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外は、予報通りの土砂降りだった。
私は傘も差さず、タクシーを飛び出して真司のマンションへと走った。
冷たい雨がブラウスを濡らし、肌に張り付く。
でも、今の私にはそんなことどうでもよかった。
「……お願い、いて」
震える指でインターホンを押す。
数秒の沈黙が、永遠のように長く感じられた。
カチャリ、と鍵が開く音がして、ドアの隙間から真司が顔を出した。
部屋着姿の彼は、ずぶ濡れの私を見て、驚きに目を見開いた。
「……亜希っ!何してんだよ、こんな雨の中」
「真司…ごめん、私……謝りたくて、来ちゃったの」
言葉がうまく出てこない。
冷え切った身体のせいか、それとも溢れ出した感情のせいか、視界がじわじわと滲んでいく。
「仕事が大事なんて嘘だから、査定なんて、本当はどうだっていいの。ただ、あんたに甘えて、仕事が疎かになるのが怖かっただけ…私、あんたに並び立てるくらい強くなりたくて……」
真司は無言で私の腕を掴み、部屋の中へと引き入れた。
暖かい空気に包まれる。彼はすぐにバスタオルを持ってくると、私の頭からバサリとかぶせた。
「……ほんっとに…バカかよ、風邪引いたらどうするんだ」
その声は、怒っているようでいて、酷く震えていた。
タオル越しに、彼の大きな手が私の頬を包み込む。
「…でも、俺の方こそ、ごめん……亜希が必死に築いてきたものを、俺の独占欲で壊そうとした。同期として、お前がどれだけ仕事にプライドを持ってるか、誰よりも知ってたはずなのに」
「真司……」
「でも、これだけは分かってくれ。俺は、お前を『守られるだけの女』なんて思ってない。一番尊敬してるライバルで……一番愛してる女なんだ」
彼の言葉が、雨で冷え切った心の奥底を熱く溶かしていく。
私はタオルの上から彼にしがみついた。
濡れた服なんて関係ない。ただ、彼の心臓の音を確かめたかった。
「…なら、私も正直に言うけど…私、真司の隣にいたい」
「……言ったな。取り消すなよ、その言葉」
真司の腕に、折れそうなほど力がこもる。
重なり合う唇からは、雨の冷たさと、それを上書きするほどの熱い体温が伝わってきた。
これまでで一番激しく、そして一番優しいキス。
雨音が遠く聞こえる静かな部屋で、私たちはもう一度、最初から恋を始めた。
今度は、仮面も意地も、何一つ持たないありのままの姿で。