修さんの店までの何度も見慣れた通い慣れたこの道も、透子とこうやって一緒に向かっているだけで、全然違うように思える。
何度もあの店へ足を運んで、透子の姿を見つけると嬉しくて。
会社ではなかなか会えなかったから、唯一あの店で透子に会えるのが楽しみで。
だけど会いたいと思っていた時に透子は店に来なくて会えなかったりだとか、前の男と一緒にいるところも正直何度も目にしてへこんだりとか。
そんな今までのオレの時間を思い返すと、今隣に透子がいるだなんて、まだなんか信じられない気持ちになる。
そうやって透子との二人の時間を楽しんでいると、すぐに修さんの店に到着した。
「いらっしゃい」
「あれ? 樹と透子ちゃん二人一緒?」
「ってことは、ようやく?」
「はい。ご心配おかけしました」
透子と二人一緒にいるところを見て、すぐに何も言わなくても気づいてくれる修さんと美咲さん。
そして二人並んで席に座る。
「やっとか」
「ようやく迎えに行けました」
「これでうちらも安心出来る感じ? 樹くんもう大丈夫ね?」
「はい。もう大丈夫です」
ずっと心配して気にかけてくれていた修さんと美咲さんに、ようやくこの言葉を伝えられた。
「樹くん、ちゃんと透子迎えに行ってくれてよかった。結局この子未練タラタラだったからさ。もう見てるこっちももどかしくて」
「ちょっ美咲!」
「もう今更隠す必要もないでしょ。しっかりあんたが未練タラタラだったのはあの日に樹くんにはバレてるから」
「えっ、あの日って?」
「うーんと、あれ麻弥ちゃんだっけ? 彼女のパーティーの帰り」
「あ~。まぁあの日、帰りにここは寄ったけど。でも、その日樹と会ってないよね?」
「まぁ~透子に直接会ってないから、透子は気付いてなかったけどね」
やっぱり透子のその反応、オレと会ってることわかってなかったってことね。
「えっ、どういうこと?」
「あの日透子酔い潰れたでしょ? あの日、樹くんここにいたんだよね」
「えっ? いつ?」
「酔い潰れた後、起きたらもうお店閉めて一緒に帰ったよね? あの日、樹に会えてないから、あんな風になってたワケだし」
「だからその前ね」
あまりにも気付いてない様子だから、思わずオレも反応して答える。
「その前? いつ?」
「あの日もオレに好きって言ってくれたじゃん」
さすがにオレも気づいてほしくて、透子がわかるように伝える。
すると、そこから透子が黙って何やら考えこんでいる様子。
多分一つずつあの日のこと思い出していってるって感じ?
まぁオレ的には気付いてほしいけど、ちゃんと透子に自分で思い出してほしいから、そんな透子の姿を見つめながら待つ。
「もしかして・・・私が夢だと思ってたあの樹・・・。ホントにここにいたってこと・・?」
「そういうこと」
ようやく思い出したのか、恐る恐る確認してくる透子が可愛くて。
オレは微笑みながら返答する。
「はっ?えっ? あれホントに樹に私言ってたってこと!?」
「だからそうだって言ってんじゃん」
「えっ! あっ、そうなんだ!」
オレがそう言ってようやく受け入れたものの、なんだかまだ腑に落ちないような表情をしている。
なんでそんな複雑な表情してんの?
「嬉しかったよ。あの時。素直に好きって伝えてくれて」
「いや!あれは夢だと思って! ホントにいるとは思ってなくて!」
やっぱり夢の中だから素直に伝えてくれたって感じ?
だからちゃんとオレに直接伝えてくれればいいのに。
「なんで? いいじゃん。夢じゃなく、ちゃんとオレがその言葉聞けたんだから」
「まぁ、そうなんだけど・・」
「あの時ちゃんと気持ち聞けたから、オレは安心して透子迎えに行けた」
「でも・・ちゃんと伝えたワケじゃないし・・」
それでも透子の今の気持ちが本当の気持ちが知れて嬉しかった。
こんなに月日が経っても変わらずに好きでいてくれることが、オレにとっては何よりも嬉しかった。
「だからオレも好きだってちゃんと伝えたでしょ?」
「あれ・・ホントに樹が伝えてくれてたの・・?」
「そうだよ。あの時、透子迎えに行くって言ったのも覚えてない?」
「おぼ・・えてる・・」
「よかった」
「でも夢の中だと思ってたから、ホントにそうだって思ってなくて。自分が都合いい樹の空想作り出したのかなって」
「そんなワケないじゃん(笑) 勝手にオレ空想のヤツにしないでよ」
「だって・・・あの日。麻弥ちゃんのパーティーで見かけたけど、樹なんか遠くに行っちゃった感じがして寂しくなって・・・。パーティーでも一度も会いにも来てくれなかったし、結局そういうことなんだなって。やっぱりもうやり直すことは出来ないんだなって思って、それで最後にお酒飲んで忘れようとして・・・」
「ちょっと待って。相変わらず勝手だよね透子は」
「えっ・・・?」
「なんでそうやって勝手に忘れようとすんの? オレの気持ちは変わってないし、オレ自身も遠くに行ってもいなければ何も変わってない」
「だって・・・」
「でもまぁ、そんなことだろうとは思ってたけどね」
「え?」
「あの日、美咲さんから連絡もらってさ。透子がオレ恋しくなってどうしようもなくなってるから、どうにかしろって」
「えっ? そうなの?」
「だって透子見てられなかったしさ。そろそろ樹くんも動き出すことは知ってたけど、その前にどうしてもあの日は樹くんに知らせたくなって」
「美咲・・・」
正直あの時はそんな風に聞いて、いてもたってもいられなかった。
まだどうにも出来ないってわかっていたのに、透子に会いたい気持ちを止められなかった。
「まぁ、結局それからオレが店に駆けつけた時は、すっかり透子出来上がっちゃって酔い潰れてたからさ。しばらくオレは隣でそんな透子眺めてただけなんだけど」
「そうだったんだ・・・」
「だからあの時素直な気持ち透子から聞けて嬉しかったし、オレも透子に伝えた。もしかして記憶は飛んでて覚えてないかもなとは思ってたけど・・。まさか夢の中の出来事だと思ってるとは思わなかった」
「そっか・・・。だから、あの時、夢の中のはずなのに、やけにリアルで幸せな気持ちになれてたのか・・・」
「そりゃ。実際そこにオレいたからね」
夢の中の自分が羨ましいとか嫉妬するとか、まさかそんな初めての経験するとも思わなかったけど。
だけど、透子はそんな風に夢の中で想うほどオレのことを想ってくれて、そしてそれだけ不安だったんだなってわかった。
オレの中では、もし透子の気持ちが変わってしまったとしても、全部カタチにして自信もつけてすべての準備が出来たら、どんなに時間がかかっても透子を迎えに行くつもりだった。
だから少し離れても今のオレに出来ることをやり遂げることが先決だと思っていた。
だけど、透子はきっとそうではなくて。
離れてしまうことで、透子もまた違う不安を抱えたままでいたのかもしれない。
ただどうなるかわからない未来を、オレを信じて、透子はずっと待ってくれていた。
透子はずっと今のままのオレでいいと言ってくれてたのに。
オレが透子を幸せにしたいが為に、離れることを選んだ。
なのにそんなオレを、こうやってずっと想い続けてくれていた透子に、ただ感謝でしかない。
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