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その日、日付が変わるころに佐藤くんからLINEが届いた。
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今日はごめん。
謝って済むことじゃないけど、
本当にごめん。
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それを見てすぐ、佐藤くんが今どんな顔をしているのかわかった。
しばらくメッセージを眺めていると、私の目から枯れたと思っていた涙がこぼれる。
だけど瞼をこすり、指を動かした。
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私こそ、勘違いして舞い上がってごめんね。
短い間だったけど、付き合えて楽しか
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そこまで文字にして、落ちた涙で画面が歪んだ。
(……もう、私のバカ……)
本心を隠し通すって決めたのに、こんな文章ふさわしくない。
私は最後の文を『また来週、学校でね』と打ち変えた。
(次会った時は、ちゃんと笑えていないと)
私は送ったメッセージが既読になる前に、強く目を閉じた。
次の日の朝、顔を洗って部屋に戻ると、スマホのランプが点滅していた。
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おはよう、澪!
次の日曜日、一緒に遊園地にいかない?
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杏からのLINEを見て、私は小さく苦笑してしまった。
あんな後で遊びに誘うなんて、ふつうならできない。
だけどこうして普段通りに振る舞ってくれるのは、私を気遣ってだとわかってる。
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おはよう!
遊園地かぁ、いくいく! 日曜晴れるといいね!
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そう返信して、杏とおそろいの猫のスタンプも押した。
しばらくして杏から同じ猫のスタンプが返ってきた時は、ただそれだけのことでも無性にうれしかった。
週末が終わり、月曜日になった。
登校した私を待っていたのは、杏の変わらない笑顔だった。
「澪、おはよー!」
「おはよう、杏」
教室に入るなり杏が元気よく迎えてくれるから、「笑顔、笑顔」と心で繰り返していた私は、自然と笑い返せた。
「今日も暑いねー。ほんと毎日嫌になるよ」
「ほんっと暑すぎるよね。学校に着くまでに汗だくだよー。
もっとクーラー効かせてほしいよね」
私が言えば、杏も頷きながら私の席についてきた。
ふと斜め向かいに目を向ければ、まだ佐藤くんは来ていない。
ドキドキしていると、視界の端をだれかが横切った。
(佐藤くん……)
私に遅れて、杏も私の視線の先を辿る。
「おはよう」
佐藤くんは弱い微笑みで、こちらを振り返った。
ぎこちない笑みを見ると、やっぱり胸が苦しくなる。
それでも私は、「おはよう」と普段通りの笑顔を向けた。
だけど杏はちがった。
彼以上にぎこちない口調で「おはよう」と言うから、思わずとなりを見てしまう。
「杏?」
呟いたと同時に、見計らったように予鈴が鳴った。
杏はすぐにいつもの笑顔に戻り、私に手を振って自分の席に戻った。
私は遠ざかる杏と、それを目で追う佐藤くんを見つめる。
そんなふたりが目を合わせないとわかったのは、その日の放課後になってからだった。
「杏、どうしたの?
佐藤くんとなにかあった?」
私はHRが終わると、鞄を手に杏の席に駆け寄った。
杏も鞄を手に立ち上がり、弱い笑みを浮かべる。
「ん? 佐藤くんとは……最初からなにもないよ?」
それを聞いて、私は「え」と目を開いた。
「ちょっと待って、それってどういう……」
言いかけて私ははっとした。
まだ生徒たちがたくさん残ってるのに、ここじゃ込み入った話はできない。
「杏、今日は部活だよね?
なら、ちょっと部室まで歩きながら話そう!」
「えっ、ちょっと澪!?」
私は強引に杏の手を引き、足早に階段をあがった。