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夜久瀬
3
昼休みの図書室。
ひなは 佐倉愛里 と並んで静かに本を読んでいた。
ページをめくる音だけが響く穏やかな時間。
「こういう時間、好きだな」
ひなが小さく呟くと、
愛里は照れくさそうに頷いた。
「わ、私も……」
そこへ、
図書室の入口から控えめな足音が近づいてきた。
「ごきげんよう、天白さん」
その上品な声に顔を上げると、
そこには 坂柳有栖 が立っていた。
白い髪と小柄な体格。
自分とよく似た容姿を持つ少女。
ひなは思わず背筋を伸ばす。
「坂柳さん……!」
「少しお話ししませんこと?」
図書室の外のベンチに移動すると、
坂柳さんは楽しそうに微笑んだ。
「あなたを見ていると、とても興味深い気持ちになりますの」
「私を……?」
「ええ。見た目だけでなく、あなたの存在そのものが」
坂柳さんの赤い瞳が静かに揺れる。
「綾小路くんのそばにいるあなたは、彼にとって予想外の存在ですわ」
ひなの胸が高鳴る。
「予想外……?」
「彼は本来、誰かと深く関わることを望まない人です」
坂柳さんは穏やかに言った。
「それなのに、あなたには明らかに特別な感情を抱いている」
その言葉に、
ひなの頬が熱くなる。
「だから、少し羨ましいですわ」
意外な言葉に、ひなは目を見開いた。
坂柳さんは優雅に微笑む。
「あなたのように、彼の心に自然に入り込める方は珍しいのですもの」
その声には敵意ではなく、
純粋な感心と優しさが込められていた。
「ひな」
不意に後ろから名前を呼ばれる。
振り返ると、
綾小路清隆 が立っていた。
坂柳さんはくすりと笑う。
「噂をすれば、ですわね」
「少し借りていましたの」
坂柳さんはそう言って立ち上がる。
去り際に、ひなへそっと囁く。
「彼を大切にしてあげてくださいまし」
そして綾小路くんには意味深な視線を送り、
静かにその場を去っていった。
二人きりになると、
ひなはまだ少し緊張していた。
「坂柳さん、優しかった」
「そうか」
綾小路くんは短く答える。
「……でも、私のことを羨ましいって言ってた」
その言葉に、
彼はわずかに目を細めた。
「それは間違っていないかもしれない」
「え?」
綾小路くんは静かにひなを見つめる。
「お前は、俺にとって特別だ」
何度聞いても、
胸の奥が熱くなる言葉。
「だから」
彼はそっとひなの白い髪に触れた。
「誰に何を言われても、それは変わらない」
ひなの瞳に涙が滲む。
「……うん」
自分によく似た少女との出会い。
その少女から告げられた、
綾小路くんにとっての特別という意味。
それはひなに、
今まで以上の自信と幸せを与えてくれた。
世界には似た誰かがいても、
彼の心の中で唯一無二なのは――
天白ひな、ただひとりだった。
コメント
1件
坂柳さんが出てきた瞬間、「来た!」って思いましたよ。見た目が似ているからこそ、お互いをどう映すのか気になってたんです。でも坂柳さんの「羨ましい」には驚きました。敵意じゃなくて純粋な感心だったのが新鮮で。最後の綾小路くんの態度も含めて、ひなという存在が確かに彼にとって「予想外」なんだなと伝わってくる、すごく優しい回でした。