悪感に押しつぶされそうな中、声に覇気がなくなってしまった俺を察して、ドイツは泣き出したイタリアを仮眠室まで連れてってくれた。
菊の顔を見れば、罪悪感で今にも飛び出してしまいそうなぐらい顔色が悪い。彼は服を下に引っ張りながら下を向いて言った。
「…すいません、私のせいですよね。やっぱり、私家に帰りますよ。これ以上迷惑は「だめ」」
「…お願い、」
「…」
2人の声は情けなかった。酷いだなんて自分でも分かってる。今目の前にいるのは日本じゃなくて菊だ。俺は祖国としてプライドを守らないといけないというのに、今彼の顔を見たら堪えてた涙が溢れ出そうな気がして顔すらも合わせられなかった。
だけどやっぱり彼は優しくて、俺が動き出すまで何も言わなかった。彼なりの優しさなんだと分かっていて、それがたまらなくうれしくて、懐かしくて、情けなくて。
「…ごめん。もう大丈夫だよ」
「……本当に、帰らなくていいんですか?その、日本っていう人が誰なのか知らない私が…」
「うん、日本についてはこれから知ってけばいいさ。今は、どうしても来てほしいんだ」
「…祖国様がそれほどおっしゃるなら、」
彼には申し訳ないけど、どうしても思い出してほしい。あの時君が開国してくれたこと、一緒に遊んだこと、俺のためにご飯を作ってくれたこと、一個だって無かったことにはしたくないから。
俺は彼を連れてビルへと足を踏み入れた。中はまだ新築の匂いがして、赤い絨毯が敷かれた床を2人で進んでいった。
「……は?日本?」
進んでいくと、またもや金髪の男性達が立ちはだかっていた。あぁ、まためんどくさいことになる…。いや、だいたいこうなることは予想できていたけど、惨めな思いをしないようになるべく考えていなかったというのが正しいのかもしれない。
「おま、え?なんで日本がいんの?」
「…やだなぁおじさん達は、菊は日本じゃないよ。ね?菊」
「は、はい」
「じゃあその子は誰なの?どう見ても日本だけど…一般人?」
「あぁ、そうさ」
ふーんと素っ気なく返事をしたフランスは心配そうにイギリスを見る。フランスは物わかりがよくてよかった。様子から見てイギリスは当たり前にパニックになるだろうし、フランスまでおかしくなったら手のつけようがない。
「…日本、じゃないのか?」
「だから違うって言ってるだろう?」
「…あぁ、そうか、」
ところが、思っていたよりもイギリスは冷静だった。ファンタジーなことに関しては譲らない彼だけど、どこか現実主義な部分がある性分だからだろうか。平常心を保つためなのか、イギリスは深呼吸をするといつものように俺に話しかけてきた。
「おいアメリカ。いくら日本に似てるからって世界会議に一般人連れてくんなよな。国際問題になったらどうしてくれんだ。だいたいお前は昔っから考えなしに、」
「ああもう、うるさいよ君!菊が怖がってるじゃないか!」
「す、すいません…」
「あ、いや、お前のせいじゃなくてだな!」
「とりあえず菊には会議にでてもらうよ。理由は…君たちなら分かってくれるだろう?」
「…まだ確定じゃないんでしょ?」
「見た目も、声も、好きな物も一緒。なにより俺に既視感があるって言ってくれた」
「賭けてみる価値はあると思うよ」
少しの沈黙が4人の間に流れる。
「…好きにしろよ」
その沈黙を破ったイギリスはぶっきらぼうにその場を離れた。
「あ、ちょ、イギリス!…ごめんね菊ちゃん。アイツ不器用なだけだからさ」
申し訳なさそうに言ったフランスはイギリスの後を追っていった。気まずい空気が数秒続いた末、菊は静かに口を開いた。
「…日本さん、随分慕われていたんですね」
彼は儚く笑っていた。だけど、2人の背中を貫くその瞳は哀愁が漂っている。
「…そりゃあもう、嫉妬しちゃうぐらいさ」 「すごい国だったんですね。祖国様が嫉妬しちゃうぐらい」
「…ううん。日本の周りにいる国に嫉妬しちゃうんだ」
「……それって、」
菊がなにかを言いかけた時、廊下に鳴る物音がそれを遮った。
「………菊…?」
つい溜息がでてしまった。なんてったって最難関の人物が菊を見てしまったのだから。隣に並んでいるロシアは冷静で物わかりがいいから、ムカつくけど安心だった。隣にいるのがロシアでよかった。嫌いな相手にそう思えるほど、
「な、なんで菊がいるあるか、」
この人の説得は難しいと思うから。
「え、日本君…?じゃあないよね。アメリカ君、この子誰なの?一般人?」
「うん。菊って言うんだ」
「…へぇ、名前まで一緒なんだ、」
思った通り、ロシアは似た人として片付けてくれた。彼は不思議な物を見るような目をして菊を観察する。困った菊と目が合ったら、ロシアはニコリと笑った。そんな行動に「キモいよ、」と菊からロシアを引っ剥がせば、彼は「ひどいなぁ」とまた笑った。なんだか、懐かしい光景な気がする。
そう安心してるのも束の間だった。さっきまでショートしていた中国が動き出し、弱々しく彼の名前を呼んだ。
「あ、ぁ…き、きく、」
菊は案の定怯えている。背中をさすると、肩の力が抜けたように見えた。
「こ、こんなところにいたあるか、!日本に行っても何処にもいないあるし、……聞くよろし日本、大阪ってばお前はもういないとか言ってるあるよ、まったく、どいつもこいつも歳あるなぁ。我に爺とか言えないあるよ」
「ほらおめぇら!ちゃんと日本いたあるでしょ!我の言ったこと信じなかったこと後悔するよろし!」
自信満々、満面の笑みで日本を見せつける中国に居た堪れなくなり、俺とロシアは気まずそうに目を合わせた。イタリアとは違う。本当に日本は実在すると彼は信じ切った目をしている。
「…日本君はいないよ。中国君」
「な、ロシア!」
「いいよ。こういうのは僕の役割でしょ」 「…」
「はぁ?おめぇもついに老眼あるか?」
「…おじいちゃんなのは中国君だよ」
「いい?中国君。日本君はもういない。それはアメリカ君が連れてきたまったくの別人なんだ。見たでしょ?日本君が…他界したとこ、」
「…あれは、日本じゃなかったあるよ!国なんだから!死ぬはずねぇある!…は、はは、笑えねぇ冗談はやめるよろし、我怒るあるよ、」
「僕は怒っても言うよ。日本も、日本君ももういないんだよ」
パチンッ!
瞬間、そんな痛々しい音が耳を貫いた。
「……黙るよろし、」
目の前には泣いている中国と片頬を赤く染めたロシアがいた。
「…も、…いやある………」
座り込んだ中国の背中を、ロシアは優しくさする。ここはロシアに任せようと菊を会場に連れてく手前、繋いでいた菊との手が離れた。驚く間に彼は座り込む中国に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「…すいません」
彼は1言そう呟き、中国は泣きじゃくりながら菊を抱き返した。
コメント
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( '-' )スゥゥゥ⤴︎︎︎椿か桐と双子であってくれ
ぐ.…ッッッッッやっぱりにーにはそうなるよな…てか原作を見てる気分になってきた。キャラがこんなに崩壊しないことあるんだ。(ガチな関心)
つれぇ…、でも好きだ😇 菊の事一番好きなアルがもう居ないって割り切れてる様に見えて、割り切れてないのが特に…