どこまでも続く地下への階段がようやく終わろうとしている。平坦な通路に変わったのは、それだけ深い所に来たということに違いない。自然の地下に対し後から加えたのか、地下深いわりに灯《あか》りが備わっている。そのおかげで歩きやすい。
それにしても盗賊団のアジトには何の脅威も無さそうなのに、何故彼らは盗みを働いているのだろうか。ルティが持って来た杖と鎧もたまたま草地に放置していたわけじゃなく、おそらく盗品。とにかく彼らのことを知ってそのうえでジョブの盗賊を覚える必要があるかもしれない。
「――おい、聞こえてんのか? 荷物持ち!」
「あっ……おれですか?」
「お前のツレのドワーフ女は磨きの小屋に連れて行く。お前はこのままついて来い」
「小屋……?」
小屋を探そうとするも、目の前にあるのは男たちの背中。ルティの姿をあえて見せないようにしているのか?
彼女はおれに従っている以上暴れるようなことはしない……はず。
しばらくして――
狭い通路から広い空間に出ると、一つの大きな町が眼前に広がっていた。地下にありながら地上への穴が開いていて、空の明るさがあった。まるで隠れ家のように思えるが確実に町になっている。
「ふっ、地下に町が広がっていて驚いたか?」
「ただのアジトじゃなく、町……ですか?」
「ここは盗賊とその家族が生活している町、レイウルムだ! 元々は廃墟だったところを直しただけなんだがな。それと俺らは夜以外は外に出ている。いつもいるのは家族と女だけだ」
曲がりなりにも役割があるのか。
「廃墟だった場所……え、じゃあ……」
「変なことはしねえよ。安心しな! 盗賊のドワーフ女には別の仕事をしてもらう」
「……へ?」
「盗んだ武器とか防具なんかを磨く仕事だ。綺麗にしねえと王国の騎士どもには売れねえからな!」
盗んだままの道具は汚れが目立つ。しかしそれを磨いて売りつけているらしい。昼間は盗みに出かけ、帰って来たら磨く繰り返しで生計を立てているといったところか。
「王国? それってシーフェル王国ですか?」
「お? 知ってんのか? 確かにシーフェルだな。だがもう一つお得意さんがあって、そこはザーム共和国って所だ。どっちかと言えばザームの方が買ってくれる感じか」
「え?」
「王国の方は後継ぎで揉めてるし、共和国の方は賢者が消えて大騒ぎってやつだ」
あんなに性格悪い奴《テミド》でも賢者として認められていたんだな。そんな奴が消えれば確かに大騒ぎになる。
「あぁ、だから武器が売れると!」
「まぁな。あの辺は魔物が強いし、ドラゴンなんかもいるからな。稼げる場所ってもんだ!」
(ザーム共和国……賢者テミド・ザームの国か)
勇者の国はどこにあるかは分からないが、賢者と聖女の国は近い関係にあったようだな。奴らとは何の関係も無いとはいえ、国名になるほどの人間だったことには素直に驚いた。
魔物が強い所に国があるということは自然に強くもなる。王国の揉め事も気になるが今はここで何かを掴まなくては動きようがないか。
考えにふけながら町を眺めると、似たような小屋の姿が見えた。その一つにルティが入って行くのが見える。
「磨くだけの小屋があれですか?」
「小屋はかつて職人が使っていた場所だ。丁度いいからってんで、ギルドの真似事をさせてる」
「それを女たちがやっていると……」
「手先が器用な女が多いからな! 盗んだ物以外でも金になるもんは売りに出してる」
それを聞くとルティは確かに適任だ。手先が器用なドワーフというだけで連れていかれたのも納得出来る。
「はい、この小屋に入って!」
「えぇ? わ、わたしだけですか? あの、わたしのご主人様はどこに……」
「……ご主人様ぁ!? へぇ……? あの弱そうな荷物持ちの男がねぇ。あんたの方が強そうなのに分からないものだね」
「アック様は弱くありません!!」
「だんなの名はアックか……なるほど。それで、あなたは?」
小屋の外にまでルティの声が響く。さっそく何か問題でも起きただろうか。
「だ、だんな様!? アック様がわたしの……はふぅぅ」
「想像しているってことはそうじゃないんだね。あなたの名前は?」
「え~と、わたしはル……じゃなくて、シアです。シアとお呼びください」
「それなら、シア。早速だけど、そこに置いてある武器を布で磨いてくれる?」
「は、はいっ」
結局おれとルティは別行動。大人しく言うことを聞いて大人しくしてくれることを願うしかない。あの子はそもそもおれよりも手が早く拳で解決するタイプだ。
盗賊連中や面倒な相手が絡んで挑発に乗らないことを祈るしか無いだろうな……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!