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#僕のヒーローアカデミア
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「あらぁ。
そんな形で終わったんですか。
賢人会議もずいぶんと質が落ちた
ものですわねぇ」
ザハン国のとある政治機関の施設の一室―――
リーゼントのような髪型の若い官僚は、
上司からの説明を受けて対応する。
「まあそう言うな。
向こうに取ってもこちらに取っても……
双方、想定外の事だったのだろう」
「そう言われましてもねぇ。
内戦前の融和派は何て仰っておりましたっけ?
これを機に、内部に爆弾を抱えている反対派、
過激派を一掃する計画だったのではぁ?」
(■301話
はじめての ひなんくんれん参照)
タクドルは片足を軸にバレリーナのように
くるくると回りながら、当時の事を思い出して
上司に聞き返す。
「だから言っているだろう。
想定外だったのだと。
そもそも反対派をこの機に処分するという
名目だったのだが―――
その反対派が方針転換したのだ。
争う理由自体が消滅してしまった
からなあ」
上司の説明によると……
一応賢人会議で内戦の和解をしたのだが、
それはモトリプカを始めとする新参の国々の
発言力を高め、
しかしモトリプカ側が、反対していた亜人・
人外への差別政策継続を引っ込めたため、
結果として発言力を高めたモトリプカ側も、
融和方針に従っていく事となったという、
どちらにしても―――
微妙な状態になってしまったのである。
「何のために内戦したんだ?
って事になってしまったんですかぁ」
「まさにそこなんだよ。
モトリプカ側も、これまでの体制を
続けさせようと要請するために、
賢人会議での発言力強化を狙ったので
あろうが、
散々フェンリル様に脅されて、
その方針を転換せざるを得ない状況に
追い込まれたと聞いた。
ならば今後は歩調を合わせていくだろう」
上司と部下は互いに顔を見合わせた後、
タクドルは首を傾げ、
「まあ?
上はそれでいいのかも知れませんけどぉ。
でもモトリプカ側が抱えた爆弾って、
そのままですよねぇ?
これまで侵攻・侵略して支配下に置いた
連中が……
それで黙っているものなんですかねぇ」
賢人会議はメナスミフ自由商圏同盟の、
いわばトップクラスの会談であり、
そこに被支配層―――
さらにかつて敵対し従属させられた勢力の
意思など、介在しない。
『上はそれでいいかも知れないが、
俺たちが黙っているとでも?』
という懸念は当然あるのだが、
「それなんだがな。
モトリプカ側がうまく立ち回って
いるらしい」
「ほう。
と言われますとぉ?」
上司の言葉に部下が聞き返すと、
「今回……
モトリプカの主要人物―――
ドルミンがフェンリル様に対し詫びを
入れて、
封じられた魔法を戻してもらったそうだが」
「おとぎ話のようなお話ですわねぇ。
ただ、わたくし自身あの方はこの目で
見ておりますから、
信じるも信じないもありませんが」
過去に魔法を封じられ、それをフェンリルに謝り
戻してもらった経験のあるタクドルは、それこそ
骨身に染みる理解度でそれを知っており、
(実際に魔法を封じたのもそれを解除したのも
シンなのだが)
「その彼が、支配地域やその代表者たちに、
『自分は直接フェンリル様と交渉し、
許してもらった』
『今後はフェンリル様の言われた方針に
沿って動く』
と申し出ているそうだ」
それを聞いた部下は少し考え、
「それはそれは……
なかなかうまいやり口ですわねぇ?
もしそれで過去の恨みで一戦とか、
内乱とかやろうものなら―――
『フェンリル様の意向に逆らうのだな?』
って言う事が出来てしまいますもの」
「ああ。
そしてそのやり方は効果があったようだ。
今のところ、周辺各国や地域に目立った
動きはない。
くすぶっているところはあるだろうがな。
そちらの動きも注意しなければならないが」
というところで上司はいったん言葉を止め、
「まだ気になる事でも?」
タクドルが動きを止めてまともに聞く姿勢を
見せると、
「いや、メナスミフ自由商圏同盟の事は
それくらいだ。
今現在……
クアートル大陸の方で少し、な」
「はい?
そこでどうしてクアートル大陸が―――」
その問いに対し、上司は机の中から
新たな書類を取り出した。
「復興支援?」
ザハン国商業都市・スタット……
その富裕層地区にあるロックウェル家の
屋敷で、
赤髪の恰幅のいい女性にして元裏社会の
組織の女ボス―――
ブロウが、屋敷の主人と話し合っていた。
「クアートル大陸の四大国から、そういう
申し出が来ているようだ。
あちらも以前、少しきな臭かったであろう。
それが今や四ヶ国共同で開拓事業などを
しておる。
その経験も踏まえて、戦後処理をうまく
支援しようという事だろう」
眉もヒゲも真っ白な老人、ベルマイヤが
書状を片手に答える。
「そんな事になっていたんですかい」
「まあ、タダではなさそうですけどね」
チンピラ風の痩身の男性、ジャーヴと、
その彼よりさらに痩せた顔のユールが、
飲み物に口をつけながら語る。
「で?
アンタらは何か持ち帰ったのかい?」
ブロウは部下2人に報告を催促し、
「一通り回りやしたがね」
「小康状態、と言っていいのではと思います」
その言葉に老人はアゴに手をあてて、
「ふむ、つまり……
すぐに動きそうなところは無いと」
こういった戦争の場合、戦後のゴタゴタに紛れて
それまで被支配地域の者たちが反乱を起こしても
不思議ではなかったのが、
「侵略で支配下にされた地域って、元亜人や
獣人の国家が多いですから。
そこにフェンリル様がやって来て、
支配者にガツン!
とやってくれた上、待遇改善も命じたと
ありゃあ」
「そもそもモトリプカ側は、今回の内戦では
勝者ですからね。
戦力が著しく減ったわけでもない。
力を見せつけるにしても、適切な時機とは
思えません」
そこでベルマイヤは両腕を組み、
「売り時や買い時を考えられる、上層部ならば
そうなるのはわかるが。
しかし一般というか民衆はどうなのだ?
その不満を抑えられているのか?」
老人は状況を分析し、懸念を口にすると、
「それがですねぇ、フェンリル様って結構
有名だったらしいんですよ。
辺境大陸で、獣人族の少年と結婚した
神獣様がいる―――
クアートル大陸でも、非道な行いを受けた
亜人や獣人たちを救ってくれたという。
いずれこのフラーゴル大陸にも来て、
同胞を救ってくださるであろうと」
「ザハン国で大艦隊を止めたり、この内戦でも
方々に姿を現しておりましたので、
そこへ来てドルミンですか?
フェンリル様に魔法を封じられ……
許してもらったお詫び、そしてフェンリル様の
意向に従うとして、支配地域の亜人や獣人の
代表と交渉を開始しました。
気勢を上げていた連中もいたようですが、
そこでもし争いを勃発させたら―――
『フェンリル様の御威光に泥を塗るつもりか』
『せっかく神獣様が平和をもたらせて
くれたのだぞ』
そう言われて大人しくなったそうです」
ふむふむとブロウがうなずき、
「なーるほど。
あの人の名前、遠いこんな地まで届いて
いたんだねえ」
「希望、という側面もあったのだろう。
どんな小さな情報でも噂でも……
自分たちと同じ境遇の者が救われたと聞けば、
それにすがりたくもなる。
特に彼らは被差別側であったのだからな」
これまでの事情を踏まえてベルマイヤが
そう説明すると、『見えない部隊』の
3人もうなずく。
「じゃあ、もうこれで大きな争いは起きない
感じかねえ?」
確認のように元マフィアの女ボスが話すと、
「ゴネるヤツはそりゃいるでしょうが」
「いても少数派ですね。
後は、その復興支援?
とやらで生活を豊かにしてやれば、
反発も減っていくでしょう」
ジャーヴとユールが直接現地を見て来た
その口で答え―――
それらの情報は、すぐ辺境大陸の
ウィンベル王国へと送られた。
「へえ、復興支援ですか」
ウィンベル王国公都『ヤマト』……
その冒険者ギルド支部のトップの部屋で、
連絡を受けて呼び出された私は、
フラーゴル大陸での情報を共有していた。
「ま、これを機に商売の機会を増やそう、
という狙いもあるんだろうが。
戦争よりはマシだからな」
アラフィフの筋肉質のギルド長、ジャンさんが
そう語り、
「そうッスねえ」
「商売で競争するのなら、その方が
いいですよ」
褐色肌の長身の次期ギルド長の青年、
レイド君と、
その妻であるタヌキ顔に丸眼鏡の女性、
ミリアさんが同調し、
「でも復興支援って、どういうものが
考えられるんでしょうか」
私がふとそう疑問を口にすると、
「まず『鉄道』だな。
かなりの経済効果が期待出来るし、
それに運転手兼動力が獣人族だ。
復興の目玉になるだろう」
クアートル大陸ではどんどん路線が伸びていると
いう話だからなあ。
ラミア族の土魔法を除けば、長距離路線の
ノウハウはもう向こうが上かも知れない。
「それと『神前戦闘』だな」
「『神前戦闘』?」
思わず私が聞き返すと、
「あれを記録した映像魔導具が大人気で、
フラーゴル大陸でも売れているらしい。
獣人族がメインで活躍するし、
差別是正にもちょうどいいとよ」
「あー、なるほどッス」
「最近は女性選手の人気もすごいですからね。
盛り上がると思いますよ」
レイド夫妻がウンウンとうなずいていると、
「おっ、そうだ。
それでよ、シン」
ジャンさんの言葉に、やはり自分にも何か
依頼があるよなあ、と思っていると、
「モンド伯爵サマって知っているか?」
そこで知った名前が出て来たので、
「あ、知ってますよ。
エードラム君のお父さんです。
その方が何か?」
そこでギルド長は一通の書状に目を落とし、
「何でもよ、ランドルフ帝国での『神前戦闘』の
興行利権は、そいつが握っているんだろ?
そんで、復興支援であちらの大陸で
『神前戦闘』をやるにあたって―――
お前さんに相談があると言ってきているが……
まあ嫌なら断っても構わん」
それを聞いた後、私は少し考え、
「別に断る理由はないですよ。
緊急事態でもありませんし。
ていうか、緊急事態や戦争関係しか
最近は依頼が無かったので―――」
「それはまあシンさんだからッス」
「最後の手段、みたいなところが
ありますからねー」
レイド君とミリアさんの言葉に少々
複雑な表情になる。
「薬草とか、鳥とか魚とか獲って
生活していた時が懐かしいなあ。
どうしてこうなったんでしょう」
そう私が遠い目をしながらぼやくと、
「まあそれは認めるけどよ」
「大変だったのはシンさんだけでなく、
周囲もそうだったんスから」
「シンさんがこの地に来た当初は、
どうすればシンさんを怒らせる事なく
関係を築けるか、この3人で緊急対策の
話し合いをしていたんですよ」
そう言ってギルドメンバーたちが、
糸のように細い目になっているのを見て、
「そ、その節はどうもいろいろと……」
私はペコペコと頭を下げ―――
その後少し雑談に興じた後、冒険者ギルド支部を
後にした。
「ん?
今度はランドルフ帝国に行くのー?」
自分の屋敷に戻り事の次第を話すと、まず
童顔の妻が、
「それに、あのモンド伯爵かや。
まあ『神前戦闘』の相談であれば、
荒事にはならぬであろうが」
次いで、もう1人の西欧モデルのような
目鼻立ちの妻が、それぞれ我が子を
抱きながら語る。
「フラーグル大陸への復興支援の一環……
であれば無関係ではないからね。
それに、ついでってわけじゃないけど、
ミスリルクラスパーティー、『月下の剣』の
みんなにも久しぶりに会ってきたいし」
「あー、そういえばあそこのギルドマスターと
カティアさん?
今どうなっているのかなー」
私の後に、黒髪ショートに燃えるような瞳を持つ
娘が話題を振ると、
「あーあー!
確かプロポーズされたんだっけ?」
「でもまだ結婚したとは聞いておらぬのう」
(■286話
はじめての ほかのけいがいのたみ(かこ)
参照)
そういえばそんな話があったなあ、と
思い出していると、
「ん?
そういやラッチ―――
人間の姿になってから、アウリスさんや
カティアさんと会った事あったっけ?
ドラゴンの時なら何度か顔を合わせた事が
あるけど」
そう私がたずねると、
「確かあったはずだよー」
「エードラムの奥さんであるクエリーの
見舞いの時だったか。
あの時、ギルド本部に寄ったはずぞ?」
(■278話・はじめての おみまい参照)
ああ、そういえばそうだったかも。
でもあの時はバタバタしていたしなあ。
それにシンイチやリュウイチに注目が集まって、
ラッチは目立たなかったかも。
「……えーと、シン。
ちゃんとこの子ラッチだって紹介した事
あったっけ?」
「え?
いや、クエリーさんのお見舞いの前に1回、
そして戻って来た時も帝都グランドールの
冒険者ギルド本部に寄って―――
……あれ?」
メルの質問に、ちょっと自分も自信が
なくなってくる。
「いやいや!
いくら何でも顔合わせしているのじゃぞ!?
確かにリュウイチやシンイチの紹介に皆
夢中になっておったが―――」
フォローのように慌ててアルテリーゼが
口を挟むが、
「あ、そういえばボク……
何も聞かれなかったかも?」
と、ラッチが首を傾げたところで―――
急遽、ランドルフ帝国行きが確定した。
「あ、シンさん!」
「ギルドマスターですか?
しばらくお待ちください」
後日、私たちは家族で『ゲート』を使い、
帝都グランドールの冒険者ギルド本部を訪れて
いたが、
受付の女性職員が変わらず対応してくれて、
「お久しぶりー」
そこでラッチがヒラヒラと手を振ると、
「ラッチちゃんも久しぶり!
元気にしていましたか?」
と、その返しにみんながホッと胸を
なでおろす。
「(何だ、ちゃんと知っているじゃん)」
「(どうやら取り越し苦労だったようだのう)」
と、妻たちが小声でささやき、
「お待たせしました。
すぐにお会いになるそうですので」
ここも魔力通信機を使っているから、
即座に返事が来て、
「わかりました。
ありがとうございます」
「あ!
後でシンイチちゃんとリュウイチちゃん、
もっと見せてくださいー!」
そこでメルとアルテリーゼが息子たちの
手を優しくひらひらさせると、私たちは
ギルドマスターの部屋へと案内された。
「へえ、あの『神前戦闘』をフラーゴル大陸
でもねえ。
確かにあれは、亜人や獣人差別の概念を
変えるにはもってこいかも」
中肉中背だが目付きの鋭い、シルバーの短髪の
男性が、自分の部屋で対応する。
「それにしても、もう離乳食を食べて
いるんですか。
子供の成長は早いですねー。
でもアレ?
1才以上になっているにしては体が」
次いで、彼の秘書的な存在である女性、
ピンクヘアーの巻き髪をしたカティアさんが、
2人の息子を見ながら語る。
それから彼女は『姉』の方を向いて、
「ラッチちゃんもおねーさんだね」
「うん!
2人ともすっごく可愛がっているよ!」
と、ここまで話したところで……
ちゃんと自己紹介はしていたんだな、と
安心したところ、
「ところでさー、この姿で来るの多分
2度目なんだけど。
ボク、自己紹介なんてしたっけ?」
突然ラッチが本日一番の爆弾をぶっ込み、
「いやいや! ラッチちゃん!」
「こうして普通に対応しているではないか!」
2人の妻が娘をたしなめるが、それを見ていた
ベッセルギルドマスター(アウリスさん)や、
秘書の女性も微妙な表情となり、
やがて話し辛そうにカティアさんが、
「あ~、やっぱり自己紹介していません
でしたよね?
あの後、『誰だっけあの子』って―――
みんなで話し合ったんですけど」
そこで私はテーブルに顔面を突っ伏し、
メルとアルテリーゼは天井を見上げた。
「あ~……
なるほど、アウリス様が気付いたんですか」
「そうなんです。
あの、私たち赤ちゃんたちに夢中になって
しまって、聞きそびれたのと―――
気付いた職員もいたようなんですけど、
紹介されなかったので、ベビーシッターか
それとも聞いてはいけない事情でもある子
なのかと、勘繰ったみたいで」
カティアさんの説明に、私たちはどんな顔を
したらいいのか、わからなくなる。
「自分はホラ、エルフだからね。
魔力の流れを見る事が出来るんだけど、
なかなか紹介がされなかったものだから、
ちょっと『のぞいて』見たら……
明らかに人間じゃない魔力量だったからさ。
あ、この子ラッチちゃんかあって」
アウリス様の言葉に、思わず頭を下げて、
「す、すいません!
そうです、この子がラッチです」
「そうです!
ボクがラッチです!!」
私の後に、ラッチが何かポーズを決めながら
言うと、秘書の女性が遠い目をしながら、
「あの後はちょっとした騒ぎになりましたね。
『アレ、ラッチちゃんだったの!?』
『女の子だったんだー!!』
って、みんなびっくりしていました」
そういえば性別すら知らなかっただろう
からなあ。
ドラゴンの時はどちらかわからないし。
「まあ、なのでこちらでは―――
ラッチちゃんが人間の姿になったというのは、
すでに周知されているので。
しかし、見事に人間の姿になった
ものだねえ」
ギルドマスターがしみじみとそう話し、
落ち着いた雰囲気になったと思ったら、
「あ!
そういえばねー、公都ではボクと同じように
女の子の姿になったゴーレムもいるよ!」
「は、はい?」
「え? ゴーレム?
ってあのゴーレム?」
本日2回目の爆弾をラッチがぶっ込んで……
私たちはその説明に追われた。
「どうもすいません、シンさん。
あの、どこかお疲れでは」
ブラウンの短髪にハチマキみたいな布を
頭に巻いた青年―――
エードラム様がこちらを気遣う。
私たちは冒険者ギルド本部を後にしたあと、
本来の目的である、モンド伯爵様のお屋敷まで
彼の案内で向かっていた。
(難しい話になるかも知れないので、
ラッチとシンイチ・リュウイチは本部で
そのまま預かってもらった)
「いえ、ちょっとギルドマスターに
あいさつしてきただけですから」
「しかし何なんですかね、親父の相談って。
そのフラーゴル大陸で展開する『神前戦闘』の
ネタとか?」
エードラム様にはある程度、道中で事情を
話しておいたが……
彼には初耳だったらしく、
「別大陸で行うわけですからね。
『神前戦闘』の本場は辺境大陸ですし、
いろいろと聞きたくはなるでしょう。
それに、あちらの復興支援も兼ねて
おりますから」
「そういえばさー、奥さんと娘さんは
元気ー?」
メルがふと彼の妻子について質問すると、
「あー、いや。
それがその―――」
「!
何かあったのか?
それこそ相談に乗るぞ!」
歯切れの悪い答えに、アルテリーゼが
即座に反応するが、
「いや2人とも大丈夫です! 元気です!
元気なんですが、その……
あ~、まあ屋敷に来てもらえれば
わかります」
「??」
私たちは顔を見合わせて、ちょうど到着した
目的地の建物へと入っていった。
「コーデちゃ~ん♪
じぃじでちゅよぉ~♪」
屋敷のとある部屋に案内されると、入った途端、
アラフォーの男性の猫ナデ声が聞こえ、
見ると、八の字のヒゲを持つ男性が―――
赤ちゃんのお世話をしながら、だらしなく
表情を緩ませていた。
「えっと、父上……
シンさんをお連れしましたが」
エードラム様がそう告げるも、聞こえて
いないのかモンド伯爵様は赤ちゃんに夢中で、
「ほら、あなた」
「お義父様、シン様がお見えになっていますよ」
アラサーくらいのブラウンの長髪の女性と、
もう1人、薄い赤っぽい毛並みをした獣人族の
女性が注意を促すと、ようやくこちらに
気付いたのか、
「お、おお! シン殿!
よく来てくださった!」
慌ててやって来たモンド伯爵様を、私たちは
苦笑で出迎えた―――
「初めまして……
エードラムの母、フローラです。
息子夫婦が大変お世話になって
おりますようで」
「あ、はい。
ウィンベル王国の平民、シンです」
「妻のメルです」
「同じく、アルテリーゼじゃ」
まず、初対面の彼の母親との自己紹介を
交わし、
「ええと、フラーゴル大陸で復興支援の
一環として、『神前戦闘』をするにあたり、
相談したい事があると聞きましたが」
「は、はい。
それで、この地に『神前戦闘』を持ち込んだ
シン殿の意見を伺おうかと」
そうモンド伯爵様は言いつつも、エードラム様と
クエリーさんの娘……
コーデちゃんを抱いたままで、
「しかし、ずいぶんと可愛がっているんだねー」
「初孫、というわけでも無いんじゃろ?」
「そ、それはそうなのですが」
メルとアルテリーゼの言葉に、伯爵様は少し
困った顔になり、あちらの女性陣は微笑む。
しかし無理も無い、と思う。
コーデちゃんは獣人ハーフであり、耳としっぽが
当然ついている。
そして体毛はまだ薄く、いわば人間の赤ちゃんに
ケモ耳とシッポがついたようなもので―――
祖父としてはメロメロになっても仕方ないだろう。
「父上、さっさと仕事の話を終わらせれば
いいでしょう。
そうすれば、思う存分コーデを可愛がる事が
出来ますから」
息子にからかうように言われ、モンド伯爵様は
顔を少し赤らめるが、やがて真顔になり、
「……いや、仕事の話は口実なのだ」
「父上!?」
その発言にエードラム様は大声で聞き返すと、
伯爵様は赤ちゃんをクエリーさんに手渡し、
「どうか、お知恵、お力を貸して頂きたい―――
ワシはこれまで、フローラやエードラムを
冷遇して来た。
これまでの事を詫び、関係を修復したいのだ。
この子の笑顔を見て、そう決心した。
何かいい方法はないだろうか?」
モンド伯爵様は私に深々と頭を下げる。
「あなた……」
「お義父様」
彼の妻と義理の娘は涙目になり、そこで息子が
頭をかきながら、
「父上、もう俺は何とも思っていませんよ。
すでに俺や母上の待遇も改善されたでしょう」
「それではワシの気が済まぬ。
伯爵位の継承は無理だが、金やワシの持つ
利権であれば、ある程度は譲る事も出来る。
それとも何か他に方法はあるだろうか」
そこで私も両腕を組んで考え込む。
無くは無いだろうけど―――
するとエードラム様が口角を上げて、
「ンな事言って親父、コーデをひたすら
可愛がりたいだけじゃねーのか?」
「バレたか!」
息子からの皮肉半分の言葉に父親はそう返し、
室内は笑いの渦につつまれた。