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見つからないように持ってきた帽子を目深く被り、繁華街の方へ移動する久次郎を美晴は注意深く観察し、見失わないように追いかけた。彼は職場からすぐの所にある地下鉄を利用して帰宅している。それなのに地下鉄へは向かわず、反対方向に位置する繁華街へ向かっている。
いったい、なにがあるのだろうか。
久次郎は速足で繁華街へ入った。目的地が決まっているようで、わき目もふらずどんどん進んでいく。美晴は引き離されないように必死に追いかけた。
やがて久次郎は路地の角で足を止めてあたりを見回し、さっと雑踏に飲まれるように消えた。
(いけない! 見失っちゃう!!)
ここまで来て後には引けない。美晴は小走りで後を追いかけた。
彼が消えた先の路地を急いで曲がると、若く純情そうな年下の女性と腕を組んで歩いている久次郎のが視界の先に見えた。腕を組む彼女は、久次郎より二回りほど若く見えた。
(うそっ、振り向いた! こっちへ来るっ!!)
どういうわけか彼らはこちらを振り返り、美晴の方へ歩いてきた。このまま慌てておかしな行動をとると見つかってしまう。一か八か、美晴は臆せずスマートフォンを前に突きだし、操作をしながら前へ進んだ。
意外に堂々としていると相手も気に留めないようで、真正面から久次郎が女子校生を連れて歩く姿を動画で撮影できた。
(あの子、女子高生? どう見ても未成年よね……)
すれ違って暫くして振り返ると、久次郎たちの姿は視界の隅から消えそうになっていた。美晴も慌ててUターンして見つからないように追いかける。
人込みに紛れていった彼の残り香は、犯罪の匂いがした。