テラーノベル
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混乱したままの若井と涼ちゃんを横目に、僕は「始めよ〜」とマイクに向かった。
一度レコーディングが始まれば、そこは僕の聖域だ。スタッフもメンバーも、一瞬で「プロの顔」に切り替わる。若井は相変わらず難しいフレーズに悪戦苦闘しながらも、食らいつくようなギターを弾いているし、涼ちゃんも複数の楽器を器用に使い分けて、楽曲に色を添えていく。
……はずなんだけど。
「若井、今のピッチ甘い。もう一回」
「涼ちゃん、そこもっとタイトに。遊びすぎ」
なんだか、いつもより厳しめにディレクションを出してしまう。
二人とも、どこか意識が「後ろの席」に引っ張られているのが手に取るようにわかるからだ。ダメだね、プロなんだから集中してくれないと。
そんなことを言いながら、一番集中できていないのは僕かもしれない。
視界の端、僕の椅子にちょこんと座って、食い入るようにスタジオを見つめているらんちゃん。機材の一つ一つ、スタッフの動き、僕たちのやり取り。その全てを吸収しようとする彼女の瞳があまりに綺麗で、ブースの中からでも、ディレクター席に座っていても、気づけば彼女を探してしまう。
(あ、また目が合った……)
ふとした瞬間に視線が重なると、彼女は「あ、邪魔しちゃったかな」とでも言いたげに、慌てて視線を落としたり、あるいは勇気を振り絞るように小さく頷いたりする。
可愛すぎでしょ。
スタッフと打ち合わせをしているフリをして、0.5秒の隙を見つけては彼女の様子を伺う。
あんなに熱心に見つめられたら、こっちだって「最高の僕ら」を見せなきゃって、いつも以上に気合が入る。
「……よし、次、サビ行こうか」
若井たちの動揺を叱っておきながら、僕の心臓も、彼女の視線を感じるたびに少しだけテンポが速くなっていた。これは内緒だけど。
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🌹はなみせ🍏