テラーノベル
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#独占欲
健康管理室のドアをノックすると、聞き慣れた澄んだ声が返ってきた。
「はーい」
「俺、不整脈かも。……なんか、さっきから心臓おかしいんすよ」
「えっ!? 王子谷さん、どうしたんですかその顔! 青白いですよ!?」
デスクで事務作業をしていた小森が、弾かれたように立ち上がった。
すぐに聴診器を耳にかけ、慌ただしく椅子を引く。
「すぐにバイタルチェックしますね! 王子谷さん、そこに座って、上脱いで下さいっ!」
ワイシャツに手をかけ、ボタンを外す。
「……失礼します」
彼女が聴診器を、俺の胸板に滑り込ませた。
(……っ!!)
冷たさに体が強張るが、それ以上に、彼女の身体がぐっと近づいたことに息が止まる。彼女の髪から漂う石鹸の香り。真剣な眼差し。至近距離にいる彼女の存在が視界を占領していた。
「…………」
彼女が黙り込む。
室内には、遠くで聞こえるオフィスの雑音と、俺の鼓動だけが響いている気がした。
「深呼吸してください」
「…………ふー、っ、はー……っ」
「ダメです、全然落ち着いてないですよっ」
くすっと、彼女が小さく笑う。
「というか、これ、不整脈じゃないです!」
「……は?」
聴診器を外しながら続けた。
「一時的なものですねっ! よくあるのは、走ったあととか……。ここまで来るとき走りました?」
「いや」
「じゃあ、仕事でストレスとか?」
「……」
(……いや、違う気が……)
「それに顔も赤いし……もしかして熱あります?」
そう言って、彼女が一歩踏み込んでくる。
(……え)
一瞬、思考が止まる。次の瞬間――彼女の手のひらが、俺の額に触れた。
ドクン。
ドクン、ドクン、ドクン――!
「……あ」
一気に心臓が跳ね上がった。
「うーん……熱はなさそうですね」
「……」
「緊張とかで一時的に心拍数が上がることって、よくあるんですよっ?」
「……そういうもんか」
「はいっ!」
にこっと、無防備な笑顔。
「大丈夫です! 心配いりませんよ!」
「……」
(違うと思う)
(これ、絶対おかしい)
(俺、心臓壊れてんじゃねえ?)
小森が首を傾げる。
「王子谷さん?」
「……いや」
俺は視線を逸らしたまま、小さく息を吐いた。
「……まだ動悸するっす」
「えっ!? じゃあもう一回診ますか?」
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