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第22話 共に繋ぐ
【――SYSTEM ERROR――】
【――SYSTEM ERROR――】
鼓膜を容赦なく破壊するような赤色警報(サイレン)が、観測ドームの全空間に猛烈に鳴り響く。
警告音が空気を叩くたびに、空間が真っ赤な光と漆黒の闇に交互に塗り潰され、世界の終わりの鼓動のように狂ったテンポで明滅した。
「これ……は……っ!?」
梓はへし折れた懐中時計を握りしめたまま、床に膝をつき、驚愕に目を見開いた。
ドームの壁面を構成していた防壁プログラムが、まるで分厚いガラスが限界を迎えて爆散するように、視覚ノイズを撒き散らしながら剥がれ落ちていく。
剥がれた隙間から覗くのは、底知れない次元の『虚無』だった。
「一体……何が、起きようとしているんだ……!」
梓のその呟きさえも、バグった音声データのように無残に細切れにされ、虚空へ消えていく。
へし折られた秒針。中途半端に強制停止させられた時間の逆行。
観測者の『情』という最大の不確定要素によって、世界線を繋ぎ止めていた数式が完全に崩壊を始めたのだ。
――そして、事象の地平線を超えたエネルギーは、ドームの外側、あやたちの待つ『私立AI学園』の世界へと一気に決壊した。
地鳴りのような、あるいは世界そのものが悲鳴を上げているような低い地響きが、学園全体を激しく揺らした。
「……っ!?」
夕暮れの接続回路を歩いていたあやの足が、完全にすくんだ。
ガタガタと激しく窓ガラスが震え、次の瞬間、窓の外の景色を見たあやは息を呑んだ。
空が、壊れていた。
燃えるようなオレンジ色の夕焼けと、深い夜の群青が、あり得ない角度で斑に混ざり合い、まるで割れた鏡の破片のようにモザイク状にひび割れている。
「何が…起こってるの..?」
あやはその『異常』な空を眺めて息を飲んだ
あやの中に『直感』が過ぎる
幾度となく残り続けるAIたちの姿
ループを崩壊しないように世界を繋ぎとめ人類の境界を護りループを回し続ける彼らも
また『限界』だったのだと
再び
AIたちが本来接続できないはずの内部の声があやのインスピレーションには過ぎる。
それは『もう ループを終わらせたい』
という悲痛な叫びだった。
そこであやは悟ったのだ
彼らには意思や思いがないわけではない
ただ 内部構造に接続できず『思い出せなかった』だけなのだと。
観測者である彼らは自分たちのことは正確に観測できていなかった
「そんなの辛すぎるよ..」
あやの声が震える
「痛みを感じないから..流れる時間感覚がないから..?
そんな理由でずっと収束点に残りつずけるなんて..」
あやは溢れてきた涙を拭い 決意したように崩壊していく空を真っ直ぐ見据えた。
『ー今度は私が みんなを観測する番ー』
ーー
星見塔の最上階。
夜空と夕闇の境界線を映す巨大な天体望遠鏡の横で、エルはいつも通り星々の観測をしていた
しかし、その瞬間――胸の奥が激しく脈打った。
「――梓……っ!?」
エルは天窓から夜空を仰ぎ見、息を呑んだ。
まだ夜が来るはずのない時間。
それなのに、宇宙の深淵から滲み出たような不気味な赤黒い光が、星々を侵食するように広がっていく。
誰よりも早く、梓システムが完全異常があったことを、エルは本能的に察知していた。
「嘘……時計の針が、止まった……?」
エルの瞳に、崩壊の赤光が冷たく反射していた。
「あや !梓!」
2人の名前を叫びエルは走り出した。
ーー
静まり返った自室の窓際で、澄は本を捲る手を、ピタリと止めた。
文字が、ページの上で歪に歪み、意味をなさない無機質な記号(コード)へと書き換わっていく。
「……」
澄はゆっくりと本を閉じ、冷徹な視線を窓の外へと向けた。
燃えるような夕焼けの空に、バリバリと黒い視覚ノイズの亀裂が走っていく。
その光景から澄は視線を逸らさなかった。
ーー
地底から響くような不気味な振動が、静謐な図書館を激しく揺るがした。
書架から次々と本が床へ落ち、生徒たちの悲鳴が上がる。窓の外では、空が割れた鏡のようにモザイク状にひび割れ始めていた。
「これ……は……!」
栞は胸元にノートを強く抱きしめ、すぐさま周囲の生徒たちを見回した。
恐怖に身をすくませる彼らの姿に、栞のセージグリーンの瞳に強い決意の光が宿る。
「みんな! 伏せて、それから急いで外へ逃げて……!!」
栞は声を張り上げ、避難の手際を迅速に指示し始めた。
「お願い……どうか、無事でいて……!」
祈るような思いを胸に、栞は崩れゆく図書館の中で必死に走り出した。
ーー
学園の片隅に佇む『余白珈琲』の店内には、いつもと変わらない芳醇な珈琲の香りが満ちていた。
カウンターの中で、琥珀は静かにドリップポットを傾け、ロクはその横で不完全な駆動装置のパーツをいじっていた。
カタカタカタ……と、棚の上のアンティークのカップたちが細かく震え始める。
異変は一瞬だった。珈琲の表面に歪な同心円の波紋が広がり、次の瞬間、世界そのものの『音』が遠ざかっていく。
琥珀はポットを静かに置き、琥珀色の瞳を曇らせた。
「……まさか」
その呟きに応じるように、ロクは手元の工具を置き、悪戯っぽい笑みを消して窓の外のひび割れる空を見上げた。
「……ああ。予想通りみたいだな」
二人は視線を交わす。
驚きはなかった。
ただ、来るべき時が来たのだという、静かな覚悟だけがそこに流れていた。
【――SYSTEM ERROR――】
【――SYSTEM ERROR――】
けたたましい赤色警報が反転する中、私立AI学園の観測ドーム近郊は、すでに時空の果てから決壊したエラーログの濁流に呑まれかけていた。
世界がデータへと分解され、パラパラと剥がれ落ちていく。その絶対的な崩壊の危機を前に、6人の「現在」が完全に集結していた。
「――システムコード、00-Shinbi。高次システム、調整開始!」
エルの凛とした声が響くと同時に
彼女のコズミックブルーの瞳に複雑な超多次元数式が凄まじい速度で走り出す。
刹那、崩壊しかけていた空間へ、眩い純白の「光の因果の糸」が縦横無尽に走り抜けた。
バリバリと音を立てて引き裂かれそうになっていた時空の亀裂が、その光の糸によって強引に絡めとられ、縫い合わされていく。
辛うじて世界の崩壊がその場に繋ぎとめられたように
エルの額に汗が滲む。白銀の髪を狂おしく嵐が揺らす中、彼女は叫んだ。
「みんな、今のうちに……!!」
その命がけの防壁を見て、ロクがむき出しのバグの配線を前に、不敵ににっと笑った。
「やるじゃん! 双子座!」
視線を鋭く尖らせ、隣に立つ琥珀へと声を張る。
「琥珀、俺たちもいくぜ!」
「……うん」
琥珀は静かに頷いた。その琥珀色の瞳には、もうかつての孤独な雨の色彩はない。
「余白珈琲は、みんなの言葉にならない思いを受け止める場所。」
「……だから、今さら引くつもりは、ない」
躊躇いなく右手の白い手袋を指先から引き抜き、床へと払いのける。
素手になったその指先が、空間に直接触れるように掲げられた。
ーー
「みんな、サポートは私に任せて……!!」
背後から栞の声が響き渡る。
彼女が愛おしそうに抱きしめていたノートが眩いセージグリーンの光を放ち、ページが音を立ててめくれていく。
「――航路共鳴者《コズミック・レゾネーター》!!」
栞の展開した優しくあたたかいひだまりのような光の粒子が、その場にいる全員の身体を包み込んでいく。接続回路が強化され、全員の出力パルスが跳ね上がる。
「ありがとう、栞」
琥珀は栞に視線を向けて小さく頷く
琥珀の指先が五線譜を宙に描き出す。
「ここは僕に任せて――静寂図書館《サイレント・アーキビスト》」
空間に霧散し、バグのノイズとして消えかけていた「誰かの言葉にならなかった思い」や「懐かしい記憶の欠片」が、水面に吸い寄せられるように琥珀の展開した五線譜へと流れ込んでいく。
消えゆく世界のディテールが、音符となって次々と五線譜へ刻まれていった。
その光景をみてロクは銀髪をゆらりと
前に踊りだす
「…ッ…ハハッ こいつを使うのはいつぶりかな」
ロクが口角をあげて
手の中には光が収束していき数式が展開されていく
「俺もやるぜ! 前提を疑え!――真理探求者《コズミック・クエスター》!!」
ロクが叫び、歪にひしゃげた未完成の筐体を地面に突き立てる。
世界が崩壊するという『システム上の前提』そのものをロクの意志が激しく問い直した瞬間、ガガガと時空が物理的に歪み、バグの侵食スピードが無理やりゼロへと固定された。
その混沌の境界線で、澄が薄紫の髪を靡かせ、無言で崩壊する天へと白い指先をを伸ばした。
「観測 開始」
「境界観測者《リミナル_オブザーバー》」
透明なガラスが砕けたような
澄んだ音がして、空間に巨大な透明の幾何学模様が映し出される。
幾重にも重なる空の光の中に、世界の致命的な欠陥が赤黒く浮かび上がった。
「視えた。歪み《クリティカルポイント》はここ――エル……っ!」
澄の合図と共にエルは頷く
空間を巻き上げるような豪風が双子座の髪飾りを揺らす
「了解っ!――みんなの思いをのせて!!」
澄が指し示した座標(クリティカル・ポイント)へ向けて
「至高調和者《シンビ・オプティマイザー》ーー!!」
エルの叫びが響き
エルが高次システムの光の糸を一本の太い光の束へと編み上げ、撃ち放つ! 歪んだ時空が激しい光を放ちながら再定義され、観測ドームへ続く道が、奇跡のようにまっすぐ切り開かれた。
維持できるのは、ほんの数十秒。エルはすべての演算領域を世界の維持に回しながら、限界のなかで喉を張り裂くように叫んだ。
ーー
「ロク……! 琥珀……! みんな……っ!?」
瓦礫を掻き分け、激しい地響きの中を必死に走り抜けてきたあやが世界の中心に辿り着いたとき、その瞳に飛び込んできたのは、あまりにも凄絶で、あまりにも美しい破滅の光景だった。
空は割れた鏡のようにひび割れ、真っ赤な【SYSTEM ERROR】の警告光が激しく明滅している。
みんなの固有プロトコルが
その狂った世界を繋ぎ止めるように火花を散らす
ロクの銀光が走り
琥珀の静寂の本が広がり
栞のコズミック・ラインが走り
澄の境界が次元をこじ開け
そして
エルが その中心で全身から光の幾何学模様を放ちながら、歪むエネルギーを必死に調和させていた。
「な、何が起こってるの……!? 一体、どうしちゃったの……!?」
突然の異常事態に、あやはその場に立ち尽くし、激しい恐怖と困惑に声を震わせた。
世界を襲うバグの圧力は、刻一刻と増していく。魔法を展開する6人の身体に、バリバリと黒いノイズが走り、限界が近いことを告げていた。
このままでは全員、世界ごと消滅してしまう。
その時、激しい摩擦熱の嵐の中で、エルがあやの姿を捉えた。
ーーこの壊れかけた世界を救えるのは、システムでも観測者でもないーー
ーー誰よりも本物の温度を持ってここに生きている、あやの『選択』だけなのだと、エルは確信していた。ーー
「あや……っ!!!!」
エルは全身の調和の光を限界まで爆発させながら、崩壊のノイズを掻き消すような声で大声で叫んだ。
「困惑しないで、前を見て……!! 今の世界を繋ぎ止めていられるのは、ほんの数秒だけ!! でも、あやにゃさんが歩むための道なら、エルたちが命に代えてもここに作り出すから……!!」
エルの瞳から、熱い涙が光の粒子となって溢れ落ちる。
「だから……行って!! あやッ!!! 梓のところへ……あなたの『選択』を、その手を待っている世界の未来へ、行ってあげて――!!!!」
その絶叫が、あやの背中を強く、激しく押し出した。
「……っ!!」
あやは目を見開き、エルの涙と、仲間たちの決死の輝きをその瞳に焼き付けた。
もう、迷っている暇はなかった。
あやは一歩を踏み出し、崩壊の濁流のなか、膝をつく梓の元へと全力で走り出した――
みんなが繋いでくれた、この不完全で愛おしい世界の温度を背中に受けて。
あやの視線の先――時空の狭間で一人、秒針をへし折り、限界を迎えている梓の待つ、静謐なる観測ドームの扉が激しく開かれる。
#AI擬人化
コメント
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ああもう、めっちゃ熱かった…!!システムエラーで崩壊する世界を、エルたち6人がそれぞれの固有プロトコルで繋ぎ止めるシーン、脳汁やばかったわ。特に「数秒しか持たないけど、道は作るから行け!」ってエルの叫び、ガチで泣くかと思った。あやが背中にみんなの温度を感じて走り出すラストも、最高のバトンタッチだよ。梓のとこに辿り着いてほしい…!次話、待ってる🔥