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「この方達は、温かいコーヒーが欲しいと。それに、こちらの方はミックスサンドをご注文で、こちらの方はホットドッグをマスタード抜きでと仰っています」
「そうなんですか、ありがとうございます! 本当に助かりました」
店員さんは何度もお礼を言って戻った。
「すまない。待たせてしまって」
「いえ、フランス語……お上手ですね」
「上手という程ではない。独学だからね」
ど、独学であそこまで?
英語とドイツ語も話せるらしいから、本当に優秀としか言いようがない。
英語もろくに分からない自分が恥ずかしいよ。
優れた才能を鼻にかけない自然体の九条さんに、さっきの女性達はさらに釘付けになっている。
こんなとんでもないハイスペック男子、他にはなかなかいないもん、つい見てしまう気持ちは良くわかる。
「とにかく……また、彩葉に会えて良かった」
「わざわざ来て下さって……ありがとうございます。とても驚きましたけど、お会いできたことは嬉しく思います。九条さんにはもう……永遠に会えないと思ってましたから」
そう、二度と会ってはいけないと思ってた。
なのに……
まだ夢を見てるみたいで……
「永遠に? 俺はずっと彩葉に会いたかったのに?」
ゆっくりと囁く甘いセリフに胸が締め付けられる。
たまらなくドキドキして怖くなる。
「九条さん、私は……」
それ以上何も言えなかった。
ずっと隠してきた想いを、今さら吐き出すことはできない。
「彩葉、すまない」
「え? どうして謝るんですか?」
「一堂社長に聞いた、君には子どもがいるって。そして、保育士として働きながらその子を育てていると」
雪都の父親が誰だか知らない父の思いを考えると、何だかすごく複雑な気持ちになった。
「ようやく日本に戻ることができて、いろいろ仕事の面で助けて頂いたお礼を言いたくて、すぐに一堂社長に会いにいった。その時に聞いたんだ」
「そうだったんですか……」
うなづく九条さん。
「社長に『ご家族はお元気ですか?』と尋ねたら、君のことも話してくれた。もちろんプライベートなことだからあまり詳しくは聞けなかったが、子どものことを聞いた時、どうしようもなく胸が痛くなった。君が他の男性と結婚して幸せになったんだと思うと……」
「九条さん……」
「海外では、プロジェクトチームに入って様々なことをたくさん経験した。初めての挑戦ばかりで、心を折られるような思いもした。でも、それでもずっと頑張ってこれたのは、いつか必ず君の笑顔が見られると信じていたからだ」
私の笑顔?
こんなにも魅力的で素敵なあなたから、どんどん飛び出してくる嘘みたいな甘い言葉達。
ねえ、それは本当に全て真実なの?