テラーノベル
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ふっと意識が浮上した時、自分の部屋じゃないとすぐに分かった。
それは覚醒していく中で隣にいる人物も同じことを思ったようで。
ソファーに横並びで目を覚ました俺らは顔を顰めたよ
「どこだここ」
「さぁ…?こんなとこで僕たち何させられるんですかね」
ダイニングキッチンに簡素なリビングがある部屋。
ドアはキッチンと対極のところに設置されてるようだけど如何せんドアノブがない。
「うーん。念の為、とりあえず見て回ってみましょうか」
「ですね」
ソファーから立ち上がって各々で部屋の中を見て回る。
「(なんでキッチンなんか?ここで過ごせ?それとも俺ら料理でもさせられんの…?)」
ちらりとしにがみさんを見る。
彼も困った顔しながら何か手がかりがないかと探索している。
「(もしなんか作れとかだったらどうしよ)」
昔に比べれば作れるようになったものの、未だに苦手ではある。
お米は自信を持って炊くことはできるけど。
イナリさんいつも美味しいご飯をありがとう。
この部屋を出て彼女の作ったご飯が食べたい。
なんて、リア充爆発しろとしにがみさんに言われるだろうから胸に留めて部屋の探索を続ける。
「んー…ん?うんん⁇」
「何かありましたか?」
キッチンの方で首を傾げるしにがみさんの方に近寄る。
「これ見てくださいよ」
彼が指差したのはメニュー表のようなもの。
その表紙にはこう書かれていた。
脱出方法
【ここに書かれている料理を協力して作り、一緒に楽しく食べること】
「料理…」
そんな勘外れてしまえよかったのに。
「難しいようなのとか知らない国の料理とかだったら僕、無理ですよ…」
苦い顔をするしにがみさん。
「とりあえず中を見て決めましょう」
メニュー表のようなものをパラリと捲り、2人で中を覗き込む。
「「はんばーぐ」」
比較的初心者でも作れる料理でよかった。
これなら俺でもしにがみさんでも作れそうだ。
「見てくださいよ。ご丁寧に僕たちの色のエプロンまで用意してありますよ」
「うわ、ホントですね」
紫と緑のエプロンが畳まれて置かれている。
シンク横の空いたスペースに並べてあった。
初めから俺らを閉じ込める気だったのだろうか。
変な条件とかでなくてよかったと安堵する。
ただ、すごく引っ掛かる一文。
しにがみさんも同じところに引っ掛かってるようだ。
「…作り方まで書いてくれるのはありがたいけど、これムカつきません?」
「確かに。俺ら完全にバカにされてますね」
デカデカと”初心者でも簡単に作れる!!”と書いてあった。
俺らを閉じ込めた奴はわかっててしてる節がある。
それもムカつくけど。
「腹立つなぁ」
「まぁまぁここ出たらそいつは俺が肩パンしときますよ」
「あらぁ…そいつはご愁傷様ですね。まあ同情はしませんけど。僕たちの方が可哀想な目に遭ってるんですから。それじゃよろしく頼みますねトラゾーさん」
「はーい」
エプロンを着て冷蔵庫を開ける。
ハンバーグの材料がめちゃくちゃ入ってた。
何人分やねんってくらい。
「「……」」
それが指し示すのは、いくらでも失敗してどうぞということなのだろう。
「これ、やっぱり俺らバカにされてますね」
「チクショウが!プロが悔しがるくらい美味しいやつ作ってやるよ!やってやりましょうトラゾーさん!」
「ですね、食材も勿体無いですし。慎重にすれば大丈夫ですよ」
しにがみさんは鼻息荒く意気込んでいた。
かく言う俺もバカにされたままは性に合わない
「(ノリ似てくるもんだよな。多分ぺいんとも同じこと言うと思うわ)」
あんまこういうこと、しにがみさんとしないから新鮮だ。
クロノアさんとは、ともさんたちとキャンプとかで作ることあるけど。
ぺいんとは騒がしそうだけど、嫌じゃない。
「(ま、あいつとは歳同じだし変な気を遣わないでいいからな)」
「トラゾーさん?どうかしました?」
「いや?なんか新鮮だなって。それに楽しい」
腕まくりをして手を洗うしにがみさんがにこっと笑った。
「僕も楽しいです!」
弟、とはまた違った感じだ。
でも全然不快な感じとかはしない。
俺もしにがみさんに笑い返した。
────────────────
「えーっとまずは…」
「玉ねぎをみじん切りにして炒めるですね。時間が1番かかりそうなものからしましょうか」
「…包丁で、ですよね…」
調理器具の入ってる下の戸や引き出しを開けるしにがみさんは顔を顰めていた。
「うーん…上の棚には食器ですね。炒めて柔らかくするなら多少大きくても大丈夫だと思いますけど…。俺がしますよ?」
「いえ!頑張ります!」
そう言いながら玉ねぎの皮を剥いて洗いまな板に乗せた。
「玉ねぎ切る時、目痛くなりますよね」
「硫化アリルが刺激するせいですね。そういえば冷やしてから切ったり、レンチンすると目が痛くなくなるとか…イナリさんが言ってたような」
「おぉ豆知識」
「冷やすのは時間かかるんでレンチンします?」
「痛くなくなれば何でもいいです」
「分かりました」
玉ねぎを耐熱ボウルに入れてラップをかけてレンジに入れる。
タイマーを20秒くらいにしてスイッチを押した。
「トラゾーさんはお家でもご飯作るんですか?」
「うーん…イナリさんが作ることが主ですかね。俺は得意な方じゃないですし、何より作ってても隣で微笑まれるだけで」
「あーそういえば、あえて教えないって言ってましたもんねぇ」
「合ってるのか違うのかも教えてくれないんだよなぁ…」
チン、と音がして玉ねぎがあったまったようだ。
「できましたね」
「よしじゃあ頑張って切りますよ。みじん切りですよね」
「です」
耐熱ボウルも玉ねぎも熱いから火傷しないように取り出す。
「気をつけてくださいね」
「分かってま…あ、っづ!」
「ちょ、大丈夫ですか⁈…言わんこっちゃねぇ」
「大丈夫です…っ!」
熱い熱いと言いつつ、プルプル震える手で玉ねぎに包丁をしにがみさんが入れる。
「縦と横に切り込み入れて……」
しにがみさんは呟きながら作業していく。
真剣な顔をじっと見下ろした。
データパックを作る時もこんな顔をしてるのかな、なんて思いながら。
「わわ、すべる…」
「怪我しないようにしてくださいね」
「大丈夫!僕だってこんくらいできるんですから!」
手持ち無沙汰なわけにもいかないから挽肉と卵は常温に戻し、パン粉も牛乳に浸しておく。
「よ…、…あ!ホントだ目痛くない!」
はしゃぐしにがみさんのだるっとした袖がずり落ちそうになるのを見て声をかける。
「うん?どうしました」
「袖、汚れちゃいますから折りますね」
くるくると巻き直しながら袖を折る。
それをじっと見るしにがみさんに、ん?と目を見る。
「いやぁ、トラゾーさんがスパダリだと言われる理由が分かりますよ」
「えぇ?袖折っただけなのに?」
「さりげない優しさってことですよ。トラゾーさんは優しい人ってのはみんな知ってることですけどね」
少し慣れてきたのか包丁さばきの危なっかしさが減ってた。
「優しい…?みんなも優しいじゃないですか」
「それだけじゃなくて、礼儀正しかったりね」
当たり前のことをしてるだけなんだけどな、と思いながらお礼を言った。
「年下の僕にも敬語使うとことかも」
「尊敬する人には俺敬語使いますよ?」
ぺいんとには敬語使うな!って言われたから使ってないけど。
「おっと、思わぬカウンターが…」
「しにがみさんはすごい人ですもん」
「トラゾーさんもですよ。…よし!できました!僕にしては上出来じゃね?」
まな板の上でみじん切りにされた玉ねぎたち。
「上手ですよ!流石です!」
「これぺいんとさんだったらもっと刻めよとか下手くそとか言うだろうな…」
「クロノアさんは褒めてくれるんじゃない?全肯定してくれそう」
「もうちょっと頑張ろっか?とか言いそうじゃありません?」
切ったみじん切りを見せたら思案した後確かに言いそう。
「…確かに」
「褒められて嬉しいです僕」
「頑張った人を否定することは1番しちゃダメですからね」
「あれ?遠回しにディスられてる?」
包丁を持つしにがみさんが首を傾げた。
怖っ。
「…ディスってないですから包丁置きましょう。ほら俺、大雑把なとこあるんでこんな丁寧にはできんですってことですから」
「…冗談ですよ」
の顔には見えなかったけど。
「ほら次炒めるのは俺がしますよ」
「お願いします」
フライパンに油をしき温まるのを待つ。
パチパチと音がし始め、玉ねぎを2欠けほど入れる。
「よさそうですね」
フライパンの中に玉ねぎを入れて木べらで炒めていく。
「料理って作ってる過程が楽しかったりするんですよね」
自分の手で出来上がっていくのが好きだったりする。
「えー?僕は見てる方が楽しいです」
しにがみさんは俺の手元を見ながら言った。
確かにそれも楽しい。
この食材がどうやって、どんな料理に変わっていくのか。
「そういうのも料理の醍醐味なんでしょうねぇ」
「ねー」
玉ねぎが炒まっていくいい匂いがする。
「僕たちのことに下手に見てた奴、びっくりしてんじゃないですか?こんなにうまくいくとは思ってないでしょうね」
「ホントに。俺らやれば出来る子ですもん」
きっと手を切りそうになったり、玉ねぎ切る時に泣きながらしたり、びくつきながら炒めるとか思ってたんだろうな。
こんなゆっくりとたわいもない会話をしにがみさんとするのも新鮮だ。
「真面目ですからね」
「ね」
しんなりするまで炒めた玉ねぎをお皿に移して冷ますために広げる。
「トラゾーさん家のハンバーグってソース何かけてます?」
「えー?その時々で違うかなぁ。しにがみさんは?何のソースが好きなんです?」
「僕は美味しかったら何でも。まぁ、スタンダードにデミグラスとかですかね」
「美味しいですもんね」
「ケチャップだけとかのシンプルなのも割と好きですけどね」
ボウルに常温に戻していた挽肉を出して塩胡椒を振る。
「でもトラゾーさん手慣れてますね」
「そう?」
「はい、主夫って感じ。絶対いいお父さんになりますよあなた」
「あ…ありがとうございます」
「いいなぁ結婚」
「しにがみさんにもいい人できますよ。自信持ってください」
素手はと思って使い捨てできるプラ手袋をつけた。
まだ少し熱いけど玉ねぎをその中に入れ、卵とツナギのためのパン粉も入れてこねる。
「俺が保証します。しにがみさんはすごくいい人なんだから」
「ありがとう、ございます」
褒め合って少し照れ合う。
しにがみさんとのこういう無理のないやり取りも俺は好きだったりするから。
「順調ですなぁ」
「そうですねぇ」
こねた肉の空気を抜くために、丸めてボウルに叩きつける。
あまり強くすると飛び散るからそれなりの力で。
「それ楽しそう。僕もしてみてもいいですか?」
「どうぞ」
ボルダリングをしてるというしにがみさんの手にはマメとかができてる。
背は低いけどちゃんと男の人の手だ。
ぺしっ、ぺしっと丸めた肉ダネを楽しそうにボウルに叩きつけてる。
「ある意味ストレス発散になりますねー」
「料理してる時ってそのことしか考えれないからいいって言いますし」
「でも僕料理するなら1人よりみんなとがいいな」
「日常組で?それは面白そう」
「チーム分けしてするとか楽しそうじゃないですか?」
「そんなん相方はクロノアさん一択になるでしょ」
「ぺいんとさんは1番最初に除(の)けますね」
1番慌てそうではある。
クロノアさんは落ち着いてるもんな。
「今度集まった時してみる?イナリさん監修の元」
「微笑まれながら見られるだろうな…こいつら何してんだろって」
「ふはっ」
「クロノアトラゾーペアなんかになったら僕の方ダメじゃん」
「ぺいんとも頑張るかもよ?応援を」
「応援かい!」
パァン!とツッコミ入れながらボウルに肉ダネを叩きつけ終わったしにがみさんにナイスツッコミと笑った。
「いい感じにできましたね」
「あとは焼くだけ。そのあとは一緒に食べるでしたね」
メニュー表のようなものにはそう書いてあった。
「じゃあ丸めて焼いていきましょうか」
それぞれ食べれる大きさに肉ダネを取り、丸めて真ん中をへこます。
こうしないと中の空気が膨張して割れてしまうらしい。
中学や高校の時の調理実習で習った。
「確かに初心者向けではあるよな、ハンバーグって」
「癪だなぁ…。難しいのもやだけど」
「言えてる」
油を引き、温まったそこに跳ねないようにそっと置く。
パチパチと音を立てるのと同時に、あとちょっとで脱出か、と若干の寂しさもあった。
「あとちょっとで脱出ですね」
「えぇ」
「ここ出たら僕はまたひとりかぁ…」
いい匂いがし始めたタネを見つつ横目でしにがみさんを見る。
ちょっと寂しそうな顔をしていた。
「遊びに行きますよ?ハンバーグの材料持って」
「え」
「それでぺいんとやクロノアさんに食べさせてあげましょうよ」
「!、そうですね!バカにしそうなぺいんとさんを見返してやりましょうよ!」
しにがみさんはにこっといつもの笑顔に戻った。
「ぐうの音も言わせねぇようにしてやりましょう」
悔しがるぺいんとを宥めるクロノアさん。
それを鼻で笑うしにがみさんと一緒に笑ってる俺。
容易く想像できることに笑う。
「そろそろひっくり返しましょうか」
フライ返しでひっくり返せばいい焼き目がついていた。
「おー!いい色!」
「俺、完璧じゃん」
たくさんあった材料は勿体無いが無駄にしてしまうよりもマシかと思う。
俺が焼いてある間、使った器具をしにがみさんが洗ってくれた。
「なんかずっと緊張しててから急にお腹空いてきた」
「いい匂いもしますもんね」
弱火にして蒸し焼きにしていく。
そういえばここでした事象は現実にカウントされるのだろうか。
「(ま、いっか)」
焼き上がるのを、楽しそうに見つめるしにがみさんを見ながらそれはそれこれはこれだと水を差すようなことはやめとこうと頭から追い出した。
「「わぁ」」
焼き上がったハンバーグは美味しそうだ。
完成したそれをお皿に乗せる。
「めっちゃよくないですか⁈」
「ホントですね!」
「食べるのもったいないけど食べたい!」
子供みたいにはしゃぐしにがみさんの目はキラキラしてる。
さっきの真剣な顔もだけど、きっと完成したデータパックを俺らが楽しんでくれたのをこんな顔で見てるんだろうなと思う。
口は悪いとこあるけど、こういう素直なとこがしにがみさんのいいところでもある。
「ですね。スマホでもあれば写真撮れたけど…」
「今日のことは僕たちだけの目に焼き付いてるんで大丈夫ですよ」
ね!と満面の笑みで言われる。
確かに写真で撮ると色褪せてしまう気がするし、他の2人にも言いたくない気もする。
「うん、ですね。それで充分だ」
「冷める前に食べちゃいましょう」
「そうしましょうか」
ソースなんてものは作れないからケチャップをかける。
しにがみさんも同意済み。
好きだと言ってたし。
「じゃあ」
「「いただきます」」
一口入れる。
「「……」」
「「うまっ!」」
まさか味もちゃんとできるなんて思ってなかった。
これはかなりいいんじゃないか?
「典型的に塩と砂糖間違える、とかトラゾーさんにちょっと期待もしてたんですけど」
「おぉい」
「でも美味しい!」
「…否めないとこがありますけど、…俺らからすれば超上出来でしょ」
そりゃプロとまではいかないけど、これはかなりいい出来栄えなのではと満足しつつ二口目を口に入れる。
「一緒に作ったから余計に美味しく思うんでしょうね」
「料理は愛情!とか言いますし、気持ちを込めれば美味しく思うのってホントなんだ」
しにがみさんも二口目を口に入れていた。
「おいしくなぁれってやつ?」
「奥さんにしてあげたら喜ぶんじゃないですか?」
「俺がしてもな…なんか、違くないです?」
「してみたら案外嬉しがりそうですけどね」
どうだろうか。
やって引かれたらしにがみさんには肩パンをしてやろう。
そう思ったら、察したのか肩を震わせたしにがみさんが首を傾げていた。
その後も談笑しつつハンバーグを食べすすめる。
「「ごちそうさまでした」」
あっという間に食べ終わり、手を合わせて2人で言った瞬間ドアノブのなかったドアがガチャリと音を立て開いた。
「あ。開きましたね」
「条件達成ってことか」
「うーんなんか終わったら終わったでなんかなぁ」
「それは俺も思います」
「まぁでも遊びに来てくれるんですよね?」
「えぇ。しにがみさんが嫌になるくらい遊びに押しかけますよ」
「えそれはやだ」
「おい!」
ぶはっと吹き出し大笑いしながら開いたドアから俺としにがみさんは部屋を出た。
肩パンする為にも腕を回してたらそれを見てしにがみさんは余計に大爆笑していた。
コメント
6件
大・満・足☆
こうゆうほのぼの系も好きです!inrさんに感謝するtrzさん可愛いなぁ。(´・ω・`) snさんも可愛い ˙ᵕ˙
センシティブじゃないのに勝手にセンシティブ設定にされてる…。 何でやねん! ふゆか様リクエストありがとうございました! お気に召した内容かは分かりませんが、少しでも楽しく思ってもらえれば幸いです。