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ほわいときゃらめる
38
SUJ 一等海尉
20
#神様
城異羽大
173
『死ぬほど愛してる』
そんな台詞が口癖だった彼女と別れたのは、つい三日前のこと。当初は照れ臭くも嬉しかったその言葉も、毎日のように言われ続ければ嫌にもなる。
そんな彼女から向けられる俺への愛情は、その全ての言動が重たいものだった。
一時間おきに連絡してくるのは勿論のこと、すぐに反応出来ずにいると鬼のような着信が入る。どこに行くにも行き先を告げなければならず、万が一報告を忘れようものなら、どこから聞き付けたのか必ず現地にまで姿を現す。
『なんで連絡してくれないの!? 何かあったのかと思って心配したんだよ!』
泣き腫らした顔でそう告げる彼女を見て、その場にいた全員が気不味そうな表情を浮かべる。そんな俺達の様子に気遣ってか、バイト仲間やサークル仲間からの遊びの誘いも徐々に減っていった。
まるで四六時中監視をされているような状況に、懸命に応えようと努力しながらも疲弊していった俺は、それに比例するかのようにしていつしか彼女への愛情も薄れていった。
「顔はめちゃくちゃ可愛かったんだけどな……」
ポツリと小さく呟くと、俺のすぐ隣を歩いていた颯斗が呆れたような顔をする。
「確かに可愛いけどさ、あれはヤバイだろ」
「……だよなぁ」
「で、ちゃんと別れられたんだろ?」
「まあ、一応な。死ぬって泣き喚いてマジで大変だったよ……」
ウンザリとした顔を浮かべながらそう答えると、「うわぁ、キッツ」と言って苦笑する颯斗。
あまりの可愛さに、思わず街中で声を掛けてしまったのが運の尽き。まだ高校生だった彼女にとって、初めての彼氏ということもあってか、俺に対する愛情表現や依存の高さは相当なものだった。
俺さえいれば他に何も要らないとばかりに恋愛中心の彼女は、根本的に俺とは合わなかったのだ。
(メンヘラは二度とごめんだな)
そんなことを思いながら小さく息を漏らす。
『私達、死んでもずーっと一緒だよね?』
『うん。死んでもずっと一緒にいような』
かつては、そんな愛の言葉を交わし合う程に愛しかった彼女。あの頃の気持ちが嘘だったというわけではないけれど、恋愛初期に有りがちな熱に浮かされていた、というやつだったに過ぎない。
恋は盲目とは、本当によく言ったものだ。
別れられた解放感からホッと安堵の息を漏らすと、肩の荷が下りた喜びから薄っすらと笑みを浮かべる。そんな俺の顔を覗き込んだ颯斗は、片側の口角を吊り上げるとニヤリとほくそ笑む。
「けどさ、あの子ストーカーになったりしてな」
「……不吉なこと言うなよな」
そんな颯斗を一瞥しながら片手でヒラヒラと払うと、豪快に笑って見せた颯斗は「冗談だって」と言いながら腹を抱える。
「そんなにマジでビビんなって。相手はJKだろ?」
黙り込んでしまった俺に向けてそう告げると、可笑しそうにケラケラと笑い声を上げる颯斗。
勿論、俺だって女子高生相手に本気でビビっているわけではない。だけど、今までの彼女の行動を振り返ってみると、決してストーカーになる可能性が無いとは言い切れないのだ。
むしろ、ストーカーになる可能性の方が大いにある。
(いきなりグサッと刺される、なんて事件もあるしな……)
情緒不安定な人間とは、どんな行動を起こすか予想もつかないのだ。
(ま、考えすぎだよな)
普段ニュースで流れているような事件も、目にした時には明日は我が身と怯えつつ、どこか自分とは縁遠い話だと頭の隅では思っている。
そうでなければ、気軽に外出するなんてこともできないだろうし、事実、何も起こらない人の方が圧倒的に多いのだ。
「今日のサークル飲み、来るんだろ?」
「おう。久しぶりだから楽しみだよ」
「瞬が来たら皆喜ぶだろな〜。マジで皆寂しがってたんだからな」
「俺だって行きたかったけどさ」
「……ま、あの彼女がいたら参加できないよな。ぶっちゃけ俺らも誘い辛かったし」
「いや、マジごめんて」
「今日は祝い酒だなっ! 独り身おめでとう会!」
「なんだよ、それ。別れたら慰めるのが普通だろ」
「お前の場合は逆だろ?」
「だなっ」
そんないつもの調子で軽口を叩き合うと、そのまま大学を後にして駅前へと向う。
「──じゃ、夜にな!」
「おう、また後でな!」
バイト先へと向かう颯斗の背中を見送ると、その足で駅前にある本屋へと向かう。二十一時から開始される飲み会までまだ随分と時間があったので、本でも買って時間を潰すのにちょうどいい。
あてもなくフラフラと店内を彷徨い始めると、見覚えのある姿を視界の端に捉えてピタリと足を止める。
(……え?)
キョロキョロと辺りを見回してみるも、先程チラリと見えたような気がした人物の姿は見当たらない。確かに一瞬、彼女の姿を見たような気がしたけど、どうやら見間違いだったらしい。
(颯斗があんなこと言うから……)
きっと、無意識に彼女のことを考えてしまったのかもしれない。そう一人で納得をすると、適当な雑誌を手に取ってレジへと向かう。
おそらく見間違いだとは思うが、何だか妙に薄気味悪い。確かに誰もいないというのに、今もなお感じる身体に纏わりつくような視線。その言いようのない不気味さにブルリと小さく肩を震わせると、会計を済ませた俺は足速に自宅へと帰っていった。
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