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風
向きが変わる瞬間、運命の分かれ道。
そして……。
突然現れた巨大な獣を前にして、私たちは為す術もなくただ逃げ惑うだけだった。何度振り返っても、そこにあったはずの村は既に跡形もない。
私にとって、これが初めての戦争体験になるはずだったのだが、実際は何もできずに逃げ回るだけで精一杯だ。
今思えば、あの時は逃げるしかなかったのだ。たとえ敵前逃亡であろうとも、あそこで戦っても勝ち目はなかった。
それにしても、まさか、あんな形で再会することになるとは思いもしなかったよ……。
あれ以来、私達は一度も会っていない。
連絡先を交換したものの、私は電話はおろかメールすら送れなかった。
また、向こうからも来ることはなかった。
当然と言えば、それまでなのだけれど。
それでも、私の方からは何度か送ったことがある。返信こそなかったものの、読んでくれていることだけはわかっていた。だから私は手紙を書き続けた。返事のない相手に手紙を送り続けるのは辛かったけれど、それ以上に嬉しかったのだ。
「お元気ですか」とか、「何があったんですか?」といったような内容のものだったと思う。私自身にも記憶がないくらいなのだから、きっと定型文のようなものを機械的に送っていただけなのだと思う。でも、それだけでも十分だった。少なくとも、私はそう思っていた。
ある日のこと、いつものように彼女に手紙を送ったところ、珍しく彼女からの返事が届いた。封筒を開ける前から心臓の鼓動が激しくなり始め、手が震え、何度も取り落としそうになった。やっとの思いで中身を取り出すと、そこには一枚の手紙が入っていた。
――あなたが好きです。
たった一言だけ書いてあった。でも、今までの無機質なものとは違っていて、彼女の温もりを感じることが出来た。嬉しくて涙が出た。生まれて初めての経験だった。
それからというもの、毎日欠かすことなく手紙を書いた。時には、彼女と直接会って話をすることもあった。
幸せだった。いつまでもこのままで居られたらと願った。
しかし、終わりは必ず訪れるものだ。
ある時を境に、彼女の態度が変わった。前よりも冷たくなっていた。理由はわからない。
でも、私が何かしてしまったに違いないと思った。原因を探り、謝ろうとも思った。だけど、出来なかった。怖くて何もできなかった。
その日以来、私は彼女が私の傍にいる理由を考えるようになった。
私に好意を寄せてくれているのは知っている。
私が彼女を好きになったのはいつの頃だったろうか? 思い出せないくらい前なのは確かだ。
あの頃の私は、今の彼女ほど積極的ではなかったと思う。
それに、今のようにはっきりと気持ちを口に出すことはなかったはずだ。
それでも彼女とは仲良くなれたが、今はもう、以前の関係とは違うのだ。
今の私は、彼女に好きだと言われても素直に喜べなくなっている。
むしろ逆境こそが、より強い絆を生むこともある。