デートと言っても映画館や遊園地に行ったりするわけじゃない。ただお互いの家に行って、ゴロゴロと過ごすだけだ。
付き合い始めたての頃はデートっぽいデートもしてみたが、お互いに待ち合わせ時間ピッタリに行けず、諦めることが多々あった。そのせいで今では家デートくらいしかしていないのだった。
汚いときに見られたこともあるから今更な気もするけれど、なんとなく暇で部屋を片付ける。片付けを終える前にインターホンが部屋に鳴り響く。
「はいはーい。」
ドアを開けると、いつも通りTシャツ短パンサンダル姿の恋人が立っていた。
「いらっしゃい、MEN。」
「あざす、お邪魔します」
MENを家にあげると、中途半端に終わっていた片付けを再開する。
「片付けっすか?珍しいですね」
「うるさいわw 可愛い可愛い恋人が来るんだからねぇ?」
「もう来てるんすよww」
…こうやって冗談めかしてなら可愛いって言えるんだけどな。
本人に拒絶されるかもしれない本心を晒すのは歳を重ねるごとに難しくなっていく。かもしれない、どころじゃなく拒絶される可能性の方が高いんだけどな。
そんなに愛されてるって知ったら喜ぶと思いますよ、ねぇ。まあ、普通だったらそうかもしれないけど。親子かってくらい歳離れてるし。同性同士だし。MEN重いのとか嫌いそうだし。
「ぼんさん何考えてるんすか?」
「あー…?MENのこと」
あっやべ。馬鹿正直に言っちゃった。あーあ、ほら。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるし。言わない方が良いってば、ドズさん。
「…ぼんさんも、そんなキザなこと言うんすね」
あれ?待て。オイオイ待て。なんだその反応、耳まで真っ赤じゃねえか。
たまらなくなって思わず抱きしめる。
「ちょ、ぼ、ぼんさん!?」
「………ごめん」
「今日どうしたんすか?」
ガチで戸惑ってるやつだな…?キザなこと言われて戸惑うって、俺どれだけ愛情表現してないの?
恐怖に甘えて愛情表現を怠った過去の自分を恨みながら、抱きしめる腕に力を込める。
「ッ、ぼんさん……?」
「MEN。」
「はい。」
「嫌だったら殴ってくれ」
「はい…?」
殴ってくれ、と言ったのは直接拒否する言葉を浴びせられたくないからだ。
抱きしめてるのは嫌がる顔を見たくないからだ。
どこまでも予防線を貼らなきゃ愛のひとつも囁けない情けない男のどこを好きになったんだろうか。言っちゃ悪いんだけど男の趣味悪いんじゃないの?
つい考えてしまう関係ないことをなんとか思考の外に追いやる。
「ごめんね、びっくりさせて。」
「ぜんぜん…、」
「可愛かったから。つい」
息を飲む音がする。
「ずっとね?言おうとは思ってたのよ。俺MENのことすっごい好きなのよ。今までにないくらい。」
あれだけ怯えてたのに、言い出したら止まらない。
「俺より図体デカくて声も低くて趣味も渋くてさぁ、ほんとどうしてMENのこと可愛いって思っちゃうんだろうね。…わかんないけど、可愛いって思っちゃうんだよね。
たぶんそれって俺がMENのことどうしようもないくらいに好きだから………、って、MEN?」
殴れ、と言いつつMENが俺のこと殴らないのは知ってたけど。胸を押されたので大人しく引き下がる。
「あーあ、折角MENのこと手中に収めてたのに。」
わざと拗ねた声を出してみる。そうでもしないと目の前で真っ赤になった恋人をもう一度抱きしめたくなってしまう。
「……………ぼんさん」
「…はい。」
「…そういうことは!!顔を見て言ってください!!!!」
………ん???
「滅多に抱きしめたりなんてしないくせに、なんで今だけそういうことするんすか……
俺だって、ぼんさんのこと、す、すき…ですよ?でも、なんか、言わない方がいいのかなって」
てっきり怒られるかと思ってた。なんだよこいつ、クソ、可愛いな。年齢詐称してるくせに。
「って、あーもうほら、泣かない泣かない。」
「…泣いてないです」
「泣きそうな顔して何言ってんのよ」
今度は優しく抱きしめて、背中をポンポンと叩く。
そういや、告白もまともにしてなかったっけ。なんとなく雰囲気でわかったし、MENもわかってくれてると思ってたけど。こんなに不安にさせてしまっていたなんて、知らなかったし思いもしなかった。
ほんとに言った方が良かったんだな。ごめんドズさん。
「ねぇ、MEN」
「…なんすか」
「MENってさぁ、可愛いって言われるの嫌いじゃなかったの?」
1番の懸念点をぶつけてみる。
「…そりゃあ、俺が可愛いとは思えませんから。からかわれてるのかなー、としか思わないですよ。」
「……うん?」
「黙って聞いててください。…からかわれてるとしか思わないですけど、ぼんさんからなら別と言うか、ぼんさんからなら、何言われたって嬉しいっす。」
思わずため息が出た。滅茶苦茶愛されてんじゃん俺。
「あー、いや、なんでもじゃないっすね。暴言吐かれたらたぶん泣きます」
「吐くわけないでしょ」
口角が緩むのを抑えられない。みっともない顔をしているだろうけど、口角が緩みっぱなしなのはお互い様で。
愛おしくってたまらなくなり見つめていると、見つめ返してくれて。俺ってば随分幸せものだなぁ、なんて思いながらそっと唇を近づける。
グギュルルルル
どちらからともなくお腹が音を立てた。
「…なんか食べよっか」
「……そうっすね」
あまくなりきれないのも、俺たちらしいかな?
コメント
1件