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帰宅した私は部屋へ直行すると、制服のままベッドに倒れ込む。
(どうしたら、もっと上手く付き合えるのかな?)
答えの出ない問いが頭の中を駆け巡る。
もう少し余裕が持てれば、きっとあんな事くらい流せるのかもしれない。
だけど、ただでさえ年の差という障害があって、好きとも言われない日常に不安がある中で妹扱いされていると分かって落ち込まないはずはないのだ。
(律……、私、律の気持ちが分からないよ……)
ふと側に落ちているスマホが目に入る。恐らく制服のポケットから落ちてしまったのだろう。
よく見ると画面がついていたので手に取って確認すると、どうやら律から着信があったらしい。しかも、その着信は十回くらい来ていた。
(何よ、いつも電話なんて掛けてこないくせに)
すると、今度はメッセージが届く。
(もしかしたら、もう、呆れちゃったかもしれない……。別れようとか言われたら、どうしよう)
そう思うと見るのが怖くなった私は躊躇いながらも恐る恐る届いたメッセージを開いてみると、《今すぐ出てこい》一言そう記されていた。
「え?」
もしやと思い部屋の窓から外を覗くと、いつもの定位置に律の車が停まっていたので私はすぐに部屋を飛び出して外へ出た。
勢いで出て来たはいいものの、車の側までやって来た私は入る事を躊躇していた。
(怒ってたのに、何で私、簡単に外へ出て来ちゃったんだろ……)
そんな状態が数分続き、私を見兼ねた律は窓から顔を出してきて、
「何やってんだよ。早く乗れ」
いい加減車に乗るよう促してきた。
(だから、私は怒ってるんだって……)
そんな思いとは裏腹に、結局私は律の車に乗り込んでしまい、律はそのまま無言で車を走らせた。
車が走り出してから暫く、乗れと言った律は一言も言葉を発しないし、当然私も話さないので車内にはラジオから流れる音楽だけが虚しく響いていた。
それから車は更に走り続け、大きな公園の駐車場に停めた律は、煙草に火を点けると窓の外を見ながら煙を吐き出した。
相変わらず続く無言な状況に耐え切れなくなった私はいっそ謝ってしまおうかと口を開きかけた、その時、
「……悪かった」
私より先に律が謝罪の言葉を口にした。
「……何に、悪いと思ってるわけ?」
せっかく謝ってくれたのだから、そのまま許せばいいものを、私はつい余計な事を言ってしまう。
こんなんだから、呆れられてしまうんだ。そう分かってはいても、出てくる言葉を止める事が出来ない。
「だからその、あれだろ? 林田に、お前をきちんと紹介しなかったから……」
どうやら、律は私が怒った理由に気付いたらしい。
「分かってて訂正しないとか、酷い……」
「……悪かった。別に、いちいち訂正する程でもねぇかなって思ったんだよ」
「何それ、重要な事だよ!?」
「だから、悪かったって」
なかなか許さない私を前に、頭を掻きながら律は言葉を続けた。
「お前がそんなに怒ると思わなかったんだ。本当に悪かった。今度林田に会う事があればきちんと訂正しとくから、いい加減機嫌直せよ。な?」
「…………っていうか、あの人誰? 頻繁に会う人なの? 随分、親しげだった」
「林田は高校の頃のクラスメイトだよ。何でも知り合いがあの近所に住んでるみたいで、前にも一度会ったんだ。ただ、それだけだよ」
「……分かった、もういい。もう、許す……」
女の人が誰なのかも分かったし、何より、律の誠意が伝わって胸の奥が温かくなるのを感じていた私は、意地を張るのを止めて律の謝罪を受け入れ、
「私も……大人げなくて、可愛げなくて、ごめんね……」
自分も悪かったと頭を下げる。
そんな私の言葉には答えず、いつになく優しい瞳で見つめてくると、律は言葉の代わりにキスをしてくれたので、私はそれを素直に受け入れて、無事に仲直りする事が出来た。