テラーノベル
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『なあ……もし、俺がどっか行ってまうってなったら、どうする?』
ふいに誠也くんが言った。
帰り道、夕暮れの影が長く伸びるなか。
スーパーの袋を提げた私の手を、誠也くんがふわりと握る。
「どういうこと?」
『分からん。たとえば、どっか遠くに行くとか……急に会われへんようになるとか。そんなこと、今までは想像すらせんかったのに……今は、ちょっと怖いんよ。』
その声に、胸がドクンと鳴った。
「……それ、私も思った。昨日、ベッドで。また朝起きたら、いなくなってるんじゃないかって。」
『なんで、そんな不安になるんやろな。出会ってまだ……数日やのにな』
「でも、“数日”じゃない気がする。もっと前から知ってる。ちゃんと愛して、多分……失ったことがある。」
誠也の手が、ぎゅっと強くなる。
『ホンマはな、昨日夢見てん。誰かの名前を呼んで、何度も探してて……でも、そいつがどこにもおらん夢やってん。』
「……私も。夜の海辺で、誰かを待ってた。待って、待って、泣いて……」
重なる夢。重なる喪失。
なぜか誠也くんのことを、失いたくないって強く思ってしまう。
『だからこそ、離れたないって思うねん。あんたとおる時間、全部ちゃんと感じたい。大切にしたいって。』
言葉が、心の奥にすとんと落ちる。
「誠也くん」
『ん?』
「今度は、ちゃんと……最後まで、隣に居て。」
『約束や。』
静かに交わされた言葉が、どこか懐かしく、でも新しくて。
私の心に、温かな灯をともした。
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