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「…はあ…」
俺は、今日何回目かのため息を吐いた。
あれから1週間がたった。俺たちは、
正式に婚約破棄され、ナリアと王太子は婚約したらしい。明日婚約式をあげるようで、先ほど俺にも招待状が届いた。
俺は、すぐに行かないという手紙を送った。
正直、ナリアと王太子の婚約式なんて見たくなかった。
あれから、ナリアには一切会っていない。ナリアと、笑顔で会える自信がないからだ。
(…訓練するか)
俺は、すっくと立ち上がった。
あれからというもの、ナリアを失った痛みを忘れるために、いつも以上に剣を振り、魔法を鍛え、机に向かった。
今日も、裏の訓練場で、剣を振っていた。
「…お?小公爵殿は、剣がお好きかな?」
急に後ろから声がして、俺は振り向いた。
(あ…!)
そこにいたのは、この国の騎士団長で、ヘルマー辺境伯家当主、エルソン・ヘルマー・ハリクスだった。
「…どうしてあなたがここに?」
俺が聞くと、エルソンはニッと笑うと、
「いやあ、小公爵殿に稽古をつけろと言われたもんで。」
と答えた。
確かに、俺に剣を教えてくれた先生は、もう教えることはないといって、実家に帰ってしまった。
(教えてもらって悪いことはないだろう)
そう思って、
「…では、よろしくお願いします。」
と、承諾した。
エルソンは、またニッと笑って、木刀を取り出すと、
「それでは、まずはどのくらいの実力か、試させてもらいます。」
といって、俺を構えさせた。
俺が構えたのを見ると、エルソンは一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろした。
俺はそれをぎりぎりでかわし、攻撃を仕掛けた。
エルソンはそれを軽々と受け流す。
(結構本気でやったんだが…)
さすが騎士団長、と思いながら、次は突き技を仕掛ける。
上手く懐に潜り込めた。
(よし…!)
もらったと思っていると、急に、背中に衝撃がはしる。
あっという間に地面に叩きつけられ、そのせいで、木刀を落としてしまった。
「大丈夫ですか?」
エルソンは、俺に手をさしのべる。
俺は、自分が負けたということに気づいた。
久しぶりだった。人に負けるというのは。
驚くと同時に、エルソンの、強さと、その驕らなさ、紳士的な行動に憧れた。
エルソンの手をとって起き上がると、すぐに、
「これからも稽古をつけてもらっても構いませんか!?」
と、聞いた。
エルソンは、満面の笑みを浮かべると、
「厳しくしますよ?」
と言った。
それから、俺はエルソンを師匠と呼び、暇な日は毎日稽古をつけてもらった。
そのうちに、俺は、騎士を目指すようになった。
そうすれば、稽古の時間も増えるし、ナリアも守れると思ったから。
それから約2ヶ月がたった。
俺は副騎士団長になり、周りからは、「期待の新星」と呼ばれ、たくさんのご令嬢が寄ってきた。
俺はそれをとことん無視し、任務や稽古に取り組んだ。
それをみかねた団長や団員は、俺のことを面白おかしくからかってくる。
今日もそうだった。
俺が団長の部屋で仕事をしていると、
「おい、レオ。お前、またご令嬢に求婚されたらしいなぁ。」
と、にやにやしながら言ってきた。
俺はいつものように、
「俺には、心に決めた相手がいるので」
と、手を動かしたまま、軽くあしらった。
団長は、またもやにやっと笑い、
「そうかそうか。お前はナリア嬢にゾッコンだもんな~ 」
と、大声でとんでもないことを言い出した。
俺はバッと振り向き、震える声で、
「な、なにを、いってるんですか!?」
と、顔を赤くしながら言った。
団長は、「図星か」と、けらけらと笑う。
翌日、自分がどうなるかも知らずに。