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真司とあんなふうにすれ違ってから、三日が過ぎた。
隣のデスクに座っていても、交わすのは必要最低限の業務連絡だけ。
あの日、耳元で囁かれた甘い声も
指先から伝わってきた情熱的な熱も、まるで遠い昔の出来事のように感じられた。
定時を過ぎ、一人でマンションに帰宅する。
以前なら、一人で過ごす夜なんて当たり前だったのに。
「……静かすぎる」
冷蔵庫を開けても、中には適当なサラダとビールだけ。
ふと、真司が私のためにキッチンに立ち、手際よく料理を作ってくれた夜を思い出す。
「ずっと狙ってた」
そう言って私の心を強引に、でも優しくこじ開けた彼の真っ直ぐな瞳。
守られることを「邪魔」だなんて、どうしてあんな残酷な言い方をしてしまったんだろう。
私は、一人の人間として対等でありたいと願うあまり、彼の愛そのものを否定してしまったのかもしれない。
お風呂に浸かっても、ベッドに入っても、考えるのは真司のことばかり。
冷たい言葉を投げかけた私を、彼はどんな気持ちで見つめていたんだろう。
スマホを手に取り、彼とのメッセージ履歴を遡る。
そこには、無骨で短い、けれど私を気遣う言葉が並んでいた。
今の私は、仕事の査定や周りの目なんかより、彼が隣にいないことの方がずっと、ずっと───
「……バカみたい」
枕に顔を埋めると、微かに真司の香りがした。
シーツを新しく変えたはずなのに、鼻腔の奥にこびりついて離れない、あの清潔な石鹸の匂い。
会いたい。
今すぐ、彼の腕の中で、あの強引で独占欲の強いキスをしてほしい。
窓を叩く雨の音が、私の孤独を煽る。
29歳
大人だからこそ、素直になるのがこんなに難しいなんて知らなかった。
でも、このまま彼を失うくらいなら
私は「同期」なんて肩書きはいらない。
決意を固めた私の指は、電源を切っていたスマホの起動ボタンを強く押し込んでいた。