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展望台をあとにして、ゆっくりと坂道を下りながら、私たちは手を繋いだまま話すでもなく歩いていた。風が少し涼しくなった。
誠也くんがぽつりと呟く。
『……ここまで自然に手ぇ繋げるの、不思議やわ。誰とでもこうなるわけやないのに。』
「うん。私も、なんでこんなに落ち着くのか分からない。」
ふと、彼の手の温かさを確かめるように、指先に力をこめた。
その瞬間。
“こうやって、お前の手を握れるのが、どれだけ幸せか。”
どこかで聞いた。誰かが、私に言った。
でもそれは誠也くんじゃない。
いや、違う。
誠也くん“だった”ような気がする……
けど、今じゃない。
ガクンと足が止まり、目の前がぼやけた。
『……どうしたん?』
「今、急に……“前にもこのセリフ聞いた”って思ったの。しかも、同じ声で……」
誠也くんの目が驚きに見開かれる。
『俺もや』
「えっ?」
『今、ふと思い浮かんだんや。“何があってもお前を守る”って……言った気がして。けど俺、そんなこと……言うたっけ?』
小さな沈黙。
鼓動だけが、ふたりの間で静かに鳴っている。
『記憶、ないはずやのにな』
「なのに、心だけが覚えてる……」
誠也くんと見つめ合ったその瞬間、胸が苦しいほど締めつけられた。
この人と、前にも同じ夜を歩いた気がする。
愛して、失って、また巡り会った……
そんな気がしてならなかった。