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「ちょっとうるさっ…どうしたの?」
貰った合鍵を使ってエントランスまでマネージャーが送ってくれた。
部屋のチャイムが壊れるくらい押し続けると出てきた恋人は、連打の苦情を入れる顔だったのに俺の顔を見て表情を変えた。
そんな酷い顔をしてるのか。面白くなんてないのに笑ってしまう。
よくここまで帰ってこられたな。
怒られる覚悟で仁人に飛びつくと、バランスを崩した彼と一緒に倒れる。背後からドアが閉まる音がした。
「痛っ!なに!なに?!」
ごめんね、腰痛めてるのに。
心の中で謝りながら体を起こし靴を脱いで、倒れた仁人を抱き上げる。
混乱している彼を寝室のベッドに降ろす。
ようやく何かを察したようだ。逃げようとする仁人の腕を掴み押し倒した。
「おい!勇斗!何やってんのか分かってんのか!?」
「仁人、暴れんな。」
「やめろ!ふざけんなよお前…!」
「何もしないから。」
暴れる仁人を押さえつけてその胸に頭をくっつけると、バクバクと音を立てる鼓動が額に伝わってきた。
ここに戻って来られて良かった。裏切らなくて良かった。この匂いを肺いっぱいに吸いこめて良かった。
安心からか目の奥が熱くなる。
この状態のまま動かなくなった俺に、その気がないと思ったのか仁人も暴れるのをやめて大人しくなった。鼓動が徐々にゆっくりとしたものに変わっていく。
「何があったの?」
「…。」
「言いたくないなら言わなくてもいいけど。まあ、あらかた想像はついてるし。」
仁人が俺の背中を撫でる。まるで子供をあやしているような優しい手つきだ。
アルファの俺がこんな状態なら何があったのかバレてるよな。嫌われちゃうのかな。
やっぱりって思われちゃったかな。別れなきゃいけないのかな。嫌だな。
手放したくなくて嫌だと泣いていれば良かった幼い頃とは違うというのは分かってる。それでも嫌なものは嫌だ。仁人の服を握りしめる。
「こーら、シワになるだろ。」
「仁人…。」
「仕方ないよ。佐野さんアルファなんだから。」
声色は優しいし苗字呼びはよくあることなのに、今はすごく距離を置かれてる気分になる。
それも嫌で仁人の服にシワを作り続ける。
ああ、他のアルファと一緒だって思われた。
悔しいけど返す言葉がない。今日の出来事で俺は他のアルファと変わりないことを痛感した。
しばらくお互いが黙って数分経ってから、仁人がぽつりと話だした。