人一倍感情表現が豊かな君
でも実は
その笑顔の裏に様々なことを隠していることを
俺は知っている
力になってあげたい
でもそれができるのは俺じゃない
君への気持ちを自覚した時から
自分の無力さに絶望する日々
いつか君に抱えきれない程沢山の幸せが訪れますように
練習スタジオとは別の個別ブースにて、涼ちゃんが一人キーボードの練習をしていた。
一心不乱に練習するそんな涼ちゃんを見て思う。
(そろそろ危ないな・・・。)
そっと扉を開けるが、俺には気づかない。
驚かせないように、なるべく穏やかに声をかける。
「涼ちゃん、大丈夫?」
俺の声で我に返ったのか、ハッとしてこっちを向いた。
「若井・・・。」
「涼ちゃん、ちょっと休憩しよ?元貴もまだ前の仕事押してて遅れてるし。」
「僕は大丈夫。元貴来るまでに落とし込みたいから。」
笑顔で言う涼ちゃん。けど、目元には隈がうっすら浮かんでいる。
「寝れてる?」
「・・・。」
「寝れてないんだね。」
「大丈夫・・・。」
俺は涼ちゃんが座っているキーボードの椅子の端に座った。
「俺じゃ頼りないかもだから、悩みがあるなら元貴にはちゃんと話すんだよ?」
頼ってほしいとは思うけど、俺がどうにかできることは少ない
話を聞いてあげることはできても、その原因を取り除くことはできないだろう
俺以外を頼るのは悔しいけど、一人で抱え込まれるよりかはそっちの方がいい
「元貴には言えないよ・・・。」
どこか悲しそうに言う涼ちゃん。
「もしかして元貴からなんか言われた?」
「ううん。言われたとしてもそれはチームの為や曲をよりよくするためだって分かってるから。」
それじゃ・・・?
「・・・なんかさ、今の元貴見てるといつか僕は“いらない”って言われそうな気がして・・・。」
「まさか。」
「直接的な表現はなくても、なんとなくそんな感じになりそうだなって・・・。」
「絶対ない。」
俺が断言しても、涼ちゃんは力なく笑うだけ。
これが元貴なら、安心させてあげることができるんだろうな。
俺ができることは何だろう。
安心させてあげることができないのなら・・・
「涼ちゃん。そうなったら二人でチームを離れよう。」
「え?」
「元貴が涼ちゃんのこといらないっていうなら、俺のこともいらないでしょ。だから、二人でここから逃げ出そう。」
安心とは程遠いかもしれないが、一人よりは心強いかもしれない。
何より、涼ちゃんを一人にしてはいけない。
「若井がいらなくなることなんてないよ。元貴にとって若井は幼馴染で唯一無二の親友じゃん。」
「そう思ってくれてたらいいんだけどね・・・。」
実は俺も涼ちゃんと同じようなことを考えることがある。
元貴に必要なのは”幼馴染”という設定なだけで、それは俺じゃなくてもいいんじゃないかって。
あの地元の駅で再会しなかったら、きっと俺と元貴の運命が再び交わることはなかっただろう。
「だから涼ちゃん、辛くなったら言って。」
涼ちゃんの手を取ると、その掌に予備のピックを渡した。
「はい、これチケット。」
「チケット?」
「涼ちゃんがどうにもならなくなった時使って。二人で愛の逃避行をかまそう。」
ウインクして見せれば、涼ちゃんは笑った。
「あはは、愛の逃避行か。それはいいね。」
「いつでも使っていいからね。」
「ありがと、若井。」
コメント
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朝から嬉しくて叫びました🤭💙💛 続きもあるのかな?と楽しみです✨ いつも素敵な話、ありがとうございます🙏