テラーノベル
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【短歌】
夏の日の 一夜限りの 花火でも 君と見たなら 永遠になる
【短歌をテーマにした物語】
花火大会の日は、朝から少しだけ落ち着かなかった。
浴衣を着るわけでもない。
特別なプレゼントを用意したわけでもない。
ただ、恋人と一緒に花火を見る。
それだけなのに、彼女は何度も時計を確認していた。
待ち合わせ場所に着くと、すでに彼が来ていた。
「早かったね」
「そっちこそ」
二人で顔を見合わせて笑う。
そこから屋台を見て回り、焼きそばを買って、かき氷を食べた。
どれも特別なものではない。
けれど、彼と一緒だと何をしていても楽しかった。
「そろそろ始まるかな」
「うん。あっち行こう」
二人は人の流れに合わせて、少し離れた河原へ向かった。
空はすっかり暗くなっていた。
遠くで話し声が聞こえ、風に乗って夏の匂いがする。
そして――。
ドン、と大きな音が響いた。
「始まった!」
彼が空を指差す。
次の瞬間、夜空いっぱいに大きな花が咲いた。
「わあ……」
彼女は思わず声を漏らした。
赤、青、黄色。
いくつもの光が夜空を彩り、ほんの数秒で消えていく。
そのたびに、少しだけ惜しいと思う。
「きれいだね」
「うん」
二人は並んで空を見上げた。
次々と打ち上がる花火。
大きな音。
歓声。
夏の夜。
彼女はふと、隣を見た。
彼も空を見ている。
花火の光が、彼の横顔を一瞬だけ照らしていた。
その顔を見た瞬間。
彼女の胸に、別の思いが浮かんだ。
――この時間が終わらなければいいのに。
花火は、一瞬で消えてしまう。
どれだけ綺麗でも、ずっと空に残っていることはできない。
だからこそ、今この瞬間を覚えておきたいと思った。
「どうしたの?」
羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し

1
彼がこちらを見る。
「ううん。なんでもない」
「花火、見ないの?」
「見てるよ」
彼女は笑った。
そして、もう一度空を見上げた。
最後の花火が、夜空に大きく広がった。
今までで一番大きな花だった。
光が消えると、あたりは少しだけ静かになった。
「終わっちゃったね」
「うん」
彼が少し寂しそうに言う。
「また来年も見よう」
その言葉に、彼女は笑った。
「うん。約束」
二人はゆっくりと帰り道を歩き始めた。
花火の音は、もう聞こえない。
夜空も、いつもの暗さに戻っている。
それでも彼女の中には、さっきまでの景色が鮮明に残っていた。
大きな音。
夜空に咲いた光。
隣で笑っていた彼。
そして、「また来年」という約束。
花火は一夜限りだった。
同じ花火を、同じ瞬間に見ることは、もう二度とできない。
だからこそ、この夜は特別なのだと思う。
いつか何年も先になって、この夏のことを思い出したとき。
「あのとき、一緒に花火を見たね」
そう言えるなら。
消えてしまった花火も、二人の記憶の中では、きっと消えない。
夜空に咲いた光は、一瞬だった。
けれど、その一瞬が二人の思い出になったなら。
それは、ずっと残っていく。
彼女は隣を歩く彼を見て、もう一度笑った。
夏の日の、一夜限りの花火。
それでも――。
君と見たなら、永遠になる。
コメント
1件
うわあ、読んでいて胸がぎゅっとなりました。派手な仕掛けはないのに、ひとつひとつの動作や会話が鮮やかに浮かんでくる。花火が消えたあとの静けさと、「また来年」という約束のあたたかさの対比が本当に美しいです。特に「同じ花火を、同じ瞬間に見ることはもう二度とできない」という一文に、一瞬の尊さがぎっしり詰まっていて、すごく刺さりました。短歌も物語も、一貫して「一瞬の永遠」を描いているのが素敵です。水曜さん、素晴らしい作品をありがとうございます。