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余とイリスは3階層を進んでいく。
出現する魔物は、2階層までよりひと回り強力だ。
これでは、他の生徒たちは苦戦しているのではなかろうか。
「イリス。ここからは、今まで以上に慎重にいくぞ」
余が魔力と闘気を開放すれば、こんなダンジョンなど塵も残さず消しされる。
しかし、それはマズイ。
他の生徒たちが死んでしまう。
それに、学園の近くにあるこの便利なダンジョンを消すのも良くない。
適度に力を落として戦う必要があるのだが、この加減が難しいのだ。
人が子犬を蹴飛ばさないように歩くのは、最低限の注意を払えば可能だ。
象が蟻を踏まないように歩くのは、かなり難しい。
竜がミジンコを潰さないように歩くのは、不可能に近い。
力の差があるほど、加減というものの難易度が上がっていくのである。
魔王である余は力加減にも多少は秀でているので不可能とまでは言わぬが、それでもなかなかに神経を使う。
「わかりました。わたしも、油断しないように心掛けます」
「うむ。だが、そう肩肘張ってばかりいても仕方ない。余裕を持って臨めばよかろう」
余は歩き出す。
イリスはその後に続く。
しばらく進むと、前方から大きな影が現れた。
「むっ! あれは……」
「オークですね。ご存知の通り、ゴブリンよりも上位種で、人型の中では危険度が高い魔物です」
「うむ。では、余が先制攻撃を行う。久しぶりに、剣を使ってみるか」
「はい。お任せします」
余は空間魔法を発動し、異空間から魔剣を取り出す。
「ふん」
余は両手で剣を持ち、頭の上で振りかぶる。
そして、オークに駆け寄り、すれ違いざまに一撃を加えた。
「ブモォオオオッ!?」
オークが悲鳴を上げる。
これで終わりではない。
続けてやつの左右の腕に深い傷を負わせる。
そして、最後にトドメの一太刀を浴びせた。
「ふう。久しぶりだったが、この程度の魔物の相手はできるな。魔法よりも多少は加減がしやすい」
魔剣に付いた血を振り払いながら余はそう呟く。
「陛下、さすがです! わたしもそれなりに動きに自信があるのですが、陛下を見ていると自信をなくしそうです」
「余と比べるのが間違いだ。しかし、イリスはまだ上を目指せる。精進するがよい」
「はいっ! 頑張ります!」
それからも何度かオークに遭遇したが、余が圧倒的な力で蹂躙した。
たまに強い個体もいるのだが、その程度は問題にならない。
「陛下。さっきから陛下が無双していますけど、わたしがやることってあるんですかね?」
「余の戦いを見て学ぶがよい」
「はい……。陛下が強いのはわかっているつもりでしたが、ここまで圧倒的だとは思いませんでした」
「まあ、イリスにはまだまだ余の背中すら見えぬであろうな」
「……………………」
イリスがジト目で見てくる。
「何だ? 言いたいことがあるならハッキリ言うがよい」
「いえ。何でもありません。陛下は強いなって思っただけです」
「ふむ。当たり前のことではないか。余は最強なのだぞ」
「はい。わたしも、もっと強くならないといけませんね!」
「今のイリスの実力でも十分であると思うが、向上心を持つのは良いことだ。これからも励め」
「はいっ!」
そんな会話をしながら、ダンジョンの中を進んでいった。
そして、3階層に到着して1時間以上が経過した頃。
「……む? この近くから、魔族の気配を感じるな……」
「こんな奥にですか? 他の生徒たちもなかなかやりますね。いくらわたしたちがのんびり進んでいたからといって……」
「そうだな。これは……フレアのようだ。おそらくは1人」
「えぇっ!? フレアさんがいるのはいいとして、1人だけでですか!?」
イリスが驚く。
余も驚いた。
まさか、フレアが単独で行動しているとは思わなかったのだ。
「どういうことでしょうか? 他の生徒たちと逸れたとか?」
「かもしれぬな。しかし、なんと不用心なことよ。1人でダンジョンの奥地まで来てしまうとは……」
「あっ! 今、何か光ったような気がします」
イリスが指差してそう言った。
確かに、遠くの暗闇の中で光が瞬いたように見えた。
「ほう。フレアは、火魔法を発動しているのか。どうやら、戦闘中のようであるな」
「あそこまで行きますか、陛下?」
「うーむ。面倒事の気配を感じるが、ここで引き返しても仕方ない。行ってみよう」
「わかりました」
こうして、余とイリスは音がする方へと進み始めた。