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ある秋の夜、空手部の主将である野獣先輩(仮名)は、空手部のメンバー数人とともに、山間の旅館で一泊することになった。部活の合宿も兼ねたこの旅行は、野獣先輩の強い指導のもとで行われる予定だった。しかし、合宿の初日から、何やら不穏な空気が漂っていた。
その晩、部員たちは温泉に浸かったり、食事を楽しんだりしていたが、ふとした瞬間に、旅館の一室で衝撃の事件が起こった。宿泊客の一人が、部屋の中で冷たくなって発見されたのだ。遺体は部屋の床に倒れ、顔には恐怖の表情を浮かべていた。その人物は空手部の後輩である遠野(仮名)だった。
遠野は普段からおとなしく、真面目な学生であり、特に目立つ問題を起こすような人物ではなかった。しかし、現場に残されていたのは、彼が犯人であることを示唆する証拠ばかりだった。
「犯人は遠野だ」といった声が、部員の中でささやかれるようになる。しかし、ここで問題なのは、事件の目撃者が誰もいないということだ。全員がその時間、他の場所にいたと言い張っている。果たして、真実は一体どこにあるのか?
事件が発覚してから数時間後、野獣先輩は冷静にその場に現れた。空手部の主将として、また人々の中で一目置かれる存在として、彼は一歩引いた位置から事態を観察していた。
「俺が解決しないと、俺たち空手部の名が汚れる…」
彼の言葉は、部員たちに強い安心感を与えた。野獣先輩は、自らを名探偵のように振る舞い、事件解決に乗り出すことを決意した。しかし、その裏には誰にも知られないある目的があった。
実は、野獣先輩は事件の真犯人だったのだ。事件が発覚した瞬間、野獣先輩は冷静だった。彼の目には、他の部員たちの慌てふためく姿があったが、それはすぐに解決すべき課題にすぎなかった。彼が犯人であることを隠すためには、全てを計算し、周囲を巧妙に操らなければならない。
まず、野獣先輩は遺体が発見された部屋に入り込み、詳細に観察を始めた。遠野の部屋は殺人現場としてはあまりにも静かすぎた。周囲に犯人が残した痕跡がないことに気付いた野獣先輩は、逆にそれを「自然に見せる」ための手段として使うことを考えた。
「何もないからこそ、計画的に仕掛けていけばいい」
部屋に入ると、最初に目に入ったのは遺体だった。遠野は顔を恐怖で歪め、無防備に床に倒れている。その死に様は不自然であり、何かしらの「メッセージ」を残しているかのようだった。野獣先輩は冷静に死因を調べると、殺害方法としては手で首を絞めた形跡があることを確認する。だが、そこに残された証拠に気づくと、彼は確信を抱く。
「遠野が犯人と見せかけるには、まず証拠を整えないといけない」
野獣先輩はまず、部屋の隅に散らばっていた遠野の私物に目を向けた。遠野は真面目で内気な性格だが、彼には一つだけ他の部員に知られてはいけない秘密があった。それは、空手部の主将である野獣先輩を恨んでいたという事実だ。野獣先輩はその秘密を知っており、それを「証拠」として使うことに決めた。
彼は、まず遠野のメモ帳を発見し、そこに書かれていた内容を見て興味深いものを見つけた。それは「空手部主将の弱点を握る」という一文だった。これが遠野が主将に対して恨みを抱いていた証拠として使えると判断した野獣先輩は、そのメモ帳を部屋の床に無造作に置き、あたかも遠野がその文を書いた直後に殺されたかのように見せかけた。
次に、野獣先輩は部屋にあった遠野の財布を探し、その中からクレジットカード明細書や取引の記録を取り出す。これらの記録は、見た目には何もおかしいものではなかったが、少し加工するだけで「遠野が裏取引に関わっていた証拠」として使えることに気付いた。
野獣先輩は、遠野が持っていたいくつかの小道具やノートを使い、これらの証拠があたかも「暗い取引の証拠」として事件に絡んでいるかのように見せかけた。取引内容や文面の一部を偽造し、証拠がそれらに関連しているかのように感じさせたのだ。
次に、野獣先輩は他の部員をうまく操る必要があった。犯行を目撃した者がいれば、事実が証明される前に犯人を決定付けられる。しかし、現場には誰もいなかった。それでも、野獣先輩は「目撃者」を作り上げることに成功した。
彼は、温泉に入っていた部員の一人である田島をターゲットにした。田島は普段から野獣先輩を尊敬しており、何かと指示を仰ぐことが多かったため、野獣先輩に言われることを信じやすい人物だった。
「田島、お前は犯行現場を目撃しているよな?」
野獣先輩は、田島が実際に目撃していないことを知っていたが、証言を引き出すために少しずつ彼を追い詰めていった。まず、田島に「目撃した証言」を言わせるために、遠野が犯行を行った状況を具体的に教え込んだ。
「お前、遠野が犯行を行っている瞬間を見たんだよな。お前が見たのは、遠野がメモ帳を握りしめていたところだ。あれは、遠野の犯行が計画的であった証拠なんだ。」
田島は最初、疑念を抱いていたが、野獣先輩が強い口調で「お前が見たことは正しい」と繰り返すうちに、次第に自信を持つようになった。野獣先輩は証言が取れると確信し、田島に「遠野を犯人として突き止めろ」というメッセージを残した。
最後に、野獣先輩は「事件解決」としてのパフォーマンスを行うことに決めた。彼は、他の部員たちの前で自信満々に登場し、目撃証言と証拠を提示して、遠野を犯人として突きつけた。
「皆、お前たちも見た通りだ。これが犯行の証拠だ。遠野が犯人で間違いない。」
彼は無敵の自信を持って周囲に告げた。証拠がすべて揃い、目撃証言も得られたことで、部員たちは次第に遠野を疑い始め、彼を犯人として確定する雰囲気が漂っていった。
その時、遠野は言葉を発することができなかった。周囲の目が彼に注がれ、証拠がすべて彼を犯人として告発している中、遠野は自分を守る方法を思いつけなかった。
「お前が犯人なんだよ」と野獣先輩は、遠野に告げた。
そして、事件はこうして「解決」したことになった。部員たちは野獣先輩の推理を称賛し、事件は無事に終息を迎えた。
このようにして、野獣先輩は完全に計画通りに事を運んだ。遠野は犯人として追放され、彼の名前は誰にも聞かれることはなくなった。野獣先輩は英雄として称賛され、空手部は一時的にその名声を高めた。しかし、彼の心の中には、常に計算された冷徹な戦略が渦巻いていた。
事件が終わった後も、野獣先輩は決して自分の手を汚すことなく、完全に無罪であるかのように振る舞い続けた。誰もが彼を信じ、犯人は遠野だと決めつけていた。しかし、真実は彼の心の中にしか存在しなかった――。