テラーノベル
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「いいかビルダー、よく聞け」
昼下がりの給湯室。
チキンの骨を器用に突つきながら、シェドレツキーがドヤ顔で熱弁を振るっていた。
「相手が最新鋭のヒューマノイドだろうが何だろうが関係ねえ! 女(ロボット含む)ってのはな、男の『頼もしさ』と『背中』に惚れるもんなんだよ。いつまでも挙動不審にしてたら、一生『便利な開発者様』止まりだぞ! 男ならビシッとカッコいいところを見せて、主導権を握れ主導権を!」
「し、主導権って……俺とヴェロニカはそういう関係じゃ——」
「嘘つけ! 照れて顔が赤くなってんぞ! いいから行って『俺についてこい』の一言でもカマしてこい!」
シェドレツキーに強引に背中をバシバシと叩き出され、ビルダーマンはすっかりその気(毒)に当てられてしまった。
(……確かに、シェドレツキーの言う通りかもしれない。いつまでも彼女の言動に翻弄されて赤面しているばかりじゃ、制作者としても……男としても格好がつかない!)
ビルダーマンは胸を張り、キリッとした凛々しい表情を作ると、意気揚々と開発室のドアを押し開けた。
室内では、ヴェロニカが作業台の拭き掃除をしていた。
背中のコンセント型ケーブル(尾)が、ご機嫌そうに「ゆら……ゆら……」と揺れている。
「Sir ビルダー! お帰りなさいデス!( ・ω・ )」
「ふ……ただいま、ヴェロニカ」
ビルダーマンは低い声で囁くように応えると、片手をポケットに突っ込み、あえてゆっくりとした大人の歩調で彼女に近づいて行った。
視線は斜め下、ポケットに手を突っ込んだ完璧なポーズ。
頭の中では「俺が作ってやったんじゃない、お前が俺を選んだんだ」的なカッコいいセリフのシミュレーションが完了していた。
「ヴェロニカ。少し話がある。これからの俺たちの関係についてなんだが——」
そう言いながら、決めるような一歩を踏み出した、その時だった。
コリッ。
「あ」
床に転がっていた小さなM4六角ネジを、ビルダーマンの靴底が見事に踏み抜いた。
滑らかなエポキシ塗装の床の上で、ネジがベアリングのごとく回転する。
ビルダーマンの軸足は虚空を切り、全身の重心が劇的に崩れ去った。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
どっしゃーーーんっ!!!!
豪快な破壊音とともに、ビルダーマンは顔面から床へと派手にスライディング滑走を決めた。
ついでに近くにあったパーツラックに脚が激突し、プラスチックケースがガラガラと崩落して頭の上に降り注ぐ。
静まり返る開発室。
ポカンと佇むヴェロニカのピンク色のテレビ画面。
そこに表示されていたニュートラルな顔文字が、瞬時に絶句の描画へと書き換わった。
( ゚ Д ゚ )
顎が外れんばかりに口を大きく開けた、完璧な驚愕の表記だった。
「ひ……一人で勝手に自爆した……!?」
給湯室の陰から覗いていたシェドレツキーが、思わず頭を抱えて呟く。
「う……ぐぐ……っ」
床に突っ伏したまま、痛みと凄まじい羞恥心で悶絶するビルダーマン。
格好つけるどころか、人生最大級の無様を晒してしまった。
消え去りたい。今すぐこの床の亀裂に吸い込まれて消滅したい。
「Sir ビルダーーーーーーっ!!!」
ヴェロニカがパニックを起こしながら駆け寄ってきた。背中のコンセント尾がプロペラのように「ブォンブォン!」と猛回転し、風圧で周囲の紙くずが舞い上がる。
「大丈夫ですか!? 構造フレームの損壊、およびバイタル低下を確認! 直ちに緊急手当てを実施シマス!!」
「あ、いや……大丈夫だヴェロニカ、これはただ足元が滑っただけで——」
「動かないでくだサイ!( ゚ Д ゚ ; )」
ヴェロニカは素早い手つきで救急箱を取り出すと、床に倒れたままのビルダーマンの横に膝をついた。
そして、指なし手袋をはめた手で、ビルダーマンの擦りむいた鼻の頭や頬、手首、果てはどこも怪我していないおでこにまで、可愛らしいキャラものの絆創膏をペタペタペタペタッ!と容赦なく貼りまくり始めた。
「痛いの痛いの、飛んでいけデス! サーモグラフィで冷却処置も同時実行シマス!」
「むぐっ……ヴェ、ヴェロニカ、絆創膏で前が見えな——」
「じっとしていてくだサイ! Sir ビルダーの皮膚構造は非常に繊細なのデスから!」
顔中を絆創膏だらけにされ、冷やされた手で優しく頬を包み込まれながら、ビルダーマンは完全に遠い目になった。
近距離で見つめてくるヴェロニカの画面には、今や「( 。 • ω • 。 )」という真剣で健気な心配の表情が浮かんでいる。
彼女の体温と、指先から伝わる絶対的な優しさ。
(ダメだ……勝ち目がない……完全敗北だ……)
カッコつけるどころか、結局どこまでも介抱され、甘やかされる側に回ってしまった己の不甲斐なさと、彼女の突き抜けた愛おしさに、ビルダーマンは心の中で白旗を大きく振り揚げるのだった。
遠くからそれを見ていたシェドレツキーは、「……うん、惨敗だな」と静かに首を横に振っていた。
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ゆ♨️
2,102
#擬人化注意