ドッキリ

第一部: 驚きの渇望

浩介（30代）は、同僚たちにドッキリを仕掛ける準備をしている。カフェテリアの机に細工を施し、隠しカメラをセット。突然、背後の壁から爆音が鳴り響き、机の下から煙が出る。

浩介: 「さあ、みんな！驚けよ！」

周囲の同僚たちは最初驚くが、笑い出す。反応は期待通りだが、浩介の目には満足感が浮かばない。

同僚1: 「またやったな、浩介！」

同僚2: 「ドッキリ、もう見飽きたよ。」

浩介は笑顔を作りながらも、内心では何かが物足りない。目の前の無反応に不安を抱きながら、視線を遠くへと向ける。

浩介: 「どうして、誰も驚かないんだ…」

浩介はアパートのリビングで、美咲（25歳）を待っている。部屋はいつもよりも慎重に準備されており、数カ所に隠しカメラを設置している。

美咲がドアを開けると、浩介は満足げな表情で迎える。

浩介: 「今夜も驚かせるから、覚悟してね。」

美咲: 「また？ でも楽しみにしてるよ。」

浩介は、すぐに隠していたオルゴールを作動させる。オルゴールが大きな音を立てて回り、部屋の電気が一瞬消える。しかし、彼女はそれを淡々と受け止める。

美咲: 「ほら、またドッキリ？」

浩介は顔を歪める。彼の笑顔が次第に引きつっていく。

浩介: 「どうして、こんなに冷静なんだ…」

浩介は家の玄関で最も複雑なドッキリを準備している。大きな金属音を鳴らす仕掛け、振動センサーで作動する爆音、さらに壁を通して動く影が映る。浩介は一度、深呼吸をしてから美咲に電話をかける。

浩介: 「今から来てくれ。少しだけ遅くなるけど、楽しみにしてて。」

美咲は電話を切り、アパートに到着。浩介は心臓が高鳴り、完全に準備が整ったことを確認してから、玄関のドアに立つ。

美咲がドアを開けると、予想通りに大きな金属音が鳴り響き、部屋の中が一瞬で暗くなる。

浩介: 「さあ、驚いてくれよ。」

美咲は音を聞いても驚かず、冷静に振り返る。

美咲: 「また、やってるの？」

浩介の笑顔が一瞬で消える。目の前で繰り広げられる冷徹な反応に、浩介の心は揺れ動く。

浩介: 「どうして、驚かないんだ！」

美咲は少し眉をひそめるが、反応は依然として冷静だ。浩介はその瞬間、心の中で決意を固める。

浩介: 「次こそ…必ず驚かせる。」

浩介は、最終的なドッキリを準備する。ポケットから小さな箱を取り出し、冷静に美咲に差し出す。

浩介: 「開けてみて。」

美咲は戸惑いながら箱を開け、中からメモ用紙を取り出す。メモには「驚け。驚いてみろ。」と書かれている。

美咲: 「これ、どういうこと？」

その瞬間、浩介は背後からナイフを取り出し、美咲に近づく。冷徹な目で彼女に迫る。

浩介: 「驚かないなら仕方ないだろ。」

美咲は一瞬、目を見開くが、驚く暇もなく、浩介の手に突き刺さったナイフを感じ取ることなく倒れる。浩介はそのまま冷静に美咲を見下ろす。

浩介: 「驚いてくれたか？」

その目には、狂気と満足が混ざり合っていた。

浩介は無表情で部屋を片付け、冷蔵庫からビールを取り出す。缶を開けると、シュッと音を立てて泡が立ち上がる。ビールの香りが部屋に広がり、浩介は一口飲んで味わう。

浩介:「これが…最高だ。」

ビールはほろ苦く、爽快な喉越し。浩介はその味に少しだけリラックスし、心の中で満足感に浸る。

その後、浩介はさらに冷静に言葉を話す。

浩介:「最も驚くべきドッキリは…最初から驚かせなかったことだ。」

浩介の心は完全に壊れ、冷徹な笑顔を浮かべながら、静かにその場を後にする。

数日後、警察が浩介のアパートに訪れる。警察官は、少し控えめにパトカーを停め、ドアをノックする。ドアが開くと、浩介は冷静に警察官を迎え入れる。

警察官:「あなたが犯人ですね。」

浩介はその言葉を聞き、にっこりと笑う。

浩介:「驚いたか？」

警察官:「はい。」

浩介:「そうか」

その笑顔には、今まで見せたことのない純粋な喜びが込められていた。