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食事を終えた後、羽衣子はすぐに立ち上がった。
「あの、せめて洗い物は私がやります」
「え?」
「残りの家事もやりますから春川さんは――」
羽衣子がそう言うも、皐月は苦笑しながら首を横に振る。
「今日はダメです」
「でも……」
「若頭から、“今日は一日ゆっくりさせろ”って言われてるんで」
「……っ」
「なので、お気になさらず!」
言ってにこっと笑う皐月に羽衣子は、それ以上何も言えなくなってしまう。
そこへ、玄関の方から複数人の声が聞こえてきて昴や組員たちがマンションから運び出した荷物を次々と家へ運び込んで来る。
「これ、どこ置きます?」
「とりあえず二階に頼む」
段ボールや荷物が廊下へ並んでいく中、食事を終えて廊下へ出た希海は、
「わぁ……!」
と言いながら目を輝かせた。
「パパ! ぼくもおてつだい! する!」
「あ、待って希海くん……!」
ぱたぱたと荷物の方へ向かう希海を止める為、羽衣子も慌てて後を追う。
「あの、私も手伝います」
「良いんですよ、男手は沢山ありますから」
「でも……何もしないのは落ち着かなくて」
「……それでしたら、二階に運んだ荷物の整理をお願い出来ますか?」
「はい! 希海くん、一緒にお手伝いしよっか」
「うん!」
こうして羽衣子と希海は運ばれてきた荷物の中身を整理し始める。
「これはこっちかな……」
「ういちゃ、これー!」
「これはこっちにお願いします」
「はーい!」
楽しそうに整理をする二人の元へ、通りかかった皐月が顔を覗かせた。
「あ、俺も手伝いますよ」
「え、でも家事が……」
「今ちょうど一区切りついたんで!」
そう言って運ばれて来た新たな段ボールを持ち上げる。
三人で並んで作業していると不思議と空気が和やかだった。
希海はすっかり皐月に懐いており、楽しそうに笑っている。
皐月も子供の扱いに慣れているのか上手く相手をしていた。
その様子を通りかかった昴が目にする。
笑い声に楽しそうな空気。
怯えていた昨夜とは違う穏やか表情の羽衣子。
それを見て、昴の胸の奥に妙な感覚が生まれた。
(……なんだこれ)
本来、羽衣子が少しでも安心出来ているなら、それでいいはずで、皐月を傍に置いたのも、その為だった。
それなのに、羽衣子が皐月へ笑顔を見るたび、何故か落ち着かない。
「|若頭《カシラ》?」
組員に呼ばれ、昴はハッと我に返る。
「……ああ、悪ぃ、どうした?」
「この荷物なんですけど――」
組員と会話をしながらも昴の意識は三人の方へ向いてしまっていて、あまり会話になっていなかった。
夕方になる頃には、ひとまず荷物の整理も落ち着いていた。
まだ完全に片付いたわけではないが、生活する分には困らない程度には整ってきたので、今日はこれくらいにしようと言うことで作業は中断された。
そんな中、リビングでスマートフォンを確認していた昴がふと口を開いた。
「……夕飯、外で食べませんか?」
「え?」
「家で食べてもいいんですが……家だと吾妻さんがじっとはしていられないようですからね」
図星を突かれ、羽衣子が言葉を詰まらせた。
「何もしなくていいって言っても、多分気にするでしょうし」
「……すみません」
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「いえ、謝る必要はないですよ」
昴は小さく笑った後、リビングを走り回っている希海へ視線を向けた。
「それに、希海も元気が余ってるみたいなので」
昼過ぎまで眠っていた分、体力が有り余っているのだろう。
希海はソファーへよじ登ったり降りたりしながら、「おでかけしたい!」と騒いでいる。
「少し外へ出た方が気分転換にもなるでしょうからね」
「……そうですね」
その言葉に羽衣子も小さく頷いた。
ただ、夜中に襲撃があったばかりなので、三人だけで出掛けるわけにはいかない。
「組の者も同行させます」
安全が確保されている訳でないこともあり、昴が当然のように告げる。
普段なら、こういう時は乙哉が付いて来るのだが、襲撃で負った怪我は思った以上に深かったらしく数日間安静が必要とのことで病院へ入院していた。
「……広瀬さん、大丈夫でしょうか」
「命に別状はないので、数日で退院出来るとのことですから」
そう答えながらも昴の表情は少し険しい。
そして、誰を同行させるか考えた末――
「皐月、お願い出来ますか?」
「え、俺ですか!?」
名前を呼ばれた皐月が目を丸くする。
「希海も懐いているようなのでね」
「はい!」
皐月は普段、雑用ばかりを任されていることもあって、同行などで声を掛けられたことが嬉しいらしく笑みを浮かべている。
そんな皐月を見ながら、昴はふと昼間のことを思い出す。
三人で並んで荷物を整理していた姿。
楽しそうに笑っていた羽衣子と自然に距離を縮めている皐月。
(……何なんだよ、一体)
思い出すと、胸の奥が妙にざわつき、考えないようにしても、皐月と羽衣子が会話を交わすたびに気になってしまう。
勿論、皐月を信用していないわけでは無いし、むしろ、羽衣子の精神的負担を減らすために置いている存在だから居ないと困るけれど、
「|若頭《カシラ》? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもねぇ。車、表へ回しておいてくれ」
「はい! 分かりました!」
そこまで考えた昴は眉間を押さえ、無理矢理思考を切った。
コメント
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みぅです🤍🥀 第40話、読みました。 昴が皐月と羽衣子の距離感にざわついてるの、すごく良かったです。自分の判断で皐月をそばに置いたのに、実際楽しそうにしてるところを見ると落ち着かない…って、もう完全に恋心の自覚前のムズムズ感じゃないですか🌙 希海くんが皐月に懐いてるのも、家族っぽくてほっこりする反面、昴からすると複雑ですよね。 次、外食でさらに展開がありそうで楽しみです!