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#心音
そあふぃー
63
画面の中では、貫かれた相手の男が顔をぐしゃぐしゃに歪ませ、「あん、あっ、いい……っ」と情けなく喘ぎ、男の手の中で快楽に溺れきっている。
(……どうせプロの演技だ。カメラの前で、それっぽく声を張ってるだけ……)
頭のどこかでそうやって冷めて割り切ろうとするのに、「気持ちよさそう」という素直な欲求にはどうしても抗えなかった。
もし……もし本当に、あの画面の男に抱かれるのがそこまで凄いのなら。演技などではなく、あれほど声が漏れてしまうほどの快楽が存在するのだとしたら――。そんな青い期待と欲望が、理性をじわじわと侵食していく。
数ヶ月前、その喘ぎ声と男優の圧倒的な男らしさに引きずり込まれるようにして、意を決してネットで購入したのがこのバイブだった。
風俗に行く勇気もなければ、誰かを部屋に連れ込む度胸もない。元アイドルの顔がバレる恐怖に怯えながら、ボロアパートの片隅でこうして一人で慰めるのが、柊吾の唯一のガス抜きだった。
スイッチを入れると、ヴヴヴ、と低く重い振動が手元から伝わり、脳の奥を直接揺らす。
「……っあ」
ドキドキと跳ねる心臓を押さえながら、ローションをたっぷり塗ったバイブの先端を、怯えるようにそっと押し当てる。
「……あ……っ、く……ふ」
溢れた冷たいローションと、熱を帯びた後孔が触れ合った瞬間、腰の奥がじんと痺れて引きつるのが分かった。ローションの冷たさと肉体の熱が混ざり合い、それだけで秘所がキュッと収縮する。
画面の中で相手を弄ぶ男の太い指、汗に濡れて滑る背中のしなやかな筋繊維の躍動を眼裏に焼き付けながら、ゆっくりと、慎重に己の奥へと滑り込ませていく。
じわじわと肉を押し広げて進入してくる異物感と、それに伴う強烈な圧迫感。先端から伝わる重い振動が直接内壁を震わせるたび、頭の芯が痺れるような感覚に襲われる。柊吾は二の腕に自らの爪を深く食い込ませ、漏れ出そうになる情けない悲鳴を殺した。
くちゅ、くちゅと濡れた生々しい水音が、静まり返った四畳半に虚しく響き渡る。
画面の中の男への届かない憧れと、こんなボロアパートで惨めにおもちゃを使っている自分への自己嫌悪。
二つの感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、強がりで塗り固めた理性をじわじわと溶かしていった。歪んだ背徳感が興奮を何倍にも跳ね上げ、脳が沸騰するほどの快楽となって腹底を突き上げてくる。
(ダメだ……っ、こんなの……っ)
頭のどこかで抗おうとするのに、手の動きは止まらない。バイブを奥まで深く押し当て、角度を変えて一番過敏な部分をガツンと擦り上げた瞬間、背中が激しく跳ね上がった。
「んぁっ、……ふ、あ……っ!」
腰をガクガクと震わせ、限界を迎えた絶頂の波が一気に身体を突き抜ける。
視界が真っ白に明滅し、指先から足先まで強い電流のような痺れが駆け抜けた。
「はぁっ……はぁっ……っ、く……」
荒い息を吐き出しながら、柊吾は天井のひび割れを見つめた。
潮が引くように急速に熱が去っていく。残されたのは、太ももをぬるりと伝うローションの冷たさと、ヴヴヴと手元で空しく震え続けるバイブのモーター音。そして――頭が冷えると同時に押し寄せてくる、泥のように重い猛烈な自己嫌悪だけだった。
(……は、ぁ……僕、何やってるんだろう……)
スイッチを切り、静まり返った四畳半に自分の浅い呼吸音だけが響く。
数秒前まであんなに脳を灼いていた狂おしい興奮が嘘のように消え去り、あとには強烈な虚無感だけがぽっかりと残っていた。
こんな不毛な逃避、今すぐ止めなければいけない。頭では痛いほど分かっている。
誰にも言えない後ろ暗い欲望に身を任せ、画面の男に情けなく興奮し、一人でおもちゃを使って慰める――そんなことをしたって、声が出なくなった現実も、壊れていく母との日常も、何一つ良くなりはしないのだ。
(止めなきゃ……こんなこと、絶対に止めなきゃダメなのに……っ)
汚れた指先を丸め、身を縮める。
賢者タイムの冷ややかな静寂の中で突きつけられるのは、どこまでも情けない己の姿だった。自分を責める言葉をいくら胸の中で叫んでも、愚かな身体はきっとまた、現実から逃げるために次の快楽を求めてしまうのだろう。
現実の虚しさに耐えかねるたび、この歪んだ快楽の痺れに頼らざるを得ない自分が悔しくて、惨めで、たまらなかった。止めたいと願う理性すら、麻薬のような逃避の前にはあまりにも脆く崩れ去ってしまう。
冷め切った虚無感と惨めさにさいなまれ、身を縮めた――その時だった。
コメント
1件
かんなさん、最新話読んだよ……! 柊吾の自己嫌悪と快楽の狭間で揺れる心情描写が丁寧で、胸がぎゅっとなった。特に「賢者タイムの冷ややかな静寂」って表現、すごく刺さった。現実逃避の手段としてのおもちゃと、それに溺れる自分を責める気持ちのループがリアルで……続きが気になる!