テラーノベル
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結局あの後、注文していた残りの食べ物がポロポロと届いて。
3人、当たり障りのない会話――主にゼミでの研究の話――をして20時半には早々にお開きになった。
「鳴宮さん、俺、駅の沿線に住んどるけ、このまま最寄り駅に向かおうと思うちょるんじゃけど、鳴宮さんは家、どっち方向?」
お店を出たら雨は止んでいて。
少し気温が上がっているのか、しっとりと濡れた地面から、雨に濡れたアスファルトの香りがふわりと漂ってくる。
「私はこっち……なので反対方向ですね」
先輩とは逆方向を指差しながら、「電車だと不便なのでタクシーを拾おうかなって思ってます」って言ったら、柳川が「俺、鳴宮と同じ方向なんで送って行きます」って言って。
「乗り合いしたほうがタクシー代も浮くんで」
って取ってつけたように補足するの。
柳川の家だって、方向こそ一緒だけれど、うちのアパートよりはかなり手前なのに。
「そっか。了解」
人懐っこく八重歯を見せてへらりと笑ってから、そのさんが「なぁ柳川。鳴宮さん、フリーになったけぇって即行で送り狼にならんよーにね?」って手を振って。
「じゃ、お先」
ってくるりと踵を返して駅に向かって歩いて行くの。
「――そのさんの家、電車の沿線なんだ」
その背中を見送りながら、何の気無しにポツンと言ったら、「付き合ってたくせにお互いの家、行き来したことねぇっての、本当だったんだな」って柳川がつぶやいて。
私はその声にドキッとする。
「そう言えば私たちってば、付き合ってもいないのにお互いの家、行き来しちゃったね。ホント、けしからぁ〜ん! ……なんてね」
沈黙が怖くてわざと冗談めかして言ってへらりと笑ったら、予想に反して柳川が黙り込んでしまって。
「もぉ、何か言ってよ〜。ひとりごと言ってるみたいで恥ずかしいじゃん」
どうしよう。
心臓がバクバク言ってる。
お願い、柳川。
いつもみたいに「バ〜カ」って頭をポンッて叩いて?
言葉とは裏腹。
恥ずかしさと緊張でお酒のせいばかりではない顔の火照りを感じながら、それを誤魔化すみたいに慌てて視線を地べたに向けて。
「ねぇ見て? 歩道、水溜りだらけ! 気を付けないとハマっちゃいそうだね」
って言ってみる。
水溜りをピョンと飛び越えてクルッと向きを変えたと同時。
「――お前さ、さっき……。俺からの質問、しれっとスルーしたよな?」
柳川からそう声を掛けられたうえに距離を削られて、私は危うく飛び越したばかりの水溜りにハマりそうになる。
「バカっ」
すぐにグイッと柳川に手を引かれて彼の腕の中に包み込まれて。
バランスを崩した瞬間に感じたヒヤリ!よりも、もっともっと大きく心臓が高鳴った。
「ご、ごめんなさいっ」
謝ってはみたものの、元はと言えば柳川が急に近付いてきたのが悪いんじゃ?
そう思って柳川を見上げたら、
「なぁ鳴宮。誤魔化さないで俺の質問にちゃんと答えろよ」
ってぶっきら棒な声を落とされる。
「質……問?」
何を問いかけられたっけ?と思いながら見つめた柳川の顔は存外近くて、おまけに物凄く真剣な表情だったから。
柳川の腕の中、トクンッと一際大きく胸が飛び跳ねた。
身体が触れ合っているから、私の鼓動がうるさいくらいにはしゃいでいるの、気付かれてしまうかな?
そう思ったのだけれど――。
身長差のせいで額の辺りに触れる柳川の心臓も、結構忙しない気がして「え?」と思う。
声はいつも通り落ち着いて聞こえるけれど、実際は柳川も緊張してくれてたり……する?
「そのさんには誰が好きか話したんだろ? そのさんはお前のことが好きで、俺は幼なじみに片想いしてたって周知の沙汰だ。で、考えてみたら俺だけお前が好きな相手知らねぇんじゃん? ――何か不公平じゃね?」
柳川が、ずっと黙って考えていたのは……これ?
何だか拗ねているみたいにしか聞こえないよ?
いつもはもっとクールで斜に構えてて、基本的に余裕綽々な柳川なのに、いつもより子供っぽく見えるのはお酒のせい……?
でも、そんなに飲んでなかったよね?
「同級生で、異性としては仲のいい方で、同じゼミ仲間で、お互い変形菌の話が存分にできる趣味友で。――俺、鳴宮とは結構仲良くしてきたつもりなんだけど。何で俺には教えてくんねぇの?」
ポツポツと吐き出すみたいに紡がれる柳川からの不平不満に、私、とうとう「この人は何て不器用で可愛いんだろう!」って。
彼に知られたら怒られそうな、イケナイことを思ってしまった。
「家に来てもらったことがあるのも、手作りのお菓子を振る舞ったことがあるのも、一緒にいて幸せだなって思えるのも、柳川だけだよ?」
何も、特別はそのさんだけに存在していたわけじゃない。
むしろ、私の中では貴方の方がよっぽど〝特別〟。
心の中でそう付け足して、彼を見上げたままニコッと笑ったら、柳川が慌てたように私を抱く腕を解いてクルリと後ろを向いた。
暗くてよく見えないけれど、口元に手を当てて表情を半分隠しているの、照れ隠しだったりする?とか……バカみたいに自惚れても……いい?
「柳川は……大失恋をしたばかりだったから……。だから私……。弱ってる貴方に付け込むみたいなことしたくなくて言えなかったの」
一歩踏み出して柳川のすぐ背後に立って。
柳川にだけはどうしても言えなかった理由をちゃんと前置きして。
後ろからその大きな背中にギュッと抱きつきたい衝動を抑えながら、私、ひとつひとつ慎重に言葉を選んだ。
「――私、柳川が好き。1年生の時から……ずっとずっと……貴方に片想いしてる」
柳川の背中に向けて、長いこと言えなかった言葉を投げかける。
なのに柳川はこっちを向いてくれなくて。
私は伝え方を間違えてしまったかと、少しずつ不安になってくる。
「やな――」
がわ、と呼び掛けようとしたら、「俺、さ……」とポツンと柳川の声がして。
彼がゆっくりと私の方を振り返った。
「……1ヶ月ちょい前は花々里にフラれてめちゃくちゃ辛かったはずなんだ――。最初のうちは確かにあいつのことばっか考えてて……。寝ても覚めてもそのことばかりで。なのにお前と一緒にいるうちにいつの間にかフラれたこと、段々思い出さなくなってた……。花々里の入籍の話を聞いても案外すんなり受け入れられたのは……きっと俺の気持ちに変化が出てきてたからだと思う。――けど、代わりに」
そこで困ったみたいに眉根を寄せて、視線を地面に落とすと、
「鳴宮。……お前のことが気になって仕方なくなってることに気が付いた」
私は、伏し目がちに告げられた柳川の言葉に、小さく息を飲む。
え? 柳川、今なんて……?
コメント
2件
わー、ほんと、柳川、いまなんて!?だよ!
最後の柳川の「お前のことが気になって仕方なくなってる」、そこからの伏し目がちな感じ……もう完全にやられたわ。お互い不器用で照れ屋で、でも確実に近付いてる距離感がたまらん。鳴宮の告白も勇気ありすぎでしょ。次どうなるのこれ!?🔥
月詠 涼
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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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