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本当にめちゃくちゃな親子だと思う。
「ペチカ」
「お兄様、お、お疲れ様です」
「何? 改まって……きれいだね」
「ありがとうございます。お兄様も、おきれいですね」
皇太子の誕生日パーティーは深夜のあの出来事があっても開催される運びとなった。本当にむちゃくちゃで、開催を遅らせればいいのにと思ったが、前日になってそれは難しいだろうと、ようやく冷静になった頭で理解した。取りやめようにも難しい。遠方からわざわざこの日のために来てくれる貴族もいるのに、簡単に中止することはできないだろう。それこそ、国家転覆を狙うやつらに囲まれた、とかでなければ。
まあ、その国家転覆まではいかずとも、卑怯な方法で皇太子暗殺を企て、前皇后陛下を殺した犯人たちは捕まったので、もうこれ以上何かが起こることはないと、平和が確定された故の開催なのかもしれない。
公爵邸に戻ってドレスを着替える余裕もなく、前から殿下が私に用意していた、プレゼントしようとしていたドレスに着替え、メイクも髪型も、皇宮で働くメイドたちにしてもらった。ドレスは真っ赤で、サーモンピンクの髪をまとめたリボンも真っ赤だった。それは、皇族の証であるルビーの瞳と似たような色で、赤色に金の刺繡が縫われている。ドレスも情熱的な垢がだ、光に当たるとキラキラと輝く星のような装飾がなされている。
お兄様も、エメラルドグリーンのドレスに着替えていた。深い緑に金糸や銀糸が縫い付けられ、銀の刺繍が一際目立っている。シンプルだが、それがお兄様の良さを引き立てていてよく似合う。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫って、何が心配なんですか!」
「深夜の出来事があったばかりなのに……無理しなくてもいいよ?」
「夜勤は慣れているので! 騎士としての鍛錬がいきますね!」
「そういう問題なのかなあ……まあ、ゼインの隣にペチカは必要だし。仕方がないけど」
お兄様は呆れたようにため息をついたが、ドレスアップした私の手を取って、「じゃあ行こうか」と手を引いてくれる。
会場に近づくたび、本当にすべて終わって、そしてここからなんだと多少の緊張と、これからの未来の期待が、私の胸を支配した。
「そういえば、そのブローチ。ゼインからのプレゼント?」
「はい。ルビーのブローチ……に、似合いませんでしたか」
「いや、ゼインも隅に置けないねって思って。ペチカが幸せそうで、俺は安心するよ」
そういって、お兄様は優しく私に微笑む。ルビーのブローチは、確かにゼインからのプレゼントだった。金色にルビーが埋め込まれたそのブローチは、私の胸元をキラキラと照らしている。
会場に入ると、すでにたくさんの貴族が集まっているようだった。
私は殿下の婚約者なので、殿下の隣に立つことになるのだが、まだ殿下は会場入りしていないようだった。本日の主役は遅れて登場する。
「皇太子殿下がお見えになったぞ」
と、誰のかの一声で、皆が彼に頭を下げる。
長く伸びた赤い絨毯を、皇太子であり、未来の皇帝であるゼイン・ブルートシュタイン皇太子が威厳ある姿で、ゆっくりと歩いてきた。その姿は彼の威厳を引き立てる白いタキシードで、よく似合っている。一段とその黄金の髪は輝いていて、夜も見たはずの彼の姿は、別人のように見えた。
戦闘狂とも恐れられる彼の神秘的な姿。会場にいる貴族たちも、そんな彼の姿に見惚れてしまっているようだった。爛々と輝くルビーの瞳に、黄金の髪。そして、優しく貴族たちに微笑みかけるその表情は、やはりいつもと違うように見える。
権力争いに勝ったからか、ディレンジ殿下がいない、自分だけが祝われる誕生日だからか……理由はいくらか思いつくけれど、それだけじゃない気がした。
(すごく、かっこいい……)
威厳ある姿に、私はぽーと見惚れてしまうが、殿下の挨拶が終わるとはじかれたように私は彼のそばへと寄った。
「帝国の光にあいさつを――皇太子殿下、誕生日おめでとうございます」
「ああ。ペチカ、似合っているな。そのブローチ」
「はい。殿下が……ゼインがプレゼントしてくれたもので。あの、私からもプレゼントに……」
誕生日が近いことは知っていたので、何か渡せるものがないかと私は考えた結果、ネクタイピンを渡すことにした。太陽の形をした眩い黄金のネクタイピンだ。
殿下はそれを受け取るとすぐに胸元のネクタイに着け、「似合うか」と私に聞く。
「……はい」
「じゃあ、一生大事にしよう」
殿下はそう言ってうれしそうに微笑むので、これを選んで正解だった、と私も胸をなでおろす。
そして、皇帝陛下が玉座につき、会場にいる貴族に聞こえるように声を上げた。
「今宵は、わが息子、ゼイン・ブルートシュタインのために集まっていただき感謝する……ゼインよ、誕生日おめでとう」
「はい、父上……この最高な日に感謝を」
「堅苦しいことはいい。本日は存分に楽しんでくれ……そして、皆の者。今宵は、わが息子の誕生日であり、未来を担う皇帝の誕生の日だ。ゼイン・ブルートシュタインを、正式にわが後継者、次期皇帝と認める」
皇帝陛下の声に一瞬のざわつきが起こるが、次の瞬間には、すべてを理解したらしい貴族たちから拍手が巻き起こる。
陛下も、殿下との約束を守ってくれ、彼が皇帝にふさわしいと、そして次期皇帝の座は殿下にと認めてくれた。正式な即位式というのは行われるだろうが、今まさに新たな皇帝が誕生したといっても過言ではないだろう。
祝福の拍手に包まれ、彼の隣に立っている私も泣きそうになってきた。夢見ていた光景に、思わず涙が出そうになってこらえる。ここで泣いてしまったらかっこがつかないと思ったからだ。
「俺以上に感動しているな」
「だって……」
ずっと求めていたというか、彼が皇帝になる日を夢見ていた。彼が私に誓ってくれたあの日から、ずっと。
陛下は「新たな皇帝の誕生に祝福を。皆で祝おう」というと、乾杯と受け取ったグラスを掲げて声高らかに言う。私たちもワインの入ったグラスを、私はジュースだけどもらって、乾杯と言ってお酒をあおる。
一時はどうなるかと思っていたけれど、すべてが丸く収まったようで今はほっとしている。ここにいる人たちは、皇太子派閥の人間だろうし、第二皇子派閥の貴族たちは見たところいないようだった。もしかしたら、こうなることを見越して前から言ってあったのかもしれないと。誕生日までには決着がつく。それも、有言実行されてしまった。
空になったグラスを持って行ってもらい、ファーストダンスの音楽が流れ始める。
殿下はふっと優しく笑うと、私に手を差し伸べた。その意味は、すぐに分かった。
「――ペチカ・アジェリット公爵令嬢。俺と踊っていただけませんか」
と、殿下はどこか自嘲気味に笑ったが、私はこの日のために、ダンスのレッスンは欠かさなかったと、彼の手を取る。
さすがにもう彼の足は踏まないだろうし、大丈夫だと。
「おっと、いいのか? 注目されるぞ?」
「私がいつまでも、ゼインの足を踏む人間だと思っているんですか? 大丈夫ですよ。貴方のために練習してきましたから」
「そうか、では、お手並み拝見と行くか」
ダンスを何だと思っているのだろうか。お兄様には、剣舞のようにしか見えないといわれ、殿下にも踊れないだろうというレッテルを張られている。実際そうだったけれど、前よりも見栄えが良くなったはずだ。自信がある。
それよりも、ここで断るほうがいけない。だってこれは、特別なダンスだから。
彼に手を引かれ、会場の真ん中へと移動する。
視線が集中するにつれて、鼓動は大きくなっていく。しっかりできるかなというような不安。足を踏んだらどうしようという不安。
「大丈夫だ。俺にすべてをゆだねろ」
「……っ」
耳元でささやかれた言葉。頬がくっつくような距離で言われてまた心臓がはねる。殿下は、私の腰に手を当てると、ぐっと自分のほうに引き寄せた。その仕草にまた胸が高鳴る。この鼓動が聞こえてしまいそうだと、私は思わず目をつむった。そして、曲に合わせてステップを踏み出す。ダンスは苦手だったけれど、踊れている気分になる。でもそれはきっと、彼のリードのおかげだ。殿下のおかげで上達した気がする。
彼は何でもそつなくこなす。ダンスも、エスコートもうまくて、本当に理想の王子様になってしまった気がするのだ。そんな彼の隣に私がいて。
「何を考えている? 俺だけを見ろ」
「強引なのも好き」
「は?」
「いえ。ゼインと踊れて幸せですって言いました。ゼイン、改めて、誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。ペチカ。最高の日だ」
殿下は私の言葉にきょとんとしながらも、笑ってくれる。ああ、好きだなあと思う。この笑顔も。彼と過ごしてからもうずいぶん経つが、今もなお毎日恋をしている気分だ。幸せだ。とくんとくんとなる胸の鼓動に酔いしれるように彼のリードに合わせて踊るのだ。
曲が終わり、また私たちに雨のような拍手が降り注ぐ。祝福の拍手。私たちはそれを全身に浴びて、再び顔を合わせて笑いあった。
終わって、また始まる。
これが新たな門出となり、決意の一歩であるとそう感じながら、私たちは会場の視線を独り占めした。