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「ウゥゥッ!! この人間たちは何なのだ!?」
「そんなことわらわにも分からないなの! でも襲ってくるから敵って分かるなの!!」
アックとルティがレイウルム半島に漂着していた頃――王国行きの船上では大変なことが起きていた。
巨大なタコとクラーケンを釣り上げてしまったルティは海に転落。その結果、その場に残されたシーフェルは事なきを得たかと思われた。
しかし、
「あ、あたしの魅了が効かないというの!?」
聖女エドラの成り代わりであるスキュラは巨大タコを制御出来ずにいた。シーフェル王女に成り代わったことで、彼女は水棲怪物だった時の力を失っていたからだ。さらに追い打ちをかけたのが乗船していた冒険者パーティーだった。
「王女様! ご無事ですか?」
「リエンス、あの人間たちは何をなさっているの?」
「ご安心ください。あの者たちはザーム共和国に向かう冒険者たちです。都合よく乗船していたので僕が頼んだのです! 攻撃魔法を使う者たちですのですぐにでも倒してくれるはずです」
炎属性魔法を一斉に放ちタコの動きを止めた――かに思えたが。
「……それにしては人数が少ないわ」
「剣士たちはタコが弱りきるまで待機しているそうです!」
「それもキナ臭いことですわね」
「え?」
シーフェルの疑いはすぐに表《あらわ》れる。剣士とは程遠い粗暴な男たちが、シーニャたちのいる船室を襲ってきたからだ。
「獣人風情が生意気にも船に乗ってやがんなぁ?」
「おまけに変わったガキもいるぜ。どうする? やっちゃうかぁ?」
「かっかかか! こいつぁ、テミドさんへのいい手土産になりそうだ」
粗忽そうな男たちが船室に籠っていたシーニャと対峙。
「じゃあオレは、外で魔法ぶっ放してるラリーにでも知らせて――」
「おい、デミリス! ラリーにいちいち言うことでもねえだろ。獣人とガキはここで始末する! 黙っておけよ?」
「……わ、分かった」
明らかに素行が違う男が混じっているようで上手く連携が取れていない。
連中を前にしてシーニャとフィーサは、
「アック以外の人間は変なのしかいないのだ! シーニャがやっつけてやるのだ」
「中にはマシな人間も混じっているなの。でも、容赦なんてしないなの!」
フィーサが言うマシな男とはデミリスと呼ばれている男だ。他の男たちはダガーを片手にいつ襲って来てもおかしくないが、デミリスは緊張で動くことが出来ないらしい。
「獣人とガキには悪ぃが、ここで――」
男の一人がダガーの剣先を脅しで見せる。
次の瞬間――
「ぐがあぁっ!?」「ぐぅっ……」といった、複数の男たちの声にならない叫び声が船室に響いた。
「ひ、ひぃぃ……」
片手剣を持つ男だけが無傷のまま立ち尽くしている。
「何だ、弱い人間だったのだ。一体何がしたかったのだ?」
「全くなの」
「コイツも倒すのだ?」
「見たところそんなに悪そうじゃないなの。手にした剣も使われたことがないみたいなの」
「それなら放っておくのだ。シーニャ、後で褒められるのだ!」
男たちはあっさりとシーニャによって倒された。そんな中、デミリスと呼ばれた男だけが相手にもされず放置され、一人安堵の表情を浮かべていた。
「うぅ、助かった……これでレイウルムに帰れる……」