テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#文スト&暗殺教室
Luz🍀* ゚
88
7,861
#クロスオーバー
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ガチャン、という重々しい電子ロックの音が室内に響き渡り、太宰の足音が完全に遠ざかる。
部屋を支配したのは、耳が痛くなるほどの静寂だった。
ベッドの上、短く繋がれた鎖の限界まで身体を引いていた中也は、ようやく肺に溜まっていた息を吐き出した。
首筋に刻まれた生々しい噛み痕が、ドクドクと拍動を刻んでいる。
衣服の隙間から、昨晩浴びせられた太宰の蜜の匂いが、逃げ場のないこの密室に濃密に満ち満ちていた。
「……クソが……っ」
中也は枷の嵌められた両手首を顔の前に掲げ、ギリ、と奥歯を噛み締めた。
探偵社
あの男は、今や昼の世界の住人だ。
白日の下で、正義だの、人助けだのと宣いながら、涼しい顔をしてデスクに向かっているのだろう。
国木田とかいう真面目な相棒に小言でも言われながら、のうのうと書類でも捲っているに違いない。
その裏で、かつての相棒をこんな薄暗い檻に閉じ込め、獣のように貪り尽くしている。
そのあまりのギャップと、自分だけが泥の底に置き去りにされているという事実が、中也のプライドを容赦なくズタズタに引き裂いた。
「あいつが……光の世界、ねぇ……笑わせんじゃねぇよ……っ」
激しい怒りと屈辱に身を焦がしながら、中也はベッドボードに繋がれた鎖を力任せに引っ張った。ガシャ、ガシャリ、と虚しい金属音が響く。
異能を絞り出そうとしても、身体の芯にある熱が、太宰の特注の枷によって冷たく押さえ込まれてしまう。
それどころか、力を込めようとすればするほど、昨晩刻まれたαの支配因子が肉体の内側で蠢き、背筋をゾクゾクとするような快感の残滓が駆け抜けた。
「は、……っ、ぅ……!」
中也はベッドに突っ伏し、荒い息を吐いた。
身体が、あいつの熱を覚えている。
殴り飛ばしてやりたいほど憎い男なのに、その男に徹底的に暴かれたΩの肉体は、太宰の圧倒的な支配の香りに、どこか安堵すら覚えていた。
その事実が、中也にとって何よりも耐え難い絶望だった。
――それから、どれほどの時間が経っただろうか。
カーテンの閉まった部屋では、時間の感覚が容易に狂う。
中也はただ、壁に掛けられた時計の秒針が刻む音だけを数えていた。
昼を過ぎ、午後が深まっていくにつれ、部屋の空気に「変化」が訪れ始める。
(薄れてやがる……)
あんなに濃厚に満ちていた、太宰のαの匂い。
それが、時間の経過とともに、少しずつ、確実に薄くなっていっているのだ。
それは本来、太宰の支配から解放されることを意味するはずだった。
しかし、中也のΩの本能は、まったく逆の反応を示し始めた。
「……くそ、なんで、……っ」
喉の奥が、異常に渇く。
身体の芯が、じわじわと凍えるように冷たくなっていく。
太宰の匂いが薄れるにつれて、肉体が、細胞が、狂おしいほどの焦燥感を訴え始めたのだ。
まるで、命綱を少しずつ解かれているかのような恐怖が、中也の精神を侵食していく。
嫌だ
離れるな
もっと、あの濃密な匂いで、俺を満たしてくれ――。
「ふざけるな……っ! 誰が、あんな奴の匂いなんか……っ!」
中也は自身の本能を呪い、 拒絶するように自分の身体を 強く 抱きしめた。
しかし、シーツに顔を埋めれば、 そこに残る太宰の残り香を無意識に貪るように深く吸い込んでしまう。
己の 浅ましさに 悔し涙が 滲み、 シーツを 握りしめる 指先が 激しく 震えた。
時計の 針は、 探偵社の「 定時」 である 夕刻を 指そうと している。
戻ってきて ほしくない。
触れられたくない。
だが、 この 狂いそうな 渇きから、 今すぐ 救ってほしい。
激しい 拒絶と、 抗えない 渇愛。その 泥沼のような 葛藤の 中で、 中也は 遠くから 響くであろう、 規則正しい「 あの男の 足音」を、 恐怖しながらも 待ち侘び始めていた。