朝の冷たい光を感じて瞼を開ける。
シーツのぬくもりを残したまま体を起こすと、白く澄んだ光が部屋を満たしていた。
布団の中と部屋の冷たい空気の温度差で体が軽く震える。
そんな朝の静けさを破る様に、まだ眠たい脳と耳には痛い着信音が鳴った。
耳をつんざく様な音に苛立ちながらも電話に向かう。
「…はい」
「Bonjour!おはようアーサー!」
透き通った朝の空気に、聞きたくなかった音色だけが濁点のように落ちる。
「…おはよう、もう切っていいか?」
「ちょっと!ダメだよ〜挨拶するためだけに電話したんじゃないんだから。」
「ねぇ!今日うち遊びに来てよ!」
その言葉は、耳に触れる前にそっと拒みたかった。
朝のゆっくりしたい時間に電話された事だけが気分の悪さの原因じゃないだろう。
「…ちょ〜っと今日は用事がぁ〜…」
「いやいやいやいや」
「今日予定がないのは調査済みだぜ!」
「きっっっ…もち悪いなお前…何で知ってんだよ…」
「恋人の予定くらいは、ね★」
その一言が、空気の温度をひとつ下げた。
「きっっっっっ…もち悪いなお前…恋人じゃねぇよ…」
いくつか雑談を交わして、ようやく通話は終わった。
だが、この気持ちに反して時を刻む秒針の音が、いつもより柔らかく響いて聞こえた。
「アイツの家…に行くには早すぎるし…なんか買っていくか。」
足元に春風でも吹いたかのように、歩調が自然と早くなった。
門をくぐった瞬間、世界がふわりと光を帯びたように感じられた。
枝先で小鳥が囀り、花びらの間に小さな蝶が舞う。
空気は甘く、ほんのり温かくて、足を踏み入れるごとに胸の奥がじわじわと熱くなる。
遠くで風に揺れる草のざわめきさえ、心臓の高鳴りに共鳴しているかの様だった。
ピンポンを鳴らす。
アイツの声が聞こえる。
「は〜い アーサー?」
「うん」
「ドア開けに行くから待ってて〜!」
「はーい」
ガチャ、とドアが開く。
アイツの顔が覗く。
ちらりと覗いた見慣れた顔に、胸がひそかに動き、口元だけが無意識に和らいだ。
「何笑ってんの〜?早く入ってよ!」
「笑ってない!」
アイツがいる場所に早歩きで向かう。
自分の気持ちにまだ気づかずに。
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