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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第18話 〚静かに近づく視線〛(恒一)
静かに。
誰にも、気づかれないように。
◇
廊下の端。
昼休みが終わりかけた、少し中途半端な時間。
恒一は、壁にもたれながら、
遠くの教室の扉を見ていた。
――澪。
名前を呼ばなくても、
姿を探さなくても、
もう“位置”は分かる。
(……守られてる、か)
◇
最近、やけに人が多い。
澪の周り。
いつも、誰かがいる。
橘海翔。
相馬玲央。
あの三人組。
それに、
教師の視線。
(面倒だな)
◇
でも。
恒一は、口元だけで笑った。
(だからこそ、だ)
◇
澪が倒れた日。
あの瞬間、
空気が変わった。
「大丈夫?」
「無理しないで」
「一人にしないで」
そんな言葉が、
一斉に澪へ向いた。
◇
(……違う)
守られるべきなのは、
澪じゃない。
“選ばれる”べきなのは、
俺のはずだ。
◇
恒一は、ポケットの中で指を動かす。
爪が、
手のひらに食い込む。
(あいつらは、知らない)
◇
澪がどんな目で世界を見ているか。
どんな瞬間に、息を詰めるか。
どんな距離を、嫌がるか。
(俺だけが、知ってる)
◇
図書室。
本棚の向こう側。
あの日、
澪がページをめくる音。
小さな呼吸。
(……静かだった)
◇
橘海翔は、うるさい。
笑って。
喋って。
周りを明るくして。
(だから、見えない)
澪の“本当の輪郭”が。
◇
「守る」だなんて。
そんな言葉で、
澪を縛るな。
(俺なら)
◇
俺なら、
澪が黙っていても分かる。
俺なら、
澪が逃げたい距離も、
近づいてほしい瞬間も、
全部、間違えない。
◇
恒一は、視線を落とす。
床に映る、
自分の影。
(……まだ、だ)
◇
今は、動かない。
大人が警戒している。
周りが固まっている。
だから、
“静かに”進める。
◇
りあ。
あの子は、
分かりやすい。
欲しいものが、
顔に出る。
(使える)
◇
恒一は、ゆっくりと歩き出す。
誰とも目を合わせず、
足音を殺して。
◇
澪は、
まだ気づいていない。
“視線”が、
完全に消えていないことを。
◇
守られている、その隙間から。
確実に、
静かに。
――近づいていることを。