テラーノベル
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頭の中がぐちゃぐちゃで眠れそうにもなかったが、明日から仕事だ。
はやく寝ないと…。
僕は目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返した。
ところが次の瞬間、隣で横になっていたはやちゃんが勢い良く起き上がり、僕をベッドに押し付けたのだ。
「っえ?! な、なに?」
急なその行動に戸惑う僕と、そんな僕を見つめるはやちゃんの真剣な眼差し。
その目には、明らかに動揺の色が混ざっていた。
『なぁ、お前……』
低い声。
わずかに震えたその声に僕はただ身体を強張らせる。
僕の戸惑いを置き去りにしたまま、はやちゃんの人差し指が僕の左の鎖骨のあたりをそっとなぞるように触れた。
その指先の感触に、僕はハッとして心臓が冷たく跳ね上がる。
だってその位置は……。
『……これ、何された?』
さっきまで着ていたタートルネックのニットとは違い、今着ているのはゆるゆるな部屋着のTシャツだった。
だからその襟元からは、昨夜しゅんによって付けられた愛の痕がしっかりと見えてしまっていた。
「な、なにも、……っ」
「何もない」なんて言い訳、通用するはずがない。
こんな決定的な証拠が、今まさに彼の目の前に突きつけられているというのに。
『なぁ……お前……。まさか、あいつに酷いこと、されたわけじゃないよな……?』
はやちゃんの声が、僕の過去の恐怖を刺激しないようにと、奥歯を噛み締めるように低く震える。
だが酷いことは、一切されていない。
無理矢理にされたあの大学時代の地獄とは根本から違う。
だってあの旅館の部屋での出来事は、僕だってしゅんの温もりを求めて、自ら望んでしてしまったことなのだから。
「違うよ。これは……無理やりとか、そういうのじゃ、ない」
『……は? じゃあなに? お前が望んで、あいつにされたわけ?』
「っ、……」
あまりにも痛いところを真っ直ぐに突かれて、言葉が完全に詰まる。
『柔太朗……お前、まさか…。あんなことされといて、まだあいつの事…』
さっきキッチンであんな風に殴られて、怪我までさせられたのに。
それでも僕はしゅんを庇おうとして黙り込んでいる。
そんな僕の姿にはやちゃんは、裏切られたような、絶望したような瞳を向けた。
僕は何も言えず、逃げるようにただ黙り込むことしか出来なかった。
『なぁ…、なんでだよっ……!』
「はやちゃん…、あの、あのね?今日のことはしゅんだけが悪いってわけじゃないの……っ」
『……あぁー、もうわっかんねぇわ。旅行中、まじで何があったんだよ…。なんでそこまで…、』
はやちゃんは苦しそうな表情で頭を抱えながら僕の話を待っている。
ベッドの上で横たわったままでいるのが苦しくなって、僕は身を起こし、はやちゃんと同じ目線になるように座り直して話を続けた。
「あのね……俺、北海道に行って、しゅんの気持ちに気付いちゃって。それでね、最初はびっくりして……好きとかよくわからなかったし、」
『……、』
「でも……なんか、しゅんのことを変に意識しちゃって、俺も浮かれてたのかな……。その、キスを許して、それで、そのあとも……」
『…は……? キス、?
……は?そのあとも……?』
はやちゃんの声の温度が、一気に氷点下まで下がる。
「気付いたら、流されるまま……。でも、しゅんに触れられるのが嫌じゃなかったから、俺も同じなのかもって…。誰かにあぁいうことされて、嫌じゃない、むしろ幸せだって思ったの初めてだったから……。この鎖骨の痕も、昨日の夜……」
『……嘘……だろ…』
はやちゃんは大きく息をつくと、俺の言葉を拒絶するように頭を振った。
『はぁ……。なぁ、お前ら……どこまでしたんだよ……っ』
彼の声は、今にも引き裂かれそうなほどに切羽詰まっていた。
「さ、最後まではしてないよ!
付き合ってないし、そこはしゅんも我慢してくれたから……」
『でも、キスもして、身体中に触れられて……お前の…ソレにも、あいつが触ったってことだよな?』
「……っ、」
喉の奥が詰まったような沈黙のなかで、僕はただ小さくコクリと頷いた。
それを見たはやちゃんは、絶望したように両手で自分の顔を覆い隠してしまった。
悔しそうに歯を食いしばりながら「クソッ…」と低く呟き、今にも消えそうなほど掠れた声で僕に問いかけてくる。
『なぁ……。あいつの事好きなの?……本当に大丈夫なわけ?』
「……わかんない…。今は、申し訳ない気持ちの方がずっと大きい、」
『申し訳ない……? あいつに?』
「うん…。だって、しゅんに待っててって言って焦らせておいたくせに、俺、東京に戻ってきたらはやちゃんのことばかり優先して…。しゅんの気持ちを傷付けちゃったんだもん。あんなに不安にさせて、放ったらかしにしたら……そりゃあ、しゅんだって怒って当然だよ……」
はやちゃんは酷く複雑そうな顔をして、ガシガシと乱暴に自分の頭を掻き回した。
『あぁー、クソ……。つまりは、旅行中にあいつに告られて、身体の関係も持って……。あいつが俺とお前の関係に狂いそうなほど嫉妬して、あのキッチンでの大惨事になったってわけか?』
「だ、だからっ、身体の関係って言っても、最後まではしてないってば……っ」
『それが唯一の救いだよ、ほんと……』
はやちゃんは深く、深いため息を吐き出した。
『とりあえず、事情は分かった。でも、もうあいつとふたりきりになるのは禁止。絶対にふたりきりにはさせねぇからな』
その言葉に、僕は思わず息を呑んで言葉を失った。
しゅんと、もう会っちゃダメだなんて…。
胸の奥を突かれたような衝撃。
だけど今の僕には何一つ言い返すことなんてできなかった。
僕はただ部屋着の裾を強く握りしめて、消え入りそうな声ではやちゃんの顔色を窺う。
「……はやちゃん。……俺のこと、もう嫌いになった?」
嫌われたくない、見捨てられたくない。
喉の奥が詰まりそうなほどの恐怖のなかで、ただ怯えて俯く僕の頭上で、はやちゃんは深く切ないため息を吐き出した。
『お前なぁー……。俺、さっきお前のこと好きってガチで告白したばっかだぞ? そんなすぐ嫌いになるわけねぇだろ』
「……、」
『まぁ、当たり前にこれからも一緒にいるに決まってんだろ。ずっと』
「え……? 本当に、いいの……?」
はやちゃんのその言葉に、胸の奥の震えがすっと引いていくのが分かった。
自分の都合の良さに嫌気がさす。
はやちゃんに嫌われることに怯え、縋る自分がどうしようもなく情けない。
「俺、本当に馬鹿で、最低でごめんね……」
『ほんとだよ。……もう、触られんなよ。俺以外のやつに』
「へ……?」
『あ、わりぃ……! 今のはこっちの話』
はやちゃんは慌てて視線を泳がせると、耳元を赤くしてそっぽを向いてしまった。
その横顔を見つめながら、僕たちの間にはまた言葉にできない静けさが流れる。
はやちゃんの温かい手のひらのぬくもりを感じながら僕は目を閉じた。
だけどこの優しさに救われれば救われるほど、僕の胸の奥には、しゅんの存在が消えない重さとなって残っていた。
しゅんとの幸せな記憶と、あいつの心を深く傷つけて、ボロボロに泣かせてしまったあの激しい後悔が、どうしても頭から離れてくれなかったんだ…。
to be continued…
もちぷよ
46
やわしゅん狂
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はる☻
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コメント
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初めまして、コメント失礼いたします。くまよめと申します。 赤白さんの作品が大好きで、こちらの作品に出会った時に頭に何かがぶつかったような衝撃を受けました。 卓越した文章力とこちらを惹きつけて止まない世界観にどっぷりハマっております。 桃さんはあくまでヒーロー的存在の愛ですよね?ね?(笑) 赤白さん幸せになって!と願いながら続きも楽しみにしております(正座)
しゅんちゃんが心配すぎるよーー 佐野きゅんの欲がでてきてるけど どーなっちゃうのーーーー!