テラーノベル
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それから暫くして、静かな部屋に小さな寝息が聞こえてくる。
「……すぅ……」
真ん中で眠る希海はすっかり安心したのだろう。
いつの間にか昴の手を離して羽衣子の方へ向き、彼女の腕を抱き締めたまま規則正しい寝息を立てていた。
昴はその様子を見て安堵の息を吐く。
(……ようやく寝たか)
昴は希海を起こさないよう、そっと身体を起こし、
「……希海も眠ったようなので、私はリビングへ――」
そう小声で羽衣子へ告げながら視線を向けるも、
「…………」
羽衣子から返事は無く、よく見れば羽衣子もまた静かな寝息を立てて眠っていた。
緊張が切れたのだろう、穏やかな表情で眠っている。
気を張っていただけで、本当は限界だったのかもしれない。
二人を起こさないよう、昴が静かにベッドから抜け出した――その時だった。
「……きょうごく、さん……」
小さな声が聞こえ昴が振り返ると、眠ったままの羽衣子が微かに眉を寄せ、
「……っや……」
苦しそうな表情を浮かべながら、「いか、ないで……」と懇願するように呟いている。
何か不安になるような夢でも見ているのだろうか、ふいに零された声に昴の足が止まる。
今のはあくまで寝言で、聞かなかったことにして部屋を出ることも出来たけれど昴はそれをせずに羽衣子の方へ回ってベッドへ近付いた。
そして、羽衣子を起こさないよう静かに屈み込み、
「大丈夫だ。何処にも行かねぇよ」
そう言いながら、そっと頭を撫でた。
すると、不思議なことに羽衣子の表情から強張りが消えていった。
「……」
まるで昴の声が夢の中へ届いたかのように。
苦しげだった顔は徐々に穏やかになり、再び深い眠りへ落ちていく。
昴は暫くその寝顔を見つめていた。
無防備で、安心しきったような寝顔。
それを見ていると、妙に胸の奥がざわつく。
「……何やってんだ、俺は」
誰に聞かせるでもなく呟くと静かに立ち上がり、今度こそ起こさないよう寝室を後にした。
夜中にあれだけの騒ぎがあったこともあり、羽衣子も希海も目を覚ますことなく眠り続け、羽衣子が目を覚ました時には既に昼過ぎだった。
「えっ……!?」
まさかそんなに眠ってしまっていたとは思わなかった羽衣子が驚いていると、
「……ういちゃ……?」
隣で眠っていた希海も目を覚まし、眠そうに目を擦っていた。
そしてトイレに行きたいという希海と共に寝室を出ると、
「あ、おはようございます!」
廊下の拭き掃除をしていた皐月が声を掛けてきた。
「……っ、春川さん、すみません!! 私、全然起きれなくて……」
「いやいや、気にしないでください。むしろ寝れてよかったです」
羽衣子は早く起きれず家事を全て皐月に任せてしまったことを申し訳なく思っているようだが、皐月本人は全く気にした様子もない。
「それよりも、お腹空きましたよね?」
「うん、すいたー……」
眠たそうに答える希海に皐月が、「それじゃあ今から何か作りますから、下に降りてリビングで待っててください」と明るく返し、掃除道具を片付けていく。
希海のトイレに付き添った後で一階へ降りるも他の組員の姿は無い。
キッチンで食事の準備をする皐月に昴や他の組員の所在を羽衣子が尋ねると、
「皆さん、今はマンションに荷物を取りに行っているんですよ。引き払う手続きもあるから戻りは午後になるって言ってました」
「そう、なんですね。あ、私も手伝います」
「吾妻さんは希海くんと座っていてください! これくらい、俺一人で十分ですから」
羽衣子が手伝いを申し出るも、皐月は自分がやると言って断り、手持ち無沙汰になった羽衣子は希海と共にダイニングテーブルに着いて料理が出来上がるのを待っていた。
暫くして、テーブルには料理が次々に並べられていく。
温かいスープにパスタとサラダ。
それから手作りと思われるプリンまで運ばれてくる。
「プリンだー!」
「これ、春川さんが作ったんですか?」
「はい! 実は俺、料理は勿論お菓子作りも好きで、一時期パティシエを目指していた時もあったんです!」
「そうなんですか? 凄いですね」
「けど、あくまでも好きなだけ。実力はあまり伴ってなくて、パティシエになるのは諦めました。今はこうして趣味で作る程度なんですけど、ここに住むことになって吾妻さんや希海くんが居るから作り甲斐がありますよ! 沢山あるのでどんどん食べてくださいね!」
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「ありがとうございます、いただきますね」
皐月は極道とは全く無縁そうな見た目をしているけれど、彼もまた組員の一人だと思うとどこか信じられない羽衣子。
ただ、ひとつ屋根の下で過ごす中、皐月のような男の子が居ることは羽衣子にとって安心材料になっていた。
コメント
1件
うわあ……この回、すごく切なくてあったかかったです🥀 希海くんも羽衣子さんも、やっと眠れて本当に良かった……。 昴さんの「大丈夫だ、何処にも行かねぇよ」って、寝言に応える優しさが染みました。 それなのに「何やってんだ、俺は」って自分を止めるところ、胸がざわつく感じ、すごく伝わってきました。 皐月くんの料理とプリンも、新しい日常の温かさがじんわり来て、ほっとします🌙 次がどうなるか、本当に気になります。