桃襲撃の時間だ!全員集合!!
キャプション必読
艶やかな紺藍色の腰に届きそうな程長い髪の毛
ツンと外にはねる毛先は、彼女の性格も相俟って子犬のようで愛らしく感じる。
「ハァ?スカートォ…?動きにくいからヤダ」と遊摺部の必死の頼みをたったの一言で断り、「一ノ瀬って顔はかわいいけど胸は…なー、残念だよなあ」という陰口を聞けば「男って胸の事しか頭にねーの?ま、俺の胸がちっせえのは事実だしな〜」と特に気にした様子もなくケラケラ笑い…といった風に、己の容姿に無頓着な彼女だが髪の毛だけは別のようで気になったヘアオイルや櫛があれば「…これは…買い!!」とどんどん物が増えていく。
「屏風ヶ浦!漣!バカかわいいヘアピン見つけたー!!オソロでつけよーぜ!」と羅刹の女子三人組は、四季が見つけてきた物をよく身に纏っている。手先が器用な馨にヘアアレンジをしてもらったりした日には、にこにこご機嫌に笑って皆に見せびらかしたりしている。女の子の事情に無関心な無陀野や真澄でさえも、四季が髪の毛を大事にしていることが分かるほどだ。
とある日、皆が気になっていたことを屏風ヶ浦が口にした。
「あ、あの…つかぬ事をお聞きするんですが…どうして一ノ瀬さんは髪の毛を伸ばしているんですか…?」
「あー…別に深い理由はねえよ?親父が”せめて髪の毛は大事にしろ!”ってうるさくてさあ…ヘアオイルとか何だかんだ沢山買ってくんの。もったいねーから使ってたら癖になってさ…俺、オシャレとかよく分からんしどうでもいいから髪の毛くらい女の子らしく?しよっかなって」
「そうなんですね…!素敵です。あ、この前のヘアピンのお礼で…かわいいシュシュを見つけたんです。良かったら…」
「カワイ〜ッ!!ありがとな!屏風ヶ浦!漣にはあげたん?」
「あ、はい!どうせなら三人でお揃いに、と思って…」
「今度三人で出掛ける時につけてこーぜ!漣は何色?てか、どっちもかわいーな。迷う…」
きゃっきゃっと楽しげな会話を、……ほう、と皇后崎達は何も言わず聞いていた。四季が己の髪の毛を大事にする理由。それは本人が知らぬ間に広まりに広まった。
「―――え、」
そう呟いたのは誰だったか。
それすら分からないほど、皆唖然とした表情を浮かべ慌てて部屋に入ってきた四季を見つめていた。
バッサリと短くなった紺藍色の髪の毛
四季はしん…と静まる部屋に首を傾げる。その拍子に、さらりと髪の毛が揺れて長さが整っていない毛先が頬を擽った。
「し、しししし…四季…ちゃん…、か、かみ、髪の毛…どうしたの…?」
花魁坂が震える声で何とか問う。隣に居る無陀野は目を見開き静止している。真澄も同様に真っ黒な瞳をこれでもかと見開き、馨は資料をバサーッ!と落としたままぴくりとも動かない。
「あ、これ?一応自分でも整えてみたんだけど難しくてさー…」
ぷく、と頬を膨らませ毛先を弄る四季に(いやいやいや…違う違う違う…その顔かわいいけど…)と花魁坂は思いながら「ア…えっと…そういうことじゃなくてね、四季ちゃん…」と言うと意を決して「………短くしたくて、自分で切ったの?」と首を傾げた。
「いや?」
「ウ゛ッ゛…、じゃあ…な、なんで…」
「刃物を操る桃が居たんだけどさあ、子どもに当たりそうになってあぶねー!ってなって庇ったら髪の毛ばさーってなって…、あっ!子どもは無事だったぜ!」
にこにこ変わらず愛らしい笑顔で「お礼にお菓子もらってさー、……あっ、もう食べたから皆の分無いんだけど…」と続ける。頑張っていた花魁坂までもが無言になり、部屋は再び静かになる。それに四季は「あ、あれ…?そんなお菓子食べたかった?ごめん…?」と勘違いし、謝っている。
―――よし、殺そう。
部屋に居た四季以外の皆の気持ちが一つになった瞬間だった。
◇
「誰かー!!!誰かたすけてー!!!!ヘルプミー!」
羅刹、練馬、杉並が集められ行われる会議に遅れ参加する予定だった紫苑は会議室から聞こえてくる四季の声に、ひょこっと顔を入れ中の様子を伺った。そこには必死に無陀野と真澄の腰にしがみつき、ずるずると徐々に引き摺られる四季と、その周りで”見せられないよ!”な顔をした馨達が何やら忙しそうにしていた。
「…あー…何事?って、アレ。一ノ瀬、髪の毛短くなってんじゃん。かわいい、似合ってる」
「ありがと!…ってそんな場合じゃなくて…紫苑さん助けて!ムダ先と真澄隊長止めて!!」
……無理かなあ、なんて思いながら、取り敢えずこの騒動の原因であろう四季に聞いてみる。
「実はかくかくしかじか!桃に髪の毛切られたって言ったら、なんか皆…怒って…?俺が食べたお菓子の事ではないらしい!それで、桃機関を壊滅させるって!!」
……は?と一瞬思考が停止する。よくよく観察して見れば、短くなった毛先は整えられていないのかあっちこっちにはねて長さは合っていない。一部だけひょろっと長く飛び出た髪の毛もある。
「なるほどね。……馨、糞…じゃなくてその桃、今どこに居る?」
にっこりと黄色い悲鳴が飛んできそうな甘い笑みを浮かべ、紫苑は馨に問うた。
―――紫苑、参戦ッ!!!
「紫苑さんッ゛!!!!あ゛ー!!だめだめ!止まれって二人とも!桃を話し合いの場の席につかせるって!ムダ先が言ったんだろ!!真澄隊長も落ち着けって!血管がブチ切れそうで怖ぇんだよ!!」
その後、校長の「ちょっとちょっとー、皆どうしたのさ。落ち着いてー」の一言で何とか騒動は収まった。それまでの間、四季は二人の腰に掴まりずるずると引き摺られていた。
シャキン、シャキン…と鋏の音が部屋に響く。
最初は手先が器用な花魁坂か馨が四季の髪の毛を整える予定であったが、二人とも鋏を持った途端世界が止まったかのように静止した。かと思えば、「…すうううう…ちょっと…まってね…」と深呼吸し始めたのでこれでは埒が明かないと漣が名乗り出た。教師も(ロクロ以外の)男共三人も皆役に立たない状態だ。クソ雑魚。
「…俺、そんな似合わねえのかなー。短いの」
動いてしまわないように懸命に耐えながらもぷるぷるしている四季がぽつりと零す。どこか寂しげな声色が教室に響いて、目の前で”漣さんと一ノ瀬さん頑張れ応援隊”をしていた屏風ヶ浦が息を呑んだ。髪を整え終えた漣は鋏を机に置くと、パッパっと払いながら「ハア?私の腕疑ってんの?ほら、見てみろよ。かわいいだろ」と鏡を手渡す。それを受け取った四季は綺麗に整えられ短くなった髪の毛を見て「おー!すげー、器用!」と笑顔になるがすぐにしゅん…と悲しげな顔になる。
「………あの…、えっと、………皆、一ノ瀬さんの髪が短いのが嫌だとか似合ってないだとか…思ってる訳じゃなくて…」
ぎゅう、と拳を握りしめた屏風ヶ浦が意を決したように顔を上げ四季の瞳を見つめる。
「一ノ瀬さんが髪の毛を大事にしてたのを皆知ってたからこそ、一ノ瀬さんの意思と関係なく桃との戦いで切られてしまったことに対して怒ってるんだと思います。皆、一ノ瀬さんのことが大事、だから…」
「……………、」
ほろりと透明な雫が頬を伝い流れ床に落ちる。
四季は、「…ぁ」と小さく音にならない声を零すととめどなく流れる涙を拭い始めた。それを見てギョッとした屏風ヶ浦は「…はっ!あ!ご、ごめんなさいっ、ごめんなさい一ノ瀬さん…!な、ない…ああああ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」と傍に駆け寄る。
「ち、ちが!違くて!………あの、俺さ、…ほんとに髪の毛切られたこと気にしてないんだ。子どもが無事だった…ってだけ十分だし、もっと俺が強ければ髪の毛切られてなかったし…ってのはまあ、置いといて…また伸ばせばいいんだからさ」
つられ泣きする屏風ヶ浦の涙を拭いながら、四季は少し赤くなった瞳を細める。
「俺、羅刹に入る前の学校に仲良い女の子とか居なかったし…不器用だからヘアアレンジ…ってのもしたことなかったからさ」
「…すげー嬉しかったし、楽しかったんだ。」
「女の子扱いって訳じゃねーけど、かわいいとか似合ってるって言われるのめちゃくちゃ嬉しかったし…アレンジしてくれる時の髪の毛を触る手がさ、みんな…あったかくてやさしかったから…すきで」
「………だから…、う、ううううう゛……皆もうかわいいって言ってくれねえのかな……」
止まったかと思われていた涙がまたボロボロと溢れて来て、蹲りかけた四季を今尚涙ボロッボロの屏風ヶ浦が「そんなことないですうう、一ノ瀬さんはかわいいですッ゛!!わ、わたしが…ほしょうしますっ゛!!!」と抱きつく。鏡と鋏を避難させた漣が「あーあー…」と言いながら抱き締め合う二人に腕を回した。羅刹女子三人組のお団子の完成だ。
「あぢいよ漣ィ゛!」
「くるじいです゛…」
「はー?私のこと除け者にすんなよなぁ」
「「いでででで!」」
ぷは!と顔を上げた四季と屏風ヶ浦はにんまり笑う漣の顔を見て同時に吹き出すと、それに合わせ皆笑い始めた。二人とも、もう泣いてなどいなかった。
「髪の毛が短くなった新・一ノ瀬四季!どーですか!」
ピースをしながら現れた四季の姿を見て、”俺が桃を殺す。いーや、俺が殺す。僕が殺す。お前戦闘部隊じゃねえだろ、俺が殺る。だから、その犯人はもう死んで……。じゃあ全滅させりゃあいいだろ。…確かに。声揃えんな!!”と喧嘩していた男達はぴたりと動きを止めた。
長かった髪の毛は肩ほどまでに短くなり、相変わらず毛先は外にツンとはねているが、それも相俟ってウルフボブのようになっている。
…………か、
「かわいい〜!!!!あれっ、なんか髪型変わってる?似合ってるよ、四季ちゃん!」
花魁坂が皆の気持ちを素直に代弁してくれる。
「最初見た時より…随分変わってる気がする。かわいいね。切ってもらったの?」
「おう!最初は毛先整えてもらう予定だったんだけど、どうせならって漣に切ってもらった!」
四季に近寄り柔らかい笑みを浮かべながら首を傾げた馨に、四季は元気よく答える。四季のすぐ後ろでは”私の才能を褒め称えろ、男共。…あ、でも別にロクロ以外に褒められても嬉しくねえからいーや”という顔をした漣が居た。隣では賛同するようにこくこくと必死に首を縦に振る屏風ヶ浦。
花魁坂に馨、それから三人の傍に来た紫苑に褒められにこにこの四季は「めっちゃ頭軽くなった!動きやすい」とくるくる回る。
「四季」
「ウオッ、はい!」
無陀野に呼ばれた四季はピシーッ!と立ち止まり、見上げる。らしくもなく目を数秒泳がせた後すう、と小さく息をひとつ吸った。
「…………似合っている。長いのも良かったが、今のも悪くない。」
花魁坂が心の内で(頑張れーっ!ダノッチ、頑張れっ……あ、ああ…悪くない…ってのはちょっと…!アッ、でも四季ちゃんめっちゃ喜んでるからヨシ!)と猛烈に拍手をする。そんな花魁坂の隣で馨は真澄に目配せする。舌打ちがひとつ。
「…へへ、ありがと!ムダ先!!」
無言で頭を撫でる無陀野の手を享受しながら、ゆっくりと傍に寄ってきた影に視線を移す。無陀野の手が離れていき、四季は下唇を柔らかく噛んで言葉を待った。
「………………、あー…、悪くねえ…と、おもう。」
「…かわいい?」
「はァ?か、……はあ?」
「真澄隊長はどう思う!皆、似合ってるって言ってくれた!」
「……………チッ、」
馨の(頑張ってください、隊長。ここは男を見せましょう!)とでも言いたげな顔が腹立たしい。そして目の前で目を輝かせる四季の顔はもっと腹立たしい。
「…………か、…カワイイ、んじゃねえの。クソガキっぽくて、お前に似合いの犬ヘアだな。」
「アッ、クソガキって言った!犬ヘアってなに!」
「クソガキはクソガキ。犬は犬。…それ以上も以下もねェ。俺は忙しいンだよ、帰る。」
そっぽを向きながら、ガシガシと少し乱暴に頭をかき撫でる。四季が「うあああ…」と目が回り始めた所で手を止め撫で終わると、さっさと部屋を出ていく。ぐるぐるしたまま「真澄隊長、また、またなー!あ、馨さんもまた!」と手を振る。馨は苦笑しながら「うん。また練馬区においで。では、失礼します」と言うと、真澄のあとを追った。それに倣うように、紫苑は大我と共に部屋を出ていく。四季は大我から貰ったお菓子を片手に「またな!」と手を振って…アレ?と首を傾げる。
「なんか…会議があるみたいなこと言ってなかった?」
「ああ。話し合い所じゃな…皆各々で任務が入っちゃったから解散ってことになったんだよ。」
「なる〜。大変だなあ、皆」
話し合い所じゃなかった、と言いかけた花魁坂は笑顔のままさらりと言い換えると四季は納得したようだった。話し合い所じゃなかった…?もしかして俺のせい…!?となってしまわぬよう花魁坂の機転の利いた行動で四季は特に何も思わず、ハッピーターンをもぐもぐしていた。
「美味しい?」
「ん!チャラ先もいる?」
「俺はいいよ。四季ちゃんが全部食べな」
四季の頬についた小さなお菓子を手に取り、つい口に含むと無陀野からの突き刺すような視線とかち合い(ごめんごめんごめん、わざとじゃない…)と内心冷や汗ダラダラでにこ…と笑う。何とか許されたようで、小さく息を吐いた無陀野は四季と漣、屏風ヶ浦に会議予定の時間がまだ残っている為、外に集合し戦闘訓練をする。と告げた。漣はロクロを、四季と屏風ヶ浦が他の三人を呼びに行く形で収まり四季の新髪型披露の会を終えた。
漣曰く無能男三人組からの、拙い褒め褒め攻撃を受けた四季は終始ご機嫌であった。
「一ノ瀬さん、ここはギャップ萌えを狙ってスカートを履きましょう」
「ぎゃっぷ…?何それ、ゲップの派生的な?つか、遊摺部もしつけーなあ。スカートは履かねーって」
「見たいんですよ!もう一回!もう一回だけでいいですからああ…!スカートからギリギリ見えそうで見えない太腿の絶対領域が…いだァ゛!」
「…訓練が足りなかったようだな。遊摺部」
「……無陀野…先生…、ィギャーッ゛!!!一ノ瀬さん!助けて!スカート履いて!」
「なんであんなにスカートに固執すんだろ…」
心底不思議そうに、拳骨を受け連れて行かれる遊摺部を見ながら四季はぽつりと呟いた。
・一ノ瀬四季
両隣に漣と屏風ヶ浦が居るから特に際立つだけであって、決してスタイルが悪いだとかまな板だとかいう訳では無い。鬼機関”太腿、尻派”が付けるランキングでは不動の一位を誇る。
実は、羅刹に入る前は親父とぶつかることとチャカ弄りと喧嘩しか頭になかったので特に仲良く連む仲間は居らず一人だった為に、高嶺の花状態。本人無自覚で結構モテていたので同性からの敵視が凄かった。
皇后崎との同室をくじで引いたが、流石に男女同室は駄目という無陀野の判断で特別に一人部屋。「え、俺別に皇后崎と一緒でいいけど」「だッ、めに決まってんだろ!バカ四季!!」「アァ!バカって言った方がバカなんだぞ、バカ皇后崎!」「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い!!少しは考えて話せバカ四季!」「…ば、バカバカ言うな!バカ皇后崎!……別に…同じ部屋ってだけで…なんかあんの?」「……………(熟考)ねえ、けど。」「じゃーいいじゃん。一人さびしい」「………」なんて会話があった。「では一ノ瀬さん、僕と同室にィ゛!」と遊摺部は皇后崎の手によって沈められた。
・屏風ヶ浦帆稀
これが…お友達…と激感動する毎日。四季から貰うプレゼントと漣がしてくれるヘアアレンジが大好き。ここにお姉ちゃんが居ればなあ…なんて思う度に、額をペチ!と叩かれるので「いたい!」と涙目になっている。
・漣水鶏
基本的にロクロ♡ロクロ♡だが、次点で四季と屏風ヶ浦のことが大事。”土下座して頼み込めばヤらせてくれそう”第一位と二位(以降は居ない)を飾る二人を守っているのはこのお方。
・皇后崎迅
四季とのラッキースケベ率第一位
四季本人は全く気にしていないが、姉と母からの教えもあって「ふ、ふ…不埒なモン押し付けてきてんじゃねえよ!!悪い!!!(小声&早口)」と顔を真っ赤にしている。それを聞いた四季は「皇后崎が謝った!皇后崎が謝った〜!」とケラケラ。遊摺部は近くで歯をギリィ…とさせている。よく四季と馬鹿馬鹿言い合って喧嘩しているが、息は合うし(四季限定で)中々のスパダリぶりを発揮する。
・矢颪碇
四季とのラッキースケベ率第二位
ピュアピュアだが、さらりと「その髪、良いじゃねえか」と言える人。「やった!ありがと!」と四季は嬉しそうに、にこにこ笑うので”あれ…もしかして付き合ってる…?”と周囲はよく勘違いする。肩を組んで話している所を目撃される度に、距離の近さから”…あれ?やっぱり付き合って…?”と周囲は勘違いする。
・手術岾ロクロ
四季のことは何だか妹?みたいでかわいい…と思っている人
「…似合ってるね」や「それ、漣さん達と同じやつ…だよね。かわいい」と口にするが、漣はロクロと四季、二人のことを信じているしそういう仲には発展しないと分かりきっているので特に気にしていない。寧ろ、好き×好き=異常な愛となっている。
・遊摺部従児
四季にスカートを履いて欲しい人
本人は四季が好きなのを自覚済みだが、デフォが不健全男子高校生全開なので「俺が屏風ヶ浦のこと守らねぇと…」と四季から(信頼はされているが)警戒されている。”汝、何処へ”を駆使して先日四季との制服遊園地デートを果たしたが、ものの数時間で馨に見つかった。ギリィ…
・無陀野無人
四季の髪の毛が短い(びっくり)→自分で望んだ訳でなく、桃に切られた(おこ)→犯人を殺すしかない(決定事項)→もう四季が倒した?…そうか。なら、桃機関を壊滅させるか(!?!?!)となった。顔には全く出ていないが結構動揺していた人
四季の事は大事だし幸せになって欲しい、でもまだ嫁には出したくないし相手は最低でも自分より強くなければ認めない所存。
・花魁坂京夜
無陀野や真澄、後輩達、生徒たち皆みーんな幸せになって欲しい、けど自分も四季と幸せになりたいし幸せにしたいという思いに雁字搦めになり中々苦しくなってる人
今はまだ隠し通していて、無陀野にすらバレていないが後に重傷を負った四季を見て崩壊し、拉致後”立てこもり事件”が発生する。事件は四季本人が解決し、「皆心配かけてごめんなー」とにこにこ笑う四季と顔を真っ赤にして片言で話す花魁坂が出てきた。中で何があったかは二人しか知らない。
・淀川真澄
事ある毎に、自分が飲まないジュースを買っては「やる」と四季に押し付ける人
四季は「えー…俺残飯処理班じゃ無…って、これ俺が最近ハマってるやつ!真澄隊長飲まねーの!?人生損してるって!でも、ありがと!」とにこにこ。ジュースが無くなるまで近況報告的な四季のお喋りタイムを、隣に座り聞くのが定着化してきている。
真澄の中で(四季の能力と性格的に偵察部隊は無理だろうが)卒業後、練馬区に来ることは決定している。
・並木度馨
「真澄隊長、馨さん!右と左どっちがいいと思う?」との四季の問いに「俺に聞くんじゃねえ。……………右」と答えた真澄を立てるために、「うんうん。僕もそっち派かな」と言ったが普通に左派だったのでこっそり買ってプレゼントした人
羅刹卒業後は練馬区に来てくれたら毎日が幸せなのになーと思っている。後日、紫苑と”四季の卒業後の進路はこっちだ”という苛烈な論争が巻き起こり真澄に怒られた。
・朽森紫苑
他の大人と比べ余りプレゼントはしないし、何なら金をたかるが四季のちょっとした異変にすぐ気付くしさらりと褒めちゃう人
モブ隊員に言い寄られている四季をさらっと助けては「スゲー…これが女たらしの実力!」と四季が謎に感動するので「まずは”ありがとうございます”だろ」とデコピンするのが常。羅刹卒業後は杉並区に来てくれないかなーと思ってる。
馨との激しい論争により大我から怒られた。
・桃寺神門
実はナツと四季両方にこの子かわいいな〜と一目惚れなるものをしており、「神門の髪の毛超綺麗!てか長いのお揃いだな!」という四季の言葉にデレデレしていた人
四季との良い運命のお告げには「ミョリンパ先生…すごい…(尊敬の眼差し)」となるが、悪かったり嫌なお告げだと「はあ。…あ、枝毛。(興味無し)」になり差がすごい。
先日、四季の髪の毛が短くなった理由を風の噂で聞き、ついうっかり四十九枚の窓ガラスを割って苦情が入った。
小ネタ集
(内容:皇后崎、矢颪、遊摺部×四季,計四本 京夜×四季,むっくんと四季,海月+屏風ヶ浦と四季 各一本 計七本)
【急募:警戒心】
「遊びきた!」
「来んな」
「一ノ瀬さん!」
「おっすおっす、遊摺部。……俺は別に気にしねえけど他の女の子…特に屏風ヶ浦の足ガン見するのはやめろよ。」
「それは大丈夫です。僕、一ノ瀬さんの生足フェチなので!」
「ふーん…?よく分かんねえけど見ねーならいいよ」
どっこいせーと床に座り込んだ四季の隣に寄った遊摺部がちょこんと座る。羅刹女子三人組お揃いのルームウェアを着ている為、後はもう寝るだけらしい。四季が「これさーチャラ先がくれたやつ。」とポテトチップスを開封しぱくと口に含む。遊摺部も律儀にお礼を言って口に含んだ。何か菓子パが始まってる。
出ていく様子のない四季を見て、深く息を吐いた皇后崎は「…漣は?」と首を傾げる。
「ロクロんとこ!矢颪はもーちょいトレーニングしたら寝るって。んで、屏風ヶ浦は寝た。」
「この味、意外といけますね。」
「な!こういう美味いのに限って期間限定なんだよなー」
「…はあ…だからってこっち来んな。無陀野にも言われただろ」
「う゛…、でも、まだ眠くねえし…ひとりヤダもん。漣の邪魔したくねえし、屏風ヶ浦起こしたくねーし…」
「……もういい時間だろ。帰れ。んで、寝ろ。何がなんでも寝ろ。」
「えーーッ!なんで!来たばっか…」
「そうですよ。折角来てくれたんですから」
「その下心丸分かりな顔直してから言え。…いいか?よーく聞け。俺たちは男で、お前は女だ。」
「おう」
「男が女を自分の部屋に入れるのは、大抵が恋人か下心があったりするからだ。…お前、この調子だと襲われるぞ。」
「返り討ちにしてやる!」
「そういうことじゃねえーんだよ!!!バカ四季!!!普通は部屋にノコノコ入ってこねえんだよ!!」
「あ、遊びに来るくらいいいじゃねーか!」
「……ッ百歩譲って部屋に来るのは良いとしてもだ!夜に!その格好で!!来るな!!!」
「なんだよ。二人との色違いオソロのルームウェアに文句あんのかよ。かわいいだろうが」
「捲るな!!!!馬鹿!!!!!!」
【初デート?な遊摺部と四季】
※一応変装済み
「かわいい…かわいいです…かわ…かわいすぎます…」
「どーも。鼻血止まってから行こうぜ」
「え、夢?本当にかわいすぎる…生足魅惑のマーメイドすぎる…」
「しゃがむな」
「…暫く困らない……」
「触ろうとすんな、蹴るぞ。……止まったか?」
「…すみません、お待たせしました。行きましょう。時間は限られてますしね」
「おう。ゆ…シンイチって絶叫行ける感じ?」
「いえ、実は言うと遊園地に来るのは初めてなので…分からないです。乗ってみたい気持ちはあります」
「そっか。じゃあ、段々で乗ってくか!」
「ウオッ、女の子の手!!余りにもデート過ぎる!!(ナツさんにお任せします)」
「逆逆〜!つっても俺の手、豆とか出来てるからあんましいいもんじゃねえけどシンイチが楽しそうならいいよ」
「そうですか?綺麗ですよ。すごく」
号泣&土下座で懇願され「はあ…制服デート…まあ…(俺もした事ないけど)いいぜ」と了承した四季は、遊摺部の前で初めてスカートを履き遊園地へと赴いていた。遊摺部はともかく、四季は三度目の脱走だ。無陀野にバレたらシバかれるだろう。
デートというものがよく分からない四季は、周囲の人間を観察し(あ、手繋いでる。繋げばいいのか?)と真似してみる。めっちゃ喜んでるからどうやら正解だったらしい。
「…ウッ、セーラー服似合いすぎている…かわいい…見た目はギャルちっくなのにちゃんと着てる…偉かわい…」
「………」
またかわいいbotになった、と四季は小さく息を吐いた。暫く戻りそうにない。もうちょい待ってやるかーと青空を見上げた。周囲から”かわいいギャルとイケメン真面目くんのカップルがいる…”と注目されているのには全く気付かなかった。
「はい、二人とも発見。帰るよ」
「あれ、なんでここに…ってかバレちゃった。ムダ先おこ?」
「そうだね、おこだよ。プラスで隊長も、ね」
「うァァ゛!!ころされる!!!」
「あ〜メリーゴーランド乗り損ねた…」
「……因みにだけど」
「「?」」
「僕も怒ってるからね?」
「「!!!」」
「はい、そこ。仲良く引っ付かない。連行しまーす」
【二人で交わした約束】
※ちょい胸糞
「…ああ、起きた?おはよう。気分はどうかな」
いつも通りの優しい声と笑みの筈なのに何故か冷たくて怖いな、と感じた。
「…………チャラ、先…」
「……そうだ。水。はい、ゆっくり飲んでね」
ゆっくりと起き上がり、受け取った水を飲むと乾燥していた喉は幾分かマシになり試しに「あー…あー」と声を出した。「ありがと」と言って水を手渡すと花魁坂は「どういたしましてー」と受け取るとそのまま机に置いた。
二人しか居ない部屋は、シーツを擦る音が響いたように感じるほど静まり返っている。カーテンの隙間から見えた外は夕焼けに染まっていた。「皆は?」と聞こうと開いた口が手のひらで遮られる。
「…?」
「……………、本当…無事でよかった。ずっと心配で不安で心臓バックバクでさあ…ほら、俺戦闘向きじゃないじゃん?行く訳にもいかなかったからダノッチとかまっすーが四季ちゃんを連れ帰ってくれるのをただただ待ち望むだけで。いつもこんななんだよねえ、間が悪いって言うのかな?俺があと少し早く着いていれば間に合ったかもしれない鬼は居るし、よく話してた患者の死に目には会えないって感じで。」
口を塞いでいた手のひらが滑り、四季の細い首を緩く掴んだ。そのままぽすん、とベッドに倒され馬乗りにされる。四季はただじっと花魁坂を見つめ耳を傾けた。花魁坂の形の良い唇はいつも通り優しく弧を描いているが目にハイライトは入っておらず、四季はぱち、と一つ瞬きをした。
「四季ちゃん、自分が何されかけたか…ちゃんと分かってる?」
思い出す。他の鬼たちを助ける為に囮となり救援が来るまで戦い続けたが、気絶し桃の研究所のような所へ攫われたこと。鬼神の子である四季の生命力を確かめる為に、数人がかりで意識を保ったまま手足を切断されたこと。手のひらに穴をあけられたこと。それから、それから…
「……う、うん。でも…皆来てくれるって信じてたか……」
「―――強姦されかけたんだよ。」
言葉を遮られる。ぎゅ、と手に少し力がこもったようで、四季は小さく眉を顰めた。
「………分かる?俺が言ってる意味、されそうになってた行為の意味分かってる?ちゃんと理解してる?」
「………ち、……きょーや…せんせ…い」
「鬼神の子と優秀な桃を掛け合わせようって魂胆だよ。本当に反吐が出る。気持ち悪い。死ねばいいのに。ああ、いや、もう死んだんだっけ。」
少し遠くの方を見てぶつぶつと呟く花魁坂の手首に両手を添えて「京夜先生」と名を呼ぶ。気付かない。
「四季ちゃんさ、もうずっとここに居なよ。戦わなくていい。寧ろ、戦わないで…ここに居たらいいよ。でもずっと部屋に居るのも飽きるだろうから、たまには子ども達と会って話す?皆、四季ちゃんのこと好きだから。うん、そうだ。そうしよう。それがいい。最初からこうすれば良かったんだ。もう、これ以上誰も喪わないで済む。」
「―――京夜ッ先生!!」
「…………、」
やっと、目が合う。今にも泣きそうな悲しそうな…優しい目と視線が合う。そんな瞳から一筋の涙が伝い、四季の頬に落ちた。
「…………………お願い、死なないで。」
「…死なない!!!…今は、まだ弱くて…皆に心配ばっかかけてるけど…炎鬼の力を使いこなせるようになって、もっともっと強くなる!」
「………」
「京夜先生に頼りっぱで…ちょっと、怪我しないように戦うってこと…頭になかった!ごめん、たくさん心配かけて。でも、絶対に京夜先生を置いて逝ったりしない」
「………、」
ゆっくりと首にかかった手を解き起き上がる。まるで迷子の子どものように狼狽え、戸惑っている様子の花魁坂の手を握り締めぐっと距離を縮めた。
「俺が、鬼も普通に笑って暮らせる世界にする」
そうして、いつものように愛らしく元気な笑顔を見て花魁坂は(…やばい、)と思う間もなく、その柔らかい唇に触れていた。
「…………ッあ、」
じわじわと霧が晴れていくように、意識がはっきりとして花魁坂はドッと滝のような冷や汗が溢れた気がした。
「…あ、ご、ごめん…!!俺、なにやって…」
「……これすれば、京夜先生安心出来る?」
「…………………で、」
負けるな京夜!大人として!教師として!子どもに手を出す訳には………
「でき、る…」
負けた。
「近くてなんか恥ずいから、目つぶっててな。」と言って、近付いてくる四季の唇に頭の中では善性の京夜と悪性の京夜が激しく喧嘩をしている。(あの桃と同じことをしようとしてるんだよ!?大人としてちゃんと正さないと!いやいや、このくらい良いじゃん。四季ちゃんからしてくれてるんだよ?据え膳食わぬは男の恥って言うじゃん。)
「…………、」
ちゅ、と小さく触れて。開けてしまったすぐ目の前には、やっぱりかわいい四季が居て。生きて触れているという実感がぶわりと湧いて、どちらかともなく近付いてまた唇同士が触れた。
何も心配しているのは花魁坂だけではない。主犯格の桃はもちろんのこと、よく知らぬまま金の為に協力していた桃も殺そうと思ったし、実際殺した。怒っていたし心配していた。無陀野の腕の中でぐったりとした様子で救出されたのを見た時は、一瞬呼吸の仕方を忘れた。それから何とか我に返ると、四季を花魁坂の元へ運び治癒を施された。後は四季が意識を取り戻せば…という所で姿を消した。花魁坂と共に。
「出てこいや、オラ。居んの分かってんだぞオラァ」と借金取り立てのヤクザ並みに扉を叩く皇后崎と矢颪に「ア!?なんですかこれ!!ピンクになった!?絶対(自主規制)な事してますって!!!なんで止めるんですかァ゛!」と叫ぶ遊摺部。(ピンク?)(自主規制ィ…?)と思いながらも、同期を信じ、一先ず様子を見るという大人二人。いよいよ我慢の限界が来た二人が扉をぶち壊そうとしたところで、ガチャと扉が開く。
「皆心配かけてごめんなー」
「………ゴメイワクヲ…オカケシマシタ。」
けろっとした様子の四季に、顔を真っ赤にし何故か片言で話す花魁坂。あっという間に皆から取り囲まれた四季は「皆心配かけてごめん!ごめ…痛いッ!皇后崎、それ痛いッ!」とつむじをぐりぐりされていた。ぽー…と架空を見つめる花魁坂の腕をギチギチに摘んでみたが何も反応を示さないので真澄は「ケッ」と一つ零すと四季の元へ向かった。
「京夜」
「……ア、…ダノッチ…」
「………………………、大丈夫か」
色々言いたいことがあったが、取り敢えず聞いてみる。「…ア、ウン。ダイジョウブ、ゴメン」と返ってくるが、明らかに大丈夫ではない。
わんわん泣く屏風ヶ浦に抱き締められながら、矢颪と漣に頬を摘まれている四季を見て収まったかと思われた顔がまたボッと赤くなり「ォォォ…、ウォ……」と珍妙な声を上げる。微かに赤くなった頬をさすっていた四季が真澄から膝カックンされ「ウオ!」と変な声を上げた。
「…………本当に何があったんだ」
【必須科目:保健体育?】
「あっはははは!!き、キスで!子どもはできね〜よ!あっははは、かわいい〜矢颪♡ぶっはは!!」
「…………ッチ!いい加減黙れ!!」
「矢颪、矢颪〜♡手ェ繋ごうぜ♡二十歳超えてねーけど!」
「だッまれや!!!」
「なんでだよ〜いいじゃねえか。なあなあ〜」
「擦り寄って来んなッ」
ひーひーと涙を浮かべるほど腹を抱え笑う四季にギチギチと歯を食いしばる矢颪。皇后崎はこの二人のことを”クソバカコンビ”と呼ぼうか迷っている。
「馬鹿共。一つ質問するから答えろ」
「バカって言った方がバカなんだぞ、バカ皇后崎!」
「ンだよ、バカ崎」
「…子どもがどうやって出来るのか、お前らは知ってんのか」
「「……」」
ぱちぱち、と瞬きした二人は何も言わず顔を見合わせるとハッと鼻で笑い「簡単だな!」「知ってるに決まってんだろ」と言う。
「コウノトリが運んで来るんだろ?」
「男女が一緒に寝たら出来るんだろ!」
「「……はあ?」」
「鳥が赤ちゃん運んでくる訳ねえだろ!落としちゃったらどうすんだよ!危ねーだろうが!」
「アァ゛?コウノトリの事馬鹿にすんじゃねえ!慣れてるから落とさねえんだよ!そもそも、男と女が一緒に寝て出来るわけねえだろ!!」
「……………」
やはりか…と納得しつつも、どうしてここまで馬鹿二人の保健体育の知識がなっていないのか。皇后崎は深いため息を吐いた。
【ドスケべ疑惑のあるむっくん】
「むっくんはかわいいな〜」
うりうり、と頭を撫でると気持ち良さそうに「ム〜」と甘い鳴き声を出す。いつものショートパンツから覗く生白い足に体を預けるむっくんを指差して遊摺部は震える。
「皇后崎くん。あれ、良いんですか?僕的にはアウトで駄目なんですけど。一ノ瀬さんの生足に触れる所か体を乗せるなんて…ずる…羨ま…、けしからん!!です!!!」
「何も言い直せてねえぞ」
「うお…!どーしたんだよ。むっくん」
ぴょん!と胸にちっちゃいおててを乗せ、四季の頬に擦り寄るむっくんに四季は擽ったそうに笑う。落ちてしまわぬよう、四季がむっくんの体に手を添える。むっくん的にはじゃれているようで、猫のように手をふみふみする度に沈む四季の胸元を見て遊摺部は鼻血を吹き出し後ろへぶっ倒れる。
「江戸い!!!!違う!けしからん!もっとやれ!!!違うッ!!!!!!」
「遊摺部さっきからうるせーけどどうしたん。…って、鼻血。」
寝っ転がったままの遊摺部の元へ、むっくんを抱いた四季が寄ってくる。下のアングルから見える四季の…
「……………、」
「うわっ!!また血が!ちょ、大丈夫かよ?」
「ほっとけ」
余談だが、むっくんにドスケベ疑惑を抱いているのは遊摺部たった一人のみだ。
【行け!弾丸むっくん!】
“土下座して頼み込めばヤらせてくれそう”第一位を飾る(不名誉)四季であったが、最近その順位が変動…というかランキング自体が消滅しそうになっていた。屏風ヶ浦はその気弱で事を荒立てたくない繊細な性格から押せば行けると勘違いされがちだが、当人の過去のトラウマ、地雷を踏んでしまえば屏風ヶ浦の凍てつくような冷たい視線だけが突き刺さるのだ。
だが、それに反して四季は声を掛けられば元気よく明るく返し、楽しそうに雑談する。今まで異性とのそういう経験が無かった上に、皇后崎や矢颪達にドデカ信頼を置く純真無垢な四季は、性欲が絡む何たらを全く意識していなかった。傍に漣が居れば少しは違ったかもしれないが、いつも一緒に居るわけではない。故に、四季を狙う男性諸君は1人のときに声を掛けるのだ。
皇后崎は思う。四季は馬鹿だと。お菓子に釣られついて行くような馬鹿だと。悲しいことに、あながちそれも間違いではなかった。
「えッ!それマジ?ええっ、いいのか?ほんとかよ!やったあ!ありがと!」
―――ドスンッッ!!!
「っうわあ!!むっくん!!!」
四季をお菓子で釣り、部屋へ誘導しようとしていた平隊員の腰に勢いよく突っ込むむっくんの勇ましい姿。第二の漣…四季のセコムむっくん(せこむっくん)の誕生であった。
【いーや、連れて帰るね。】
―――この身はとうに、地獄へ堕ちた。
「屏風ヶ浦!」
「…!一ノ瀬さん!大丈夫でしたか…?」
「おう、なんとか。…っと、大丈夫か?」
「は、はい…すみません…貧血でまだ少しくらくらしていて…。っ!あと、あの…っ、ご、ごめんなさい…私…戦っている途中に…お、落としちゃって…」
「?ああ、ヘアピン。気にすんなって、仕方ねえよ。また他の見つけて買おうぜ」
互いに疲れ果て、四季に至ってはどこか空元気に見えるが屏風ヶ浦を気遣い優しい笑みを浮かべていた。近くでその様子を見ていた海月己代は、小さく息を吐く。無陀野含む羅刹達の生徒の協力あって被害は最小限に抑えられた。その小さな声に気付いた四季が、屏風ヶ浦と共に傍に寄ってくる。
「えーと…その服…は鬼國隊の…って!めっちゃ美人ッ!!」
一目見た時からかわいい子だとは思っていたが、そんなキラキラと目を輝かせられてしまっては……
(…………かわよ!)
胸が高鳴ってしまうのは仕方がないことだった。ふわふわとした屏風ヶ浦はかわいいし、太陽のように明るい四季もかわいいし……
(…よし。連れて帰ろう)
「「ギャッ!!!」」
「……え?え?」
「うおー!すっげ!力持ち!」
右脇に屏風ヶ浦を、左脇に四季を持ち上げた(装備した)海月は怪我を負った体とは思えない程安定した足取りで皆の元へ向かった。
「大将。この子達を連れて帰る」
「…………、分かった!!」
「待て待て待て…」
頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべあわあわする屏風ヶ浦と、よく分からないまま抵抗せずにぶらんと下がる四季と、いつもの無表情ながらどこか柔らかな空気を纏う海月。二人を交互に見て、その後じっと四季を見つめた等々力颯は大きな声で了承した。よく分かんないけど四季が来るなら断る理由もない、と言わんばかりに元気よく。鳥飼は未だ痛む頭を抑えながらそんな二人に待ったをかける。
「連れ帰るも何もその子達は羅刹の生徒で…一ノ瀬に至っては一度勧誘して断られただろ?」
「いや、関係ないな」
「当人の意思!大事だから!!」
こんな状況で「お互いにボロボロっすね」と颯に話し掛ける四季と「…お、お姉ちゃん…ど、どうしたら…」と何だかハムスターに見えてくる屏風ヶ浦。単純に血を使いすぎだ、というのもあるが海月が二人に危害を加えるつもりがないのを理解しているのか屏風ヶ浦の姉はじっとしている。「…取り敢えず苦しそうだから、降ろしてあげたら?」という鳥飼の言葉に海月は「…ごめん。苦しかった?」と言って二人を降ろす。無陀野達の先導のもと、捕らえられていた鬼たちが続々と救出されていく。が、無陀野の視線は四季達をじっと捉えており何かあれば飛んでくるのは間違いないと鳥飼は小さく息を吐く。
「へーきっす!美人な上に力持ちとかやべー」
「…大丈夫…です?」
「……………」
特に表情を変えず、無言で二人を抱き寄せた海月は「…両手に花」と零した。何かめっちゃ幸せそう。突然抱き寄せられた屏風ヶ浦は「ほぎゃ!?」と珍妙な声を上げ、四季は「…えっ?」と首を傾げる。避難諸々を終えた無陀野や、胸ぐらを掴み合い喧嘩していた皇后崎と矢颪ら羅刹の生徒たちがやってくる。
「…戯れているところ悪いが、そろそろ返してもらおうか」
視線の鋭さに鳥飼はウワーッと泣きたくなる。
「率直に言おう。この二人は私たち鬼國隊が貰い受けたい。」
「え?」
「わっ、私も!?!」
更に増した鋭さと増えた凍てつくような視線に鳥飼はウワーーッと泣きたくなりながら、海月を諭そうとするが「男は私を見るな」といつもの言葉を吐き、それから一切視線が合わない。頼む…頼む…と思いながら見た颯は「俺、断ったと思うんだけど…?」と困惑する四季に「お前は鬼神の子の力をもっと強く使いたいと思わないのか?俺達と共に来れば良い!!」と納得させようとしている。
「四季と屏風ヶ浦は羅刹の生徒だ。そう簡単に行かせる訳にはいかない」
と言う無陀野の後ろで、…俺は?と自分を指差す矢颪と自業自得ですよ、と小さく息を吐く遊摺部の姿があった。
(……男、男、男、男…あ、女の子居る…男…)
屏風ヶ浦はかわいい。四季はかわいい。
「二人を男ばかりの魔窟に置いていく訳にはいかない。」
シーンと静まった所に遊摺部が小さく「えっ」と零す。
「……え、もしかしなくても僕達のこと見ながら言いましたよね?」
「言われてんぞ、遊摺部」
「言われてんぞ、まくつ」
「僕じゃなくて!僕”たち”!…って、誰が魔窟ですか!?」
「屏風ヶ浦、まくつってなに?」
「えっ、ええっと…!えっと…ま、魔窟の…説明…!?」
無陀野の体から滲み出る殺気に、も〜〜〜〜ど〜すんの〜〜〜と泣きたくなった鳥飼であった。その後、そんな鳥飼を見て心配そうに声を掛け首を傾げる四季に、何この子かわいい〜〜わ〜〜殺気怖い〜〜となる鳥飼の姿があった。







