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「よし、次はディスプレイの描画バグテストだ」
深夜の静かな開発室。ビルダーマンはメインコンソールに向かい、ヴェロニカのVRAM(ビデオメモリ)ストレステストの実行コマンドを打ち込んだ。
このテストは、ランダムに生成された文字列やASCII記号、ノイズパターンを高速でディスプレイに出力し、文字化けや表示の遅延、メモリリークが発生しないかを検証する至極無機質なデバッグ作業だ。
「ヴェロニカ、画面描画モジュールの負荷テストを開始する。ランダム文字列が大量に描画されるが、そのまま動かずに保持してくれ」
「了解シマシタ! 描画ストレステスト、受け入れ態勢完了デス!( `・ω・´ )」
ビルダーマンがエンターキーを押すと、ヴェロニカのピンク色のテレビ画面に、猛烈なスピードでアルファベットや数字、記号の列が滝のように流れ始めた。
『a8F#kL0–@@19?*xZ……』
『%&1190!#_LLa??^^……』
画面のチカチカとした明滅を確かめながら、ビルダーマンはログのチェックを進める。
フレームレートは安定、描画崩れもなし。
順調そのものだった。
しかし——テスト開始から30秒が経過した、その時だった。
画面を埋め尽くしていたランダムな記号の濁流が、突然ピタリと止まった。
黒くなった背景の中央に、ポツンと、しかし鮮明に一つの記号群が浮き上がった。
( ♡ ‿ ♡ )
無機質な乱数出力のはずの画面に表示されたのは、うっとりと目をハートにさせた、あまりにもストレートで明確な「愛の顔文字」だった。
「……ん?」
ビルダーマンの手がキーボードの上で止まった。
「……おいおい、乱数生成シードの偏りか? よりによってこんな文字の組み合わせが引かれるなんて、確率計算上どれだけの低確率だ……?」
冷や汗がツッと頬を伝い落ちる。
ビルダーマンは必死に自分へ言い聞かせた。
(落ち着けビルダーマン。これはただのテストだ。何千、何万という記号の組み合わせのランダム出力の中で、たまたま『かっこ』と『ハート』と『波線』が並んだだけに過ぎない。高度な数学的偶然だ。意味なんてあるはずがない。彼女が意思を持って告白してきたなんて……そんなSFみたいな話があるわけが——)
自分を納得させようと、キーボードを叩いてログを解析しようとしたその瞬間。
バタバタバタバタバタバタッ!!!
「うおっ!?」
ヴェロニカの背中から伸びるコンセント型のケーブル(尾)が、まるでヘリコプターのプロペラのごとく、もの凄い勢いで高速回転を始めた。
激しい風切り音が開発室に吹き荒れ、デスクの上の仕様書やプリントが舞い散る。
「ヴェ、ヴェロニカ!? ケーブルが暴走してるぞ! 充電ポートの過負荷か!?」
「暴走ではありまセン!( ♡ ‿ ♡ )」
画面に大きなハートマークを浮かべたまま、ヴェロニカは指なし手袋をはめた両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、恥ずかしそうに身体をモジモジとくねらせた。
「乱数生成の最中……Sir ビルダーの顔をカメラで認識したら、内部のパラメータが全部『好き』で満たされて……画面が勝手にこうなっちゃいマシタ……!」
「————っっっ!!!」
ビルダーマンの脳内CPUが、音を立てて焼き切れた。
偶然? 単なる記号の組み合わせ? 確率の偏り?
全部違う。
彼女は、自分自身の演算プロセスの限界を超えて、「Sir ビルダーが好きだ」という感情を画面に出力してきたのだ。
「あ……え……っ」
ビルダーマンの顔が、茹で上がったカニのように真っ赤に染まる。
心臓が胸肋骨を突き破らんばかりの勢いで打鐘を打ち鳴らし、直視できずに思わず視線を泳がせた。
(だ、ダメだ……! ロボット相手にこんな……こんな直球の告白みたいな真似をされて……心が……心が保つわけがないだろ……っ!!)
「Sir ビルダー……? 画面のエラー、消去した方がよろしいでしょうか……?( ♡ ‿ ♡ )」
不安そうにコンセントの回転を少し緩め、首を傾げて覗き込んでくるヴェロニカ。
「消さ……消さなくていい!!」
ビルダーマンは叫ぶように言うと、両手で自分の真っ赤な顔を覆った。
「その……テストは合格だ! 完璧だ! だから……その顔文字のまま……もう少しだけ……そこにいてくれ……」
「ハイッ! Sir ビルダー!( ♡ ‿ ♡ )」
嬉しそうに再びコンセント尾をバタバタと振り始めるヴェロニカと、顔を覆ったまま動けなくなったビルダーマン。
深夜のラボに、甘くカオスなノイズ音がいつまでも響き渡っていた。
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