──────八幡さん視点──────
────キンッカキンッッ!ギリリリイッッ
そんな、刀と鱗がぶつかり合う、どちらかと言うと金属音に似た音が、空中で爆ぜる。
____空中戦に持ち込まれてしまった。
私が戦いで最も苦手というのを強いてあげるとするならば空中戦である。
当然と言えば当然である。私はそもそも地の龍なわけで。その名に恥じず、私は陸地での戦闘を得意としている。なので、できる限り地上で戦いたいのは山々であるが、それは許さないとばかりに、空中から降りる気配はない。
何より盲点だったのはぐさおさんが翼を使わずとも飛べるということだ。先程、翼を切り落としてみたところ、ただの飾りが落ちた、とでも言うように涼しい顔をしていた。若干バランスは崩れていたが、それだけでは些細な変化とも言えないほど小さな変化でしかない。
しかし、ここまで空中戦が苦手と言ってきたが、そこら辺の生まれたばかり同然の若者どもよりは強いと断言しよう。私の人生は無意味にもこんなに長いものだから弱点だって克服してしまった。…強がってみたが、やはり、そいつとは空中戦において、格が違うらしい。
そいつであるぐさおさんは空中は私のものだ、と言わんばかりに360度全方位を飛びまわり、なかなかに手痛い一撃を与えられている。
私が攻撃を与えようとすれば、それを先回りしたかのように攻撃をしてくる。私はそれを回避するために攻撃を中断し、かわす。また攻撃をしようとして──────この無意味な状態を今、何十回と繰り返している。
地上戦ならばいくらでも覆せるのに。と、心の中で舌打ちをしながら、最善策を考えるために頭を回し続ける。
───勘違いだと思った。
目の錯覚だと思った。私の脳が上手く理解出来ていないのだと。
しかし、何回みても
──────その一撃は私の腹を深々と抉った。
馬鹿な、と思った。まるで私がぐさおさんを引き立てるための敵役ではないか、と。
その一撃を与えたのは紛れもなくぐさおさんだった。
鋭利にとがった刀の切っ先が私の血肉をえぐり、そしてその刀を素早く話す。
ズサァアアッッ
そんな血が私から逃げるように大きく血飛沫をあげる。
わあ、久しぶりにみたー
なんて、能天気と言うべきか、はたまた現実の見えていない馬鹿なのか。
そう自嘲するが、そんなことをしたって抉られた血肉は戻ってこない。そんなことを思っている間にも、その血肉は既存のものが膨張し、その傷に新たな血肉を作り出し、まるで、なにごともなかったかのように私には傷が残ることは無い。
____どちらかというと精神面が落ち着かない。あんなにも盛大に血飛沫を上げ、そして肉を抉られた。かろうじて骨は持ってかれ無かったが今はどうでもいい。
その一撃を、私が見ることは出来なかった。それが何より──────
「…ははッwハハハハハハハハハッッ!!分からなかったッッ!!分からなかったよその一撃ッッw!」
───面白い。あぁ、やっとだッ 。退屈な日常。永遠に近い無意味な時間。やってくる虚無と憂鬱と心労への負担。
それら全てから解き放たれて!!そして!!愉快な戦い!!久しぶりに全身の血肉、骨などの大まかな部分から原子一つ一つにいたるまでの熱気と情熱と興奮。
素晴らしいッッ!!素晴らしいッッ!!久しぶりの感覚。私にすら見えない攻撃ッッ!!これを、これをッずっと求めてたッッ!!!
「これをずっと求めてたんだッッ!!!」
まるで、ドラゴンが目覚めたかのような絶叫。しかし、ぐさおさん。あなたが望むというのならば──────
──────私の、私の初めての絶叫をあなたにあげよう。いや、死と向かい合う恐怖も、強敵と戦える興奮も、全て、全てを捧げようッッ!!!
だからッッ!!
「最高の戦いにしようッッ!!!!」
「───ッ狂ってますねッッ!!!」
ぐさおさんの皮肉った物言いも、今ならば、なんとも感じない。それどころか戦いに対するスパイスとすら感じる。あぁ、あぁ。構わない。構わない。その言葉での戦いも好きだッッ!!戦いの前に敗者がどれほど叫んでも結果は変わらないように、この会話で勝負が決することは無いし、決したとしてもそれは私の全力の結果だ。喜んで死を受け入れよう。
もとより、死神たるめめさんを欲しがった時点で、生に対する執着はとっくに捨てている。
全力で闘える相手を闘って死ぬ。私が、1番望んだ夢。いや、救済。
それを与えてくれるとするならば。
私は、私はッッ──────!!!
ゆらゆらと揺れる目。勢いで自由に空間を動く髪。刀の揺れ。──────腕の消失。
「──────は?」
私は、言葉をこぼす。
だって、だっておかしいじゃないか。さっきまで威勢よく叫びあって、生を、魂尽きるまで全力でぶつかるところだったじゃないか。
でも。現実はどこかズレていて。
ぐさおさんは腕から先を光へと変えていく。
は?それではまるで──今から死ぬみたいじゃないか。私と戦わないで?なんで?
ぐさおさんの表情を見る。先程まで血色良く、そしてほのかに赤色に灯っていた顔は、急速に色あせ、代わりと言わんばかりに青白くなっていく。ところどころ既に光に変わっており、欠けているようにも見えた。
刀を落とす。角をポロリと、光へ変えていく。目からは涙のような光が流れ、次第に眼球が光に飲み込まれる。
そして、何事も無かったかのようにそこは静寂を極めた。
「…不意打ちってやつ?」
そう言って、近づいてくるのは、黄色の髪をした悪魔だった。
発言でわかる。態度でもわかる。
──────こいつが、こいつこそが私とぐさおさんの尊き試合を潰しやがったのだ。
ここで切ります! ぐさおさん!退場です!
ここで死ぬんですね…ぶっちゃけ信じられねぇ…。今から手に汗握る熱い戦いが始まると思ってたんですが…なんでこうなったんですかね??
八幡さんの隠れた戦闘狂の部分を書けて大分満足した感じがします!まあ、狂いますよね、そりゃあ。
ちなみにぐさおさんの設定は割りと明かせていないものが多いんですよねぇ…。この物語が終わったら番外編でめっちゃくちゃ書こうと思います。お楽しみに。
それでは!
コメント
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とりあえず困ったら番外編の精神
なんかメテヲさんに八幡さんが復讐しそうですね…代わりみたいなかんじ…?まぁとりま師匠は文才が…神()
ボンガが怖い…