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お股ポテト
29
はるにし
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また一週間が過ぎて、ムスクがやってきた。
今日は一人じゃなかった。
「猫魔の子がいるね」
「いるね、いるね。猫魔だね」
ムスクの足元に、小さな双子がいる。
僕より幼く見えるけど、何かが違っていそうだ。
「ムスク、どういうことだい」
シュメリが、鋭く問いただした。
「このままにはできないでしょう。せめて魔力を体の外に出して、猫魔の姿になれないと、リンネも不便でしょうから」
ムスクはあくまで心配してくれているんだろう。
でもシュメリは不機嫌そうだ。
「余計なお世話だよ。ムスクは魔花を開かせたいだけだろう」
「そうではありませんよ」
ムスクが、足元のちびっこ二人を前に出した。
「二人は魔術の訓練員です。リンネに負担なく魔力を引き出してくれます」
シュメリが後ろから僕の体を抱き締めた。
ずるずると後ろに下がる。
「シュメリ。とても騎士団長の振舞とは思えませんよ」
ムスクが呆れた顔をした。
「ムスクが強硬手段をとるからだ」
「シュメリ、俺もリンネの魔力を引き出すのには、賛成だ」
「バルトまで!」
シュメリがショックな顔をしている。
「猫魔の姿になれないと、リンネにストレスが溜まるんじゃないかと思う。ホラ、この前のように植木の中に潜ったり」
バルトの言葉を受けて、シュメリが思い出した顔をした。
「確かに、猫のような仕草が、最近は増えたね」
シュメリの表情が思いっきり迷っている。
「最低限の魔力の放出で、自在に猫魔になれるはずです」
「リンネが猫魔の姿になれないのは、本当に魔力のせいなんだろうね」
疑うシュメリに、ムスクが息を吐いた。
「キノ、カノ。リンネの状態確認を」
「はい、ムスク!」
「は~い、ムスク」
足元の双子が、それぞれに手を上げた。
その手を、僕に向けた。
「ちょっと遠いけど、魔種の拍動を感じるよ」
「魔力がいっぱい溜まっていて、辛そうだね。弾けそう」
キノとカノが口々に指摘する。
「弾ける⁉」
シュメリが叫んだ。
「弾けないまでも、魔力が内側に溜まれば不調を訴えるのは、よくある話でしょう」
ムスクの指摘に、シュメリが何も言えなくなっている。
実際、僕が熱を出して倒れているからだろう。
「リンネ、やってもらおう」
バルトが僕の手を握った。
「バルト!」
「シュメリ、らしくねぇぞ。そろそろ聞き分けろ。危険はねぇよ」
「……絶対安全とは言えない」
「それでも、だ。絶対危険でもない。そうだろ」
「そう、だけど」
シュメリが唇を噛む。
名残惜しそうに僕の体を離した。
「リンネ、こっち」
「こっち、こっち」
促されるまま、双子に近付く。
カノとキノが僕の両手をそれぞれ掴んだ。
「一瞬だよ。僕の魔力と」
「僕の魔力を、流すだけ」
握られた手が温かくなった。
キノとカノの魔力が流れ込んでくる。
(熱いの、いっぱい流れ込んでくる。僕の魔力が、溢れちゃう)
体の奥に眠っていた魔力が波打って、揺れている。
キノとカノの魔力に押し上げられて、外に飛び出す。
「んっ……出る」
ふわり、と魔力が水色のベールになった。
「あ……」
水色のベールが僕の体を覆った。
ベールが解けると、僕の体は猫魔に変わっていた。
「うにゃ」
僕は、キノとカノを見上げた。
「可愛いね」
「猫、いいね」
二人に頭を撫でられた。
「あぁ……リンネ」
シュメリが不安そうに僕を見守っている。
隣でバルトが、シュメリが暴走しないように抑えているみたいだ。
「じゃ、人になってみよう」
「戻ってみよう」
前足を掴まれて、また二人の魔力が流れ込んでくる。
僕は自分の魔力を押し出した。
水色のベールが僕を包む。
剥がれ落ちると、人の姿に戻っていた。
「ちゃんと、戻れた」
僕は自分の手足をまじまじと眺めた。
「魔力の流れ、感じたかな?」
「溢れる感じ、掴んだかな?」
キノとカノの質問に、僕は頷いた。
「うん、ちゃんとわかったよ」
どうやって使うかも、何となく、感覚で掴めた。
「リンネ!」
シュメリが僕に抱き付いた。
「花は咲かなかったよ」
「開きかけのままだよ」
キノとカノがシュメリに向かって交互に教えた。
「そうか。だったら、魔術師団にはリンネを連れて行く理由がないね」
シュメリがムスクをねめつけた。
「連れて行ったりはしませんよ……今はね」
ムスクが僕の前に屈んだ。
「これでリンネは、人の姿を自分の魔力で維持できます」
「ムスクさんの魔法がなくても?」
「もう私の魔法は必要ありません。自分の魔力を感じるでしょう?」
「うん……魔力って温かいんだね」
ムスクがニコリと笑んだ。
「今は、それだけ感じられれば充分です。猫魔と人の姿を、バランスよく使ってください。それが魔力維持にも繋がります」
「わかりました」
ムスクがシュメリに目を向けた。
「これ以上は、魔花が開く可能性があります。私の譲歩は、ここまでですよ」
「わかった。……助かるよ、ムスク」
ちょっとバツの悪そうな顔で、シュメリが呟いた。
バルトが隣で、シュメリの肩を叩いていた。
「明日からバルトは魔術師団入団です。待っていますね」
「よろしくお願いします」
バルトがムスクに頭を下げた。
魔術師団に入れば、ムスクはバルトの上官になる。
(未来が、動いてる)
今まで通りだったものが、少しずつ未来に向かって形を変える。
シュメリが、僕を抱き寄せた。
「無理は禁物だよ、リンネ」
「うん、わかったよ」
僕はシュメリの手を撫でた。
変わっていく中で、僕の変化だけは、シュメリもバルトも望まない。
僕だけが止まったままだ。
(でも今日、少しだけ変われた)
自分の意志で猫魔に変化できるようになった。
僕にとって大きな一歩だ。
僕は嬉しい気持ちで、シュメリとバルトの手を握った。
コメント
1件
キノとカノ、可愛すぎる!!😭💕 双子の訓練員という新キャラ登場でワクワクしたよ〜。リンネが自分の力で猫魔になれた場面、水色のベールに包まれる描写がすごくファンタジーで美しかった✨ シュメリの過保護な感じとバルトの冷静なフォロー、ほんと良いバランスだよね。変わっていく世界で“少しだけ変われた”リンネの成長が尊すぎる…🌸 この先も応援してるよ!