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かんな
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アルエと目を合わせる。徐に手を出すと、両手でハイタッチした。
「さぁ、描こう!」
「頑張ってください、イソトマ様!」
鉛筆と消しゴムがないので、下書きのように作ったネームを参考にしながら一発描きになる。かなり気合を入れねばならない。
だが、イソトマが気合を入れる理由は他にもあった。
「その漫画を持って、ルシアン様との話し合いに臨むのか」
斜め後ろあたりから、ディルクが見守る。
あまり近いと肘が当たったりするので、気を遣ってくれている。
「うん、そう。この漫画で、僕の想いは伝わると思うんだ」
イソトマは確信を持って頷いた。
「伝わる、のか?」
「きっと伝わります」
半信半疑なディルクを説得するように、アルエがダメ押ししてくれた。
アルエとディルクが、イソトマのペン先を固唾を飲んで見守る。
空気の張りつめた部屋に、ペンが走る音だけが響いた。
しばらくして、一ページ目が何とか書き上がった。
「……できた」
アルエとディルクが、息を吐いた。
「見ているだけで緊張しますね」
「息を吸う音にも、気を遣うな」
気が緩んだ二人が、感想を口にする。
その隣で、イソトマは原稿を眺めていた。
「どうしたんだ? 気に入らないのか?」
「不備でもありましたか?」
おやつのクッキーを食べながら、ディルクとアルエが問う。
「足りないよね……ベタとトーン」
イソトマの呟きに、二人が同じように首を傾げた。
「べた?」
「とーん?」
「えっとね。ベタっていうのは、必要な部分を黒くべた塗りすることでね。トーンていうのは、薄い陰とかを表現する物なんだけどね」
説明しながら、イソトマは落胆した。
「ベタはできるとしても、トーンは難しいかなぁ」
手書きでカバーできるトーンもなくはないが、めちゃくちゃ大変な上、種類が限られる。
(贅沢は言えない。できる範囲でやるしかない)
一枚書くのに、ほぼ一日分のオタ活時間を使った。これでも絵が少なかった分、早いほうだ。
(ルシアンとの話し合い、遅くならないほうがいい)
イソトマは、アルエとディルクを振り返った。
「二人とも、ベタとトーンを手伝って!」
「そりゃ、手伝いますけど、何をどうすればいいのやら」
「教えてもらえれば、その通りにはできると思うぞ」
アルエとディルクが二つ返事で了承してくれた。
「それじゃ、まずはベタね。この広範囲を真っ黒に塗り潰すの。ホワイトないから、はみ出し禁止ね」
実際にやって見せる。
「単純そうで、細かい部分は難しいな」
「そうなんだよ!」
ディルクの指摘は大正解だ。
「そんで、もう一個のトーンね。今のことろ欲しいのは網掛けと集中線と影だけど。影は僕がやるとして、とりあえず網掛けかな。こういう感じで線を引いてね」
さっさっとペンが滑る細かな音が走る。
「細かいですね」
「細かいほど良い」
アルエが若干後悔の顔をしている。
だが、もう遅い。協力するという言質はとった。
「僕が指定した場所に入れてくれたらいいから。皆で原稿、仕上げよう!」
「おう!」
「おう」
拳を上げて、気合を入れる。
「で、一枚目はまずベタね。とりあえずここと、ここの二か所。出来たら、教えて」
「わかった」
ごくりと息を飲んで、ディルクが指定の場所にペンを入れ始めた。
「先に確認しておくが、俺が失敗したら」
「うん、全部最初から描き直しだね」
ディルクの手が止まった。
「責任、重大だな」
ディルクが、ごくりと息を飲む。
「そんなに緊張しないで。黒く塗るだけなんだし」
「……よし、心して掛かる」
ディルクの緊張した手が、ペンを握り直した。
その様子をアルエがじっくり見詰める。
「刷毛とか筆があるといいですね。水彩画や油絵用の画材道具」
「それ! あり! めちゃ欲しい!」
そういえば、この世界にも水彩画や油絵があるのだ。
どうして気が付かなかったのだろう。
アルエがすっくと立ちあがった。
「ディルクさんがベタ塗りしていると、僕は手が空くので買い出しに行ってきます」
「ありがとう、アルエ。気を付けて行ってきてね」
「イソトマ様も、二枚目の原稿、進めてくださいね!」
「了解であります!」
びしっと額に手を添えて、アルエを見送る。
ディルクが息を止める勢いでベタ塗りに集中している。
「僕も頑張ろう」
ペンを持って、イソトマは二枚目の原稿に取り掛かった。
コメント
1件
「漫画で想いを伝える」——この手段を選んだイソトマの決意にグッときました。アルエとディルクの協力も素敵で、三人で一枚の原稿に向き合う緊張感と連帯感が伝わってきます。ベタやトーンの解説が具体的で、創作の裏側が見えるようで興味深かったです。ディルクが失敗を恐れるシーンには思わず笑みがこぼれました。次はどんな漫画が仕上がるのか、ルシアンにどう届くのか、楽しみです!